No title

高尾は、最近あった出来事を順を追って黒子に説明した。緑間に彼女がいるらしいという噂のこと、最近彼が足繁く音楽室に通い詰めている事、何を聞いても「関係ない」の一言で済ませられてしまう事……。

話せば少しは楽になるかと思ったのに、胸の内に貯まった澱のような重苦しい感情は少しも晴れてくれず、時折声を詰まらせてしまう程だ。

「……俺もう、わかんねぇ。緑間のこと……」

「確かに、それは酷いです。僕なら確実に腹に一発、いえ10発はくらわせてるレベルですよ」

「ハハッ、案外過激なのなお前……」

「……安心しろ。俺は絶対黒子を悲しませるようなことはしねぇから!」

呆れた声を上げる高尾の横で、それまで黙って聞いていた火神がガシッと黒子の手を握る。

「火神君……はい。信じてますから」

ポッと頬を僅かに染めて見つめあう二人に、高尾は頭を掻き毟りたい衝動に駆られた。

(マジやだ、こういうの。俺どうしたらいいんだよ。そういう事は余所でやってくれっての)

二人の世界についていけず、手持無沙汰になって何気なく窓の外に視線を移した。その瞬間。

「あれ? 真ちゃん……?」

道の向こう側に見慣れた深緑色の頭を発見し視線が集中する。車の通りが多くてよくわからないが頭一個分飛びぬけている彼は嫌でも目立つ。

(今日は都合が悪いんじゃなかったのかよ)

なんとなく嫌な予感がした。信号が変わり緑間がこちらに向かってゆっくりと歩いてくる。人ごみに紛れてわからなかったが、どうやら一人ではなかったらしい。

彼の視線の先を辿るとすぐ隣に自分たちと同じ学校の制服を着た女子が並んで歩いていた。

長い黒髪に、眼鏡。女子高生にしては長すぎるスカート。

そのどれもが噂になっている彼女の容姿とぴったり当てはまる。

ゆっくりと店に近づいて来る二人を見ているうちに変な汗が出てきた。

微妙な距離間は保っているものの、表情を和らげて会話をしている二人はまるで恋人同士のようにも見えなくもない。

今日は都合が悪いから一緒に帰れないと言っていたのに、今のこの状況は一体なんだ。
自分より、彼女との約束を優先させた――?

「――っ」

信じられないものを見てしまい目の前が真っ暗になる。

「高尾君? どうか、したんですか?」

「っ、い、いや……。なんでもねぇ。俺……ちょっと用事思い出したから帰るわ」

このままでは、緑間と鉢合わせしてしまうかもしれない。

相手はこの店に高尾がいる事に気づいていないようだったからその可能性は十分にある。

女を連れた緑間にばったり出くわすなんて、考えただけでもゾッとする。

だが、一歩遅かったようだ。

「あれ、緑間じゃん」

火神が気付いて指差した先に席を探す緑間の姿が確認できる。

注文に並んでいるのか、隣に彼女はいないようだ。

驚いたのと、気まずいのとで高尾はしばらく緑間を凝視する。

「高尾……? なぜ、こんなところにいるのだよ」

ようやく存在に気付いた緑間が近づいてきて驚いたように目を見開き、三人の顔を見比べる。


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