No title
一軍の夏の合宿は毎年海の民宿でやる!
主将の大坪先輩からそう聞かされたのは一週間くらい前のこと。
宮地先輩達から聞いた話によれば、それはそれはキツイ合宿になる。らしい。
だけど、俺は合宿が楽しみで仕方がなかった。
合宿と言えば泊まりがけ、だろ?
主将の話では部屋は二人づつの相部屋!
つーことは、俺は真ちゃんと二人っきりの夜を二晩も過ごせる!
もしかして、もしかしたら……な展開とかあったりして!?
そう思うと、自然と頬の筋肉が緩んじまう。
部活の帰りに立ち寄ったコンビニの前で、買ったばかりのジュースを開けていると、真ちゃんがジッと俺を見つめている事に気がついた。
「どうかした?」
「高尾。最近のお前は変なのだよ」
「変? 別に何もねぇけど」
「アホな面が、いつにも増して酷い事になっているのだよ」
「うわっ、酷くね? それ」
そりゃ確かに少々緊張感に欠ける顔してたかもしんねぇけど、アホはないだろ。
文句を言うと直ぐに、「事実なのだよ」と、冷たい返事。
「だってさぁ、もうすぐ合宿だろ? 俺、すげー楽しみにしてんだよな」
「フン、ガキだな」
真ちゃんが眼鏡を押上げ小馬鹿にしたように鼻で笑う。
「なんだよ、真ちゃんは楽しみじゃねぇの?」
「愚問だな。何処で練習しようと俺には関係ない」
「そーじゃなくて! その……夜、とか……」
言いながら、自分で恥ずかしくなった。
「夜? 花火大会でもあるのか?」
「お! いいね〜花火! じゃ、なくってっ!」
真ちゃんは、じゃぁなんだ? とでも言いたげな目で俺を見ている。
「〜〜ッ、もういい」
なんでこう鈍いかなコイツはっ!
普通にわかるだろっ!
言いたい事が伝わらないって、こんなにもどかしいものだっけ。
もしかして、そう言う進展を望んでたのは俺だけ?