No title
「じゃぁ、母さん達行ってくるから。留守だからってなにも悪さしちゃダメよ」
そう言い残して、高尾ママは妹を連れて出掛けてしまった。
正月恒例の親戚まわりだったが、今日は緑間と会う約束をしていた為高尾は留守番だ。
「大丈夫、だいじょーぶ♪ ちっとは息子を信じろって!」
得意の笑顔で家族を見送り、ウキウキしながらキッチンに用意されていたお節を抓んでいると、茶色の瓶が目に入った。
「お! お屠蘇発見♪ 母さん達いる時はいつもちょっとしか飲ませて貰えねぇんだよな〜」
蓋を開けると、お屠蘇特有のアルコール臭が鼻につく。
「ヘヘッ少しくらいならいいよな。正月だし」
よくわからない言い訳をしつつ、指につけてちょっと舐めてみた。飲みやすいように調合してあるのか少し苦みがあると感じる程度で飲めない事は無さそうだ。
なんとなく浮かれた気分になって家のチャイムが鳴った時には未開封だった瓶の中身が半分になっていた。
「はいはーい」
慌てて出迎えに行き、予想通りの人物の登場に思わず顔が綻ぶ。
「真ちゃんあけおめ〜」
顔を見たら何だか嬉しくなって肩に腕を回して抱きついた。
「お、おいっ! いきなりなんなんなのだよ!?」
「真ちゃんすげぇ冷たいのな……」
火照った頬に緑間のひんやりとした服が心地よい。
「当然なのだよ。外は雪だ」
「そっかぁ……」
雪が降ってるのか。家の中は暖房が効いているからわからなかった。
「それより、お前はいつまでオレに抱きついているつもりなのだよ。重いから離れろ」
「いいじゃん別に〜。俺がこうしてたいの」
へらりと笑いながら頬を摺り寄せたら甘い百合の香りが鼻腔を擽った。
「あ〜、いい匂い。すげー真ちゃんの匂いがする」
「……高尾、お前はいつもおかしいが、今日は特に変なのだよ」
「変、そぉかぁ? 俺はふつーどーりだぜ? お屠蘇をほんのすこーし飲んだだけだし〜」
指で「このくらい」と、示してみたら緑間が小さく息を吐いた。
「全く……正月早々何を……」
「いいじゃん、正月くらい。真ちゃんも飲むか?」
「いや……オレは遠慮しておくのだよ」
ほんのり頬を染めてへらへらと笑う高尾を見ていると溜息しか出てこない。せっかく会いに来てやったのにこの様はなんだと、眼鏡を押し上げながら緑間は深いため息を吐いた。