No title

なんとなく真っ直ぐ家に帰りたくなくて、高尾は近くのファーストフード店に足を運んでいた。

その店の一番安いハンバーガーを頬張りカウンター席から風に煽られてはらはらと落ちていく銀杏の葉を眺めていた。

緑間にとって自分は一体なんなんだろう?

何度も自問自答したが答えは見付からなくて、つい視線は下を向いてしまう。

「――高尾君?」

不意に声を掛けられハッとして顔を上げた。

見覚えのある顔ぶれに苦笑して、空になったコーラを振って合図する。

「よぉ、黒子と火神じゃん。なにやってんの? もしかして、デートとか?」

「なっ!? ちげーよ! 黒子とはさっきたまたま……」

「そう、見えますか?」

「そりゃ、まぁ……」

慌てふためく火神の横で、黒子は困ったような、どこか嬉しそうな表情をして頬を掻いた。その反対側の手は、コートで隠れてしまっているものの、火神の手としっかり繋がっている。

これだけしっかりと手を握っていて、たまたま会ったと言われても全く説得力がない。

高尾の隣に腰を下ろし、火神がぶつぶつと文句を言う。

「たく、だから言ったじゃねぇか。人前で手を繋ぐのは止めようぜって」

「いいじゃないですか。今まで沢山の人とすれ違ったけど気付いたの高尾君だけですよ?」

「そういう問題じゃねぇよ!……」

「火神君は……僕と手を繋ぐの、嫌なんですか?」

つぶらな瞳で見つめられ、火神はウッと言葉に詰まる。しばらく見つめあったまま動かない二人を眺めながら、高尾は内心うんざりした。

ここは笑い飛ばしてやるところだろうが、今の心理状態では引き笑いしか出てこない。

「嫌なわけ、ねぇだろ! 馬鹿」

「だったら、いいです」

にっこりと嬉しそうに微笑む黒子を見て、火神の頬にさっと赤みがさす。

「仲がよろしいことで……」

デートなら他の場所に行けばいいのにと思ったけれど、店内は夕方の帰宅ラッシュも重なって、混雑しており他に空いている席は見当たらない。

リア充の甘い雰囲気に充てられて、複雑な思いが胸を満たしてゆく。

なんだかんだで仲良さそうにしている二人が正直羨ましい。

自分もこんな風に緑間と接する事が出来たら……。

ほんの少し前までは当たり前だと思っていた関係が今はなんだか遠い昔のように感じて、もう何度目かわからない小さな溜息が洩れた。

「……なんか、すげー楽しそうだな……二人とも……いいな、そういう関係って」

「……」

「……」

何気なく呟いた言葉は独り言のつもりだった。火神と黒子は顔を見合わせ神妙な顔つきになる。



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