No title
「――はぁ」
ベッドに寝転がり、高尾は深い溜息を吐く。溜息を吐くと幸せが逃げていくというが、どうしても止めることが出来ない。
店を飛び出した後も、結局緑間が追いかけて来てくれることは無かった。感情的になっていたので、追いかけて来られても困るけれど、少しくらいはそんな素振りを見せてほしかったのにと高尾は思う。
結局、緑間にとって高尾はただのセックスフレンドだったと言うことだ。本気で思ってくれていたのなら他に彼女なんて作るはずがない。
大切に思っている相手を傷つけるようなことはしないだろう。少なくとも自分なら恋人を傷つけるような真似は絶対にしない。
そうでないから、簡単に嘘が吐けるのだ。
彼女がいるとわかった以上、彼との関係を続けるのは無理だ。好きだと言う思いだけでは続けていけない。
じわりと滲んで来た涙を枕にこすり付け、気持ちを落ち着かせる為に深呼吸を繰り返した。
こんなに泣いたのは久しぶりだ。小学校低学年以来だろうか?
泣きすぎて目がなんだかおかしい。
ふと窓の外に目を向けると、薄暗かった空にはいつの間にか陽が射し始め、時折鳥のさえずりが確認できる。
ベッドに寝転がりながら目覚まし時計に手を伸ばした。確認するともうすぐ朝の七時になろうとしていた。
(結局、一睡も出来なかった)
正直、今日はあまり学校に行きたくない。自分はきっと酷い顔をしているに違いないし、何より緑間には会いたくない。
だが、WCを間近に控えた今、私情のもつれで部活を休むわけにもいかない。
そんなことをしたらチームメイトにまで迷惑をかけてしまう。
それだけは絶対に嫌だ。
それに、恋人という関係は無理でも相棒というポジションだけは失いたくない。
緑間はただの友達。そう思えるようになるにはしばらく時間がかかりそうだが、それでも、一緒にバスケが出来なくなるよりはずっとマシだ。
「いつまでも落ち込んでなんかいられないもんな!」
朝の日差しを浴びながら高尾は何度もそう自分に言い聞かせた。