No title

「ちょっ、今なんかびっくりするよーなこと言われた気がするんだけどっ!」

真ちゃんが自分を押し倒す!? まさか、そんなっ。

思わず自分の姿に目をやって、アワアワと慌てて胸元のシャツを引っ張った。

まさか、そんなに意識されているとは知らなかった。

自然と鼓動が早くなり顔が火照る。

信じられない! と言った風に目を丸くする高尾の様子を見て、緑間はフンと小馬鹿にしたような笑みを漏らす。

「――冗談に決まっているのだよ。馬鹿め」

「はぁっ!? 冗談!?」

「お前のアホ面を見てみたかっただけだ。練習中にそんな事を考えるはずがないだろう」

「アホ……って、ひでぇ。つーか、心臓に悪い冗談止めろよ。笑えないじゃん」

悪趣味だ。と、高尾は思った。

今さっきのドキドキを返せ!

頬を膨らませ文句を言う高尾を視界の端で捉えたまま、緑間はクッと喉の奥で小さく笑う。

高尾は本当にいろんな表情を持っている。ゲラゲラと笑い飛ばしていたかと思ったら急に真面目な顔をしたり、膨れてみたり。

最初は随分馴れ馴れしい奴だと思っていたが、慣れてしまったのか最近はそれほど苦にならない。

むしろこうして会話をするのが楽しいと思っている自分が居る。

次はどんな表情で愉しませてくれるのか。

「で? 結局、本当は何を考えてんだ?」

「……秘密なのだよ」

ふっと小さく笑い、緑間は再び構える。

「なんだよ、ケチ〜」

「誰がケチだ。誰が! 子供かお前は」

そんな会話を繰り返しながら、シュート練習を再開した。


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