No title

どういう組み合わせだと言わんばかりの表情に苛立ちを覚えた。

「どうでもいいだろ! いちゃ悪いのかよ」

「別に悪くはないが……」

眼鏡を押し上げる仕草からは悪びれた様子は全く感じられない。

普段ならなんとも思わない緑間の態度が、高尾を余計に苛立たせた。

「お前こそなんでこんなところにいるんだよ。俺と帰るのは都合が悪いとか言って断ったくせに女とは一緒に帰るんだな」

嫌味な言い方をしてしまったが気を遣っている余裕はない。

「……」

緑間は何も言わなかった。悪びれたふうでもなく、握った拳をわなわなと震わせる高尾を、あっけにとられた表情で見ている。

無言のまま睨みつけると、緑間は首を傾げた。とぼけているようには見えないから、何故高尾が腹を立てているのかわからないのだろう。

噂の彼女について、どうして彼は何も話してくれなかったのか。緑間に抱いていた思いを踏みつけられたように心が軋む。ずっと信じてきた気持ちを裏切られ、所詮自分はその程度なのかと思ったら、途端に虚しくなった。

「――お前にとって、俺ってなんなんだよ」

ぽつりと高尾は問いかけた。唇を僅かに震わせながら、でもはっきりと言葉を紡ぐ。

「何を聞いても『お前には関係ない』で済ませやがって……何も話てくれなきゃ、わかんねぇだろ。俺もう、お前の事がわかんねぇよ……」

緑間は、困惑したような表情を浮かべていた。だが、ほんの一瞬後ろからやってきた彼女に視線を移しそれを誤魔化すように眼鏡のブリッジを押し上げる。

それが、すべてを物語っているような気がして、無性に悲しくなってきた。胸が押し潰されそうになり、息苦しくなって唇を開く。

「……信じてた、のに……。お前は、そんないい加減な奴じゃないって……。ずっと、ずっと、信じてたのにさ……すげー、馬鹿みたいじゃん、俺……」

周りにどんな噂話を聞かされても、実際にこの目で見るまでは信じないと決めていた。
何かの間違いだと思いたかった。

目頭がじわりと熱くなって、鼻の奥がツンと痛んだ。込み上げる思いは涙となって、今にも溢れだしそうだった。必死に堪えてみるけれど、堪えきれなくて頬に一筋の涙が零れ落ちる。

「――高尾?」

その表情にハッとして、緑間が間を詰め手がすっと伸びてきた。高尾はすかさずそれを払いのけ、ぎりっと奥歯を噛み締めた。

堰を切ったように溢れ出した涙はとどまることを知らず頬を伝ってジャケットに染みを作ってゆく。目元をゴシゴシ擦ってそれでも止まらなくて、俯いたまま拳をぶるぶると震わせた。

「ちっくしょ……お前の前で泣くつもりなんて、なかったのに……っ」

悔しいやら、恥ずかしいやらで頭の中はぐちゃぐちゃだ。

もう、我慢できない。とても耐えられそうにない。

「……もういい!」

吐き捨てるようにそう言って高尾は緑間を押しのけ、人混みでひしめく店内から走り去った。

緑間と出会ってからというもの、高尾は毎日が楽しかった。これまで経験したこともない日々の連続で、ずっと続けばいいと思っていた。それが無理でもまさかこんな終わり方をするとは考えてもみなかった。


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