No title
いつもと変わらぬ朝、オレは右手だけで眼鏡を掛けいつもの朝の一連の動作を終え、いつものように朝食を食べながらおは朝を見た。
それから部屋に戻り、オレのベッドでネコみたいに布団に包まってすやすやと安らかな寝息を立てている高尾をこれまた何時ものように揺り起こす。
「おい、いつまで寝ているのだよ。朝だぞ」
「真ちゃん……、俺まだ眠いー……もう、ちょっと……」
うっすら目を開けて、大きな欠伸をしたと思った側から再びいつものツリ目が閉じられていく。
「おいっ!」
「あと少し……5分だけ……」
コロンっと寝返った瞬間、はだけたシャツの隙間からヤツのへそがチラリと見えて、オレの目は思わず釘付けになった。
それにしても、今日の高尾は一段と可愛く見える。
ふっくらとしたその唇も、シャツの隙間から見える日に焼けていない白い肌も、形のよいその胸も、全てが愛らしく――ん……?
んん?
待てよ。
コイツに胸などあるわけがないだろう!
もう一度高尾の身体をマジマジと見てみると、確かに胸には見慣れない立派なふくらみが二つ。
おそるおそる触れてみると、とても柔らかかった。
手に吸い付くようなその感触は癖になりそうなくらいで、気が付くとオレはつい夢中になってソレを揉んでいた。
「あっ、ちょっ! 何やってんだよぉ、真ちゃ……っ」
「起きたのか。おはよう」
「おはよう。じゃ、ねぇっ! 朝っぱらからなに怪しいことしてんだっ! この変態っ!」
「……っ! す、すまない。悪気はなかったのだよ」
パッと手を離すと、高尾は真っ赤になってオレを睨みつけてくる。
「……高尾、変なこと聞くが、お前はいつから女になったのだ?」
「は? 何言ってんだよ」
訳がわからないとばかりに眉を顰め、熱でもあるのかと顔を覗き込んでくる。
「やっぱりオレが変なのか? お前に胸があるように見えるんだが……」
「胸ぇ!? まっさかぁ! 俺にんなもんついてるわけねぇだろ?」
そういいながら、自分の胸をペタペタと触る。
その表情からどんどん血の気が引いていくのが見て取れた。
「なんだこれぇ!? 俺の胸が女みたいにでかくなってる!?」
素っ頓狂な声を上げ、突然オレの目の前で服を脱ぎ出した高尾はマジマジと自分の胸を見つめる。
いつも、見慣れているはずの裸も何処となく丸みを帯びて、白い肌が余計に白く見えた。
オレは異常な興奮を覚え、堪らず目をそらす。
このままコイツ姿を見ていたら、色々と止まらなくなりそうだ。
落ち着け、落ち着けと心の中で何度も唱えながら震える手で眼鏡の位置を整える。
それなのに高尾はわざわざ目の前までやって来て、今にも泣きそうな顔をしてオレを見る。
「真ちゃん、どうしよう。俺、どうしたらいいと思う?」
「……と、とりあえず、服を着たほうがいいと思うのだよ」
「?」
はっきり言って、目のやり場に困ってしまう。
目の前にいるのは高尾だ。だが、全然いつもの高尾ではない。オレは激しく混乱していた。
せわしなく眼鏡を押し上げるオレを無防備な姿のまま不思議そうに高尾が覗き込んでくる。
「なんだよ? 真っ赤になって……真ちゃん変だぞ」
「変とはなんだ! 変とはっ! オレはいたって正常な青少年の反応だ!」
「正常、ねぇ〜、鼻血でてんぞ。このスケベ」
指摘されて鼻に手を持っていくと、真っ赤な鮮血がべったりとついてきた。
「ほら、ティッシュ。詰めとけよな」
「……っ」
なんと、マヌケな姿なんだ。
鼻にティッシュを詰め込みながら、オレはチラリと時計を見た。
もうすぐ、朝練の時間が迫っている。
「取り敢えずお前は、今日の練習は休め!」
「えぇ〜っ。大丈夫だって! つーか勝手に休んだりしたら宮地さんにどやされんだけど」
「絶対にダメだ! そんな格好で出てったら犯罪なのだよ。もしも襲われたらどうする」
「いや、犯罪って。んな物好き、真ちゃんしかいねぇっての」
「とにかく、絶対にダメだ! 今日はオレの部屋でおとなしくしていろ!」
そういうと、高尾はぶーっと頬を膨らませて、つまらなそうに押し黙った。
こんな大きな胸の高尾が先輩たちの前に出て行ったら――……。考えるだけでも恐ろしい。
オレは、恐ろしい妄想を振り払って準備を済ませ、高尾を置いて家を出た。