No title
女子にはオレの理解できない、不思議な授業中の楽しみ方があるらしい。
「手紙交換?」
「そ! 授業中にさ、こっそり手紙書いて渡しあいっこするんだと。先生にばれない様に回すのが楽しいんだって。うちの妹ちゃんが言ってた」
と、ある日突然高尾がそう言いだした。
「くだらん。授業は真面目に聞くものなのだよ。それを手紙の交換などと……!」
全く、何をしに学校にきているのだ!
休み時間や放課後になればいくらでも話せるのに、それでも話足りないとは。
女と言う生き物は本当に良くしゃべる。
そして、こんなくだらないことを楽しそうに話すこの男も――。
「真ちゃんまじめ過ぎ〜っ! つかさ、ちょっと面白そうじゃね?」
「オレはそう思わないのだよ」
「取り敢えず、送るからさ」
「必要ない」
「決まり☆」
「おいっ!」
全く、どうしてコイツは人の話を聞かないんだ。
オレは手紙の交換などと言う女々しい事はしたくないと言っているのに。
数学の時間、ふと気が付くと机の片隅に小さな紙切れがひっそりと置かれていた。
「……」
いざ貰ってしまえば中身が気になるというもの。
高尾はオレに何を書いたのだ?
どうせくだらない事に決まっている。
だが……周囲には聞かれたくないような内容だったら?
しばらく逡巡したのち、先生が黒板の方を向いているのを見計らって机の下でソレをおそるおそる開いてみる。
『問5の問題、解き方教えて。全然わかんねぇ。なんか当たりそうな気がするんだよ』
「!」
予想外だった。もっと下らない事が書いてあると思ったのに。
一瞬、自分で考えろ。と、言ってやりたい衝動に駆られたが、今回だけは特別だ。
オレはノートに回答を書き、ソレを折りたたむと前に座る高尾の背をこっそりと叩いた。
一瞬ぴくりと肩を震わせたが、その直後器用に手だけがにゅっと伸びてくる。どうやら渡せと言っているらしい。
書いた回答をその手に掴ませると、ソレを開く音がして直後高尾が小さく小刻みに震え始めた。