No title

それから数週間経ったある日、高尾は緑間に声をかけた。

「なぁ、真ちゃん。たまには一緒に帰ろうぜ」

今日は、教師たちの大切な会議で放課後はすべての教室を使用不可にすると朝から担任が言っていた。

勿論体育館も論外ではなく、放課後は久々のフリーだ。

流石に音楽室が使えないのだから、今日くらいまっすぐ家に帰るだろうと踏んだ高尾は思い切って「久しぶりに俺ん家来ないか?」と、声を掛けた。

一瞬、帰り支度をしていた緑間の手がぴたりと止まる。

「今日は都合が悪いのだよ」

「……今日は音楽室使えないぜ? あ、わかった! またおは朝のラッキーアイテム探しの旅に出る気だろ。心配すんなよ。そんくらい付き合ってやるから」

「違う。そうじゃない!」

眉間に皺を寄せながら、硬い声が飛んできて高尾は首を傾げる。

「じゃぁ、なんだよ?」

「……お前には、関係のない事なのだよ」

「なん、だよそれ……!」

冷たく突き放すような言い方に腹が立った。今までずっと我慢して来た思いがぐっと競り上がってきて胸が苦しい。

けれど、まだ何人か残っていたクラスメートの存在が視界に入り、怒鳴り散らしたい気分をなんとか堪えた。

「……そ、っか。……俺には関係ねぇもんな! じゃぁ俺、帰るわ」

無理やり作った笑顔を貼り付かせ、緑間に背を向けた。

これ以上話をしていたら言わなくていい事まで言ってしまいそうな気がして拳をギュッと握り締める。

背後で緑間が眼鏡を押し上げながら小さく溜息を吐いたのがわかり、泣きそうな気分で廊下を駆けた。



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