No title
「あの、高尾君……ちょっといい?」
放課後、帰り支度をしていると教室でクラスの女子に呼び止められた。
派手な感じがしない、あまり目立たなくて大人しそうな娘だ。
教室じゃ人目が気になるってんで、人気のない校舎裏に移動し、ソコで慎ましやかに思いを打ち明けられた。
「私、高尾君のことが好きなの……よかったら付き合って貰えないかな」
恥ずかしそうに地面を見つめて、俺の返事に胸をドキドキさせているのがわかる。
教室で声を掛けられた時点でなんとなく、こうなるんじゃないかって予感はしてた。
女子に告られるなんて、ごく一般的な男子生徒からしたらラッキーって感じなんだろうけど。でも俺は……。
なにか返事をしようと口を開きかけたその時、彼女の斜め後ろにある木の陰に見覚えのあるシルエットを見付けてしまった。
「……気持ちは嬉しいんだけどさ、実は俺好きな奴がいるんだ……」
そう言った瞬間、彼女は明らかに落胆していたけれど、健気に涙を押し殺して笑ってみせた。
「ごめんね。ちゃんと話してくれてありがとう」
そう言って、彼女は足早に何処かへ行ってしまった。どんな理由であれ女の子を泣かしていい気分はしない。
「――そこにいるんだろ? 出てこいよ」
彼女の気配が完璧に無くなったころを見計らって声を掛けると、木の陰では隠しきれていない大きな身体がびくりと震えた。
そして、なぜわかったんだとばかりに目を見開いたままゆっくりと姿を現す。
「盗み聞きとは真ちゃんもいい趣味してんね」
「バカを言うな。どうして俺がそんなことをしなければならないのだ。俺は部室に用があっただけなのだよ。こんな所で話し込んでいるお前たちが悪い!」
「嘘つけ。部室に行くのにこの道は通らないだろ?」
たく、バレバレだっつーの。
しかも俺らのせいにしようとするし。どんだけ俺様なんだか。
「だいたい、今日は午後の部活休みじゃん。何しに行くんだよ」
「別に。高尾には関係ないのだよ」
「あっそ。相変わらず冷てーな」
「……」
ふっと真ちゃんが黙り込んだ。メガネのレンズ越しに視線が絡む。
そのまま見つめ合うこと数秒。
なんか、そんなに見つめられると超恥ずかしい。