No title

「……そんなわけ、ないのだよ」

「へ?」

「お前は、何も分かっていないのだよ! オレが好きでもないヤツを抱くような軽薄な男に見えるのかお前はっ!」

「えっ、ちょっ……真ちゃ――」

ダンッと勢いよく手を突いて、緑間は高尾の言葉を遮りさらにまくし立てた。

「五月蝿い黙れ! オレはお前を認めている。だからこそ、お前の気持ちに応えてやりたいと思った。それなのに、思い続けるのは骨が折れる、だと!? 自分だけがオレを好きだと思っているのか!」

「あのさ、真ちゃん……ちょっと落ち着――」

「これが落ち着いていられるか! 大体にしてお前は他の奴らにいい顔をし過ぎなのだよ! お前が宮地先輩と話してる時、オレがどんな気持ちだったかお前にわかるか?」

「いや……」

「本来ならあの人に指一本も触れて欲しくないところなのにお前は何も考えずホイホイと近づいていって……お前が愛想を振り撒いてあの人が勘違いしたらどうするつもりなのだよ!!」

ハァハァと荒い息を吐きながら、真っ直ぐに高尾だけを見つめ怒りに震えるこの男は、周囲の状況などまたくもって理解していない。

それどころか更に興奮して眉を吊り上げ、口角を上げながら怒りに任せて恥ずかしい言葉を紡ぎ続ける。

「お前は好きだ好きだと言いすぎなんだ! バカの一つ覚えのように毎日毎日、オレはお前のように軽々しくそんな風に気持ちを伝える事は出来ないのだよ!」

「真ちゃ……」

「お前は一体オレの何を見てきたのだよ! あんなに愛してやっているのにそれがわからないとはお前の目は節穴なのか?」

「真ちゃんってば!」

「オレはお前を性欲処理の道具だと思ったことなど一度もない! 他ならぬお前だから抱きたいと思うのになんで――」

「だぁあっ!! 真ちゃんっ!」

流石にこれ以上は耐えられないとばかりに、高尾が言葉を遮った。

「俺が悪かった! 悪かったからもうその話題は止めようぜ」

はぁ、と盛大な溜息を吐きながら顔中真っ赤に染めて困ったように頭を掻く。

多少のデレは嬉しいけれど時と場合を選んでくれよ。と、高尾は思った。

「真ちゃんの気持ちはもう十分わかったから! もう二度と変なこと言わない! だからさ、デレんのはせめて二人っきりの時にしてくれよ」

「……」

これ以上言われると、恥ずかしすぎて死んでしまう。

そこまで言われてようやく我に返った緑間は、改めて自分のいる場所が教室であることを認識したらしい。教室をぐるりと見渡して、クラスメイト達の視線が一斉にこちらを向いていることに気が付いた緑間はさっきとは違う意味で茹でたタコのように真っ赤になり、肩をブルブルと震わせて眼鏡をくいっと押上げると、その場を脱兎のごとく逃げ出した。

「は!? ちょっ! 待って真ちゃん!? いきなりっ!?」

居た堪れない。昼食の楽しい時間を、こんな雰囲気にしてしまった事も、恥ずかしいアレやコレやを緑間に暴露されてしまった事も全てにおいて居た堪れない。

「畜生……アイツ、この場に俺を置き去りにするとかねぇだろ普通!!!!」

俺の方が恥ずかしいっつーの!!

どこをどう考えたって、これはもうフォローのしようがない。あれだけ盛大に喚かれたら弁解できる余地などなくて、高尾は愛想笑いを浮かべることしか出来なかった。

笑ってないとこの微妙な空気にはとてもじゃないが耐えられそうにない。

「騒いで悪かったな〜。せっかくの昼飯時だったのに」

申し訳なさそうに頭を掻き、クラスメイトをぐるりと見渡した。

「アイツにも空気読めって言っとくから……てか、今から言ってくるから! マジでみんな、ゴメンな」

ほんと、ごめん。と、いつもの笑顔で謝るものだから何処からともなく失笑が洩れてくる。

凍りついていた空気が変わった事に安堵して、高尾は教室を飛び出した。

緑間の行き先は多分あそこに違いないと、真っ直ぐ体育館へと向かった。


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