No title

「ふぁあ。よく寝た」

午前中、死んだように眠っていた高尾が目覚めた時、緑間の姿は教室のどこにも見当たらなかった。

「あっれ? 真ちゃん、どこ行ったんだ?」

「やっと起きたのか高尾。そんなにバスケ部って、きついのかよ。緑間なら音楽室に行ったぜ」

「ハハッ。いやぁ……まぁ、色々あってな〜」

クラスメイトの言葉を適当に愛想笑いで返し、そう言えば、と寝ぼけた頭をフル回転させる。よく考えてみれば緑間は先日から、合唱部に頼まれた伴奏の練習をする為、昼休みは音楽室に行くことになっていた。

なんでも、合唱部が出る筈の大会で伴奏をする予定だった娘が怪我で入院し、人手が足りないらしい。偶々合唱部の部員に緑間の特技がピアノであることを知っている帝光中学出身の娘がいたようで、声がかかったと言っていた。

最初は渋っていた緑間だったが、練習期間中は毎回おしるこを奢ってやると言う言葉につられて結局OKしたようだ。

自分だってWC目前で忙しい筈なのにどんだけおしるこ馬鹿なんだと、苦笑したのを覚えている。

「そっか……真ちゃんいないのか」

普段、一緒に弁当をつつくのが当たり前になっていた高尾は、ちょっと残念そうに呟いて自分の机に弁当を広げた。すると、近くにいたクラスメートたちが一緒に食おうぜと集まってくる。

「それにしても、高尾はよくあんな奴の側にいられるよな」

「え?」

「緑間だよ。近寄りがたくて怖い感じだろ? 時々よくわかんねぇもん机に乗ってるし」

「そりゃまぁ、おは朝信者だからな〜」

そのこだわりの所為で、何度珍事件に巻き込まれたことか。

今思い出すだけでも苦笑いが込み上げて来る。

「あいつのダチやれんの高尾くらいだよ」

「そうか? んな事もねぇよ? そりゃ俺だってまた緑間のこと全て理解出来てるわけじゃねぇけど、アイツおしるこ馬鹿だし、ツンデレだし、一緒にいて結構面白いぜ」

その感覚がわかんねぇよ。と誰かが笑えば、また違う誰かがウンウンと頷く。

(別にいーけど。わかって欲しいなんて思ってねぇし)

緑間の良さは自分だけわかっていればそれでいい。だけど、好きな相手を悪く言われるのは心理的に面白くない。

「緑間って言えばさ……最近アイツ彼女が出来たって噂があるよな」

「ぶはっ!」

突然の言葉に思わず、口に詰め込んでいた弁当のおかずを噴き出してしまった。

「うわっ、きたねーな」

「あはは。わりーわりー。でも、なんっだよその話?」

二人の関係は周囲に秘密のはずだ。絶対にバレないよう細心の注意を払っていたのに。一体何処からそんな情報が漏れたのだろうか?


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