No title
結局、昨夜はほとんど寝かせてもらえなかった。
意識を失うように眠りに付いて、目が覚めたらまた――。
(たく、どんだけタフなんだよ)
緑間と付き合うようになってからと言うもの、いつも激しく抱かれている。
別にそれが嫌なわけじゃないけれど、そういう時の緑間はいつも意地悪だ。
こっちの都合なんてお構いなし。やめて欲しいと懇願してもやめてくれた試しがない。
いつも翻弄されるのは自分の方だ。まぁ、惚れた弱みと言う奴なのかもしれないが。
時々、思う。本当は自分のことをどう思っているのだろうか? と。
実際に好きだと言ってもらったことは一度もない。勢い込んで告白してしまった時もその場の雰囲気に流されて結局彼の本当の気持ちは言って貰えずじまいだった。
つまらない英語の授業を軽く聞き流しながら高尾はぼんやりと銀杏の葉で黄色く染まった校庭を眺めていた。窓ガラスに、背後の席に座っていた緑間が立ち上がったのが写った。何気なく意識を集中させる。
昨夜の疲れも微塵も感じさせない緑間が流暢な発音で英文を読み上げている。
――やっぱ、かっこいいよな……。
成績優秀で、スポーツ万能。盲目的なおは朝信者であることが唯一の欠点だがそれ以外はなんでもソツなくこなす凄いヤツ。
その才能に憧れ、軽い気持ちで声を掛けたのが四月。あれからもう半年以上も経ったのかと感慨深いものを感じる。
四月の時点ではまさか自分たちがこんな関係になるなんて思ってもみなかったけれど……。
あの長い指先に翻弄され、散々啼かされる日が来るなんて……。
ほんの一瞬、窓ガラスを介して緑間と目が合ったような気がした。
ニッと笑顔を向けたら、それに気付いた緑間に視線を逸らされてしまい、高尾は小さく息を吐く。
別に笑いかけて欲しかったわけじゃない。だけどやっぱり恋人らしいアイコンタクトくらいあってもいいのに。
(ま、しゃーねーか。真ちゃんツンデレだし)
こんなことは日常茶飯事。性格に多少の難がある恋人には甘い関係など期待できる筈がない。そんな事は望んでいないし、いちいち気にしていても始まらない。
「ふぁあ……ねみぃ」
高尾は本日何度目かの大きな欠伸を一つすると、そのまま机に突っ伏した。
睡眠不足の状態で聞く英語の授業は猛烈な睡魔をもたらして、瞼がどんどん重たくなってゆく。正直、そろそろ限界かもしれない。
夢現の狭間で授業を聞きながら、高尾の意識はゆっくりと遠のいていった。