No title
「お前は、今日が何日か知らないのか?」
「へ? 今日……?」
唐突な質問に思わず声が裏返る。そういえば最近緑間との事で頭がいっぱいで日付を確認する余裕すら無くしていた。
でも、それと昨日の出来事の何が関係しているのだろう。
繋がりがよくわからなくて首を傾げていると、緑間が目を瞑れと言ってきた。
「なんでだよ?」
「いいから黙って瞑るのだよ」
「????」
意味がわからないままに目を瞑る。すると、温かい掌が自分の左手に触れた。
何やらごそごそと音がして、指先がくすぐったい。
「なぁ、一体なんなんだよ」
その質問に緑間は答えなかった。
また無視するのかと、少し悲しい気分にさせられたが直後、開けてもいいぞと耳元で声がした。
「――え、……えっ、ちょっこれって……」
目を開けて真っ先に飛び込んで来たのは、左手の薬指にはめられたシルバーのリングだった。
ごちゃごちゃとした飾りは無くシンプルな形をしているソレはまるで測ったかのようにぴったりと指に収まっている。
「彼女は女性にしては意外と指が太くて、だいたいお前と似たようなサイズだったのだよ。誕生日に贈るなら指輪が一番だと言われて、昨日は買い物に付き合ってもらっていた……それだけだ」
「ははっ、なんだよ……それ……っ」
脱力して膝が崩れそうになった高尾の身体を緑間が支えた。高尾も緑間の腰に手をまわして、どうにか自分の足で立つ。
結局、噂は噂でしか無く、緑間の不審な行動は全て高尾を喜ばせるためのものだった。
「不安にさせて、悪かったのだよ」
自分が話さなかった事で結果的に傷つけてしまって悪かったと、緑間は真摯に詫びた。
そこに最近感じていた冷たさはなく、ホッと安堵の息を吐く。
「許さねぇよ」
「んなっ!?」
高尾の言葉に緑間は心底驚いた表情をした。その顔が可笑しくて、自然と笑みが浮かぶ。
「バーカ。冗談に決まってるだろ……たく、回りくどい事しやがって。俺……すげー不安だったんだからな」
緑間の背中に腕を回し、大きな胸板に頬を寄せる。
口ではそう言いながら、安心している高尾の心を見抜いているのだろう。緑間は高尾の髪を撫でながら俯いた顔を正面に向かせ、キスをした。
しっとりと唇を吸われ、ほんの少し開いた隙間に舌が滑り込んでくる。
「……んっ」
温かい掌を制服の裾から忍び込ませてくる。素肌に触れられると、身体がカッと熱くなった。
「真ちゃん、どうすんだよ……学校っ」
「そんなもの午後から行けば問題ないのだよ」
「うっわ。真ちゃんってズル休みもするんだ……」
「嫌なのか?」
腰を抱き、耳元に唇を寄せながら尋ねられ高尾は首を左右に振った。
「嫌なわけ、ねぇだろ」
くすっと笑いながら緑間の服を引き寄せて自分から口づける。
それが合図になり、二人は深く唇を重ね合わせた。