No title

翌日、俺が朝練に行くと珍しく真ちゃんがいなかった。

中には三年の宮地先輩が一人黙々と練習をしている。

「よぉ、早いな。高尾」

「うっす。宮地先輩こそ早いっすね」

「まぁ、俺ら三年にとって今年が最後だからな。たくさん練習して損はねぇよ」

そう言いながら、華麗にレイアップを決める。

いつも木村先輩とつるんで、真ちゃんに食ってかかってるけどやっぱ真面目にやってんだな。

軽くアップしながら眺めていると、不意に先輩が手招きをした。

「1on1やろうぜ。高尾」

「おっ! いいっすね。やりましょう」

俺たちってつくづくバスケ馬鹿だよなぁって思う。

どんだけ辛いことや落ち込むことがあっても、コートに入ると不思議と心が落ち着く。

耳に馴染んだボールの弾む音、手のひらに触れる感触。一人でやるより二人でやったほうが断然楽しい。

しかも相手は秀徳でレギュラー張ってる先輩だ。簡単に抜けるような相手じゃない。
点を取って、取り返して。負けるのは悔しいからまた点取り返して……。

「くっそ〜。やっぱ先輩強いっすね」

「そりゃそうだ。まだ一年に負けるわけにはいかねぇっての」

ベンチに並んで座り、スポーツドリンクに口を付ける。カラカラに乾いた喉に染み込む水分が心地いい。

「あ〜、まだ練習前だっつーのにすげぇ汗かいた」

暑くて仕方ないからシャツを捲くって裾でパタパタと仰いでいると隣でゴクリと息を呑む音が聞こえた。

「どうしたんすか、先輩。口半開きにして……なんか、すげーアホ面っつーか」

「なんだと? 高尾てめぇ、先輩に向かってアホ面とはいい度胸だな」

「だってすげぇ面してたし。つか、先輩目! 目ぇヤバイって!」

ゴゴゴッと地響きがしそうな程の威圧感を漂わせながら目を据わらせた先輩がジリジリと迫ってくる。

ほんの冗談のつもりだったんだけどなんか、ヤバイかも。もしかして俺、パイナップル投げつけられる!? いや、でもまだ木村先輩来てねぇし。

「先輩馬鹿にしたらどうなるか、じっくりと教えてやろう」

「……っ」

ヤバイ。と思って逃げ出そうとするより早く、にゅっと伸びてきた先輩の腕が俺の手首を掴んでベンチに万歳のような格好で倒される。

「えっ、ちょ、先輩何を――っ」

次の瞬間、ガラ空きになった脇腹にもう片方の先輩の手が伸びてきて……。

「うひゃひゃひゃっ! 宮地先輩やめっ、あはははっ! 擽るなんて、反則っ、あははははっ!」

脇の下を伝って全身に走る、感じた事もないような強烈な感覚。

とても我慢なんてできるようなレベルじゃない。

まさかこんな攻撃で来るとは思ってなかった。俺は足をばたつかせて必死に先輩の指から逃れようとしたけれど、腰の辺りに先輩が馬乗りになっていてしかも両手を押さえつけられているせいで抵抗のしようがない。されるがままだ。

「ひぁっ、ちょ何処触ってるんすかっ、はははははっマジ勘弁っ」

「高尾お前、相当弱いのな。なんだか楽しくなってきたぜ。よし! 他のメンバーが来るまで続けるぞ!」

最早当初の目的なんか何処かへ吹っ飛んで行ってしまったようで、宮地先輩は嬉々として俺の脇を擽り続ける。

「そんな、もう無理っ! ギブギブっ! アッんっ、ひゃはははははははッ」

正直笑いすぎて呼吸するのもままならない。目尻には生理的な涙が浮かび背筋がゾワゾワと粟立つ。

やべぇ、俺このままじゃマジで笑い死にするんじゃね? 

そう思った矢先――。


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