No title
「高尾はどうした?」
体育館に着くと、早速キャプテンがオレに話しかけてきた。
「……高尾は、少し具合が悪いらしいです」
「アイツが? 珍しいな」
「高尾なら、今向こうから走って来てるぞ」
「なにっ!?」
木村さんの指差す方向を見れば、入口に確かに高尾の姿。
けれど見るからにシャツはブカブカで、女の子っぽい体系をしている。
「高尾! おとなしくしておけと言っただろう!」
「俺は納得してねぇモン」
大丈夫だって、何とかなんだろ? なんて、笑いながらノーテンキな事を言う。
何とかなるわけがないのだよ!
どこからどう見ても、高尾によく似た女の子にしか見えない。
さすがにおかしいと思ったのか、他のメンバーも高尾の回りに集まってきた。
「あれ? 高尾かと思ったら、なんか違うな」
「あぁ、女だ」
そういう声があちこちから聞こえてくる。
「えー、俺そんなにかわ……むぐっ」
「コイツは……じ、実は高尾の双子の妹なのだよ。どうしてもバスケの練習が見てみたいと言って聞かないのでオレが代わりに連れてきました」
オレのでまかせに、周囲からはざわめきが聞こえてくる。
「真ちゃん〜なんだよその設定! めっちゃ無理があるって」
「お前のその姿の方が無理があるのだよ!」
みんなに聞こえないようにひそひそと会話していると、突然誰かが高尾の肩を叩いた。
「!?」
「そうか……高尾の妹か。……結構可愛いな、おい……」
鼻の穴をこれでもかと言うほど大きく広げ、木村さんがマジマジと高尾の姿を凝視する。
「ぶっは! 木村さんスゲー顔っ! あははははっ」
「なっ!?」
ゲラゲラと腹を抱えて笑う姿は高尾のままだが、屈むとシャツの隙間から豊満な胸の谷間が見える。
ごくりと複数から喉が鳴る音が聞こえたような気がする。
だから来るなと言ったのに。
オオカミの群れに飛び込むような真似を……!
「高尾。ちょっと来いっ!」
「ふへっ!? なんだよ、真ちゃん」
半ば強引に周囲から引き離し、壁の方へと連れて行く。
「お前、ブラジャーはどうした?」
「はぁ? んなもん持ってるわけねぇだろ? 俺の妹ちゃんのを勝手に拝借するわけにもいかねぇし……見た感じ妹ちゃんよりデカい気がすんだよなぁ」
そう言いながら自分の胸を両手で持ち上げるような仕草をする。
オレの角度からだとシャツの中が丸見えで、不覚にもドキドキしてしまう。
「……」
「と、とにかく。今日はソコでおとなしくしていろ!」
「ヤダ」
「何っ!?」
「俺も一緒に練習したい。つーか、見てるだけとか無理」
「無理でもなんでも、ダメなものはダメなのだよ!」
自分の置かれている状況をわかっていないのか!? こいつはっ!
「緑間ぁ、何高尾の妹口説いてんだよ。刺すぞ? つか、一緒にやりたいって言ってんだからやらせてやれば?」
ぽんとオレの肩に手が乗ったと思ったら、後ろからダークなオーラを滲ませた宮地さんが恐ろしい事を口にした。
「さっすが宮地さん! 話がわかるぅ♪ 宮地さん大好き!」
「!?」
オレの脇をすり抜けて高尾が宮地さんの腕にすり寄って行く。
「大坪〜、コイツ高尾の代わり。いいだろ?」
でれでれと鼻の下を伸ばしながら、集合を掛けた大坪さんのもとへと宮地さんが高尾を連れて行く。
そうだ! きっと大坪さんならダメだときっぱり言ってくれるはず――。
「ふむ……名前は?」
「俺? 和……和美でぇっす☆ポジションはPG。高尾ちゃん、結構出来る子なのよ?」
なんて、あざとい上目遣いで大坪さんに参加したいと訴える。
ダメだ。女子なら女子バスケに行けと言って下さい大坪さん!
心の中でそう願ってみたが次の瞬間。
「いいだろう」
と、まさかのお許しが出た。
「よっしゃ!」
と、周囲からわけのわからない歓声が上がる。
オレはなんだか目の前が暗くなったような気がした。