No title
「――高尾、お前……」
「……え、何?」
「な、なんでもないのだよ!」
真ちゃんは、何かを言いかけて直ぐに俺から視線を逸した。一体なんなんだ。
「はっはーん、もしかして気になるんだろ? 俺の好きな奴」
「フンッ、どうして俺がそんなものを気にしなければならないのだよ。高尾が誰を好きでも関係ない。興味ないのだよ」
「……興味ない、ね」
わかってたことだけど、直接言われると結構キツイ。
「そんなことより、帰るぞ」
真ちゃんは思い出したように持っていた荷物の片方を俺に差し出した。
もしかして、わざわざ持ってきて、くれたわけ?
「サンキュ♪ 真ちゃんてば、やっさし〜」
「勘違いするな。たまたま教室を出るときに置いてあるのが見えたので持ってきてやっただけの話なのだよ」
「へ〜、部室に用があったんじゃなかったけ?」
「……ぐっ」
答えに詰まった真ちゃんは、メガネを押上げてそれ以上言うなとばかりに俺を睨む。
そして、「帰るぞ」と呟くとくるりと踵を返して歩いて行ってしまう。
「あ、ちょっ! 待てって」
夕焼けに赤く染まり始めた空を見上げながら、悠然と歩く真ちゃんの横に並ぶ。
最近、ずっと雨が続いていたからかあかね色に染まる雲がとても綺麗に見える。
そして、隣を歩いているコイツの横顔もすげー綺麗。
神様ってホント不公平だよな。
なんでこんな美形を作っちまうんだか。かっこよくて、頭もよくて、おまけにバスケも上手いとか反則だろ。(まぁ、性格はかなり難アリだけど)
「……どうした? 俺の顔に何かついているのか?」
「えっ? 悪い」
ちらりと視線が合って、俺は咄嗟に顔を背けてしまった。
まさか、横顔に見とれてました。なんて言い辛い。
傍に居るだけで実はすげードキドキしてる。なんて知ったらきっと真ちゃんは軽蔑するんだろうな。
「別に……なんでもねぇ」
「なんでもないわけがないのだよ」
「!」
ふっと俺の頭上で影が差し、テーピングでぐるぐる巻きにされた左手が伸びて来て顎に触れる。