No title
ゴスッ。
「!?」
鈍い音と共に、先輩の動きが止まり、そのまま俺の上に倒れ込んできた。
「えっ? うわっ、なにっ!? 先輩どうしたんっすか!?」
「安心しろ。ちょっと打ち所が悪くて気を失っているだけなのだよ」
突然降って湧いた声の方に顔を向ける。そこには真ちゃんが怖い顔をしてゆっくりとこちらに近づいて来るところだった。
「打ち所って……なんで」
「ちょっと手元が狂ったのだよ」
「は?」
真ちゃんは平然と床に転がっている狸の置き物を拾い上げる。
「手元が狂ったって……え?」
もしかして、それ投げた?
つか、死んでないか? 先輩……真ちゃん後で絶対シバかれんぞ。
「高尾。ちょっと来い」
「……え?」
なんとか、先輩の下から抜け出した俺は、いきなり真ちゃんに腕を掴まれて体育館の外へと引きずり出された。
今日の真ちゃん、なんか変。握られた右腕が痛い。
「一体何処まで行くんだ?」
「いいから黙ってついてくるのだよ」
不機嫌さ全開でどんどん人気の無い所へと入っていく。
「なぁ、マジで今日どうし……」
言葉は最後まで続かなかった。真ちゃんがいきなり立ち止まったと思ったら、物凄い勢いで俺を抱きしめてきたから。
「――っ、し、真……っ」
「……宮地先輩にあんな姿晒して」
苦しげに呻くような呟きが耳に届く。
「お前は隙がありすぎるのだよ」
「いや、意味わかんねぇし。つかマジで何言ってんだ?」
「わからない? じゃぁわかるように言ってやる」
怖いほど真剣な瞳が俺をまっすぐに捉える。