No title
(――なっ!? これは、どういうことなのだよ!?)
先生に呼び出され、少し遅れて体育館へ足を踏み入れたら高尾が宮地の頬を両手で挟み顔を近づけていた。
身長差があるため、どうしても背伸びをしなくてはならない高尾は
「少し屈んでくださいよ、宮地さん」
なんて言いながら、上目遣いで宮地をみつめる。
宮地が屈んでやると二人の距離は一層近くなり、おでことおでこが今にもくっついてしまいそうだ。
(なにがどうして、こんなことに……!?)
何故高尾と宮地がイチャイチャとしているのか理解出来ない。
あと少し宮地が顎を出したら唇が触れてしまうのではないかと思うほどの距離感に、緑間は苛立ちを感じた。
高尾が自分以外の相手に急接近している。例えどんな事情があったとしても、その事実が気に入らない。
「――はい、取れました」
「悪いな高尾。自分じゃ中々取れなくて」
「たくっ、まつ毛位水道で洗い流せばいいじゃないっすか」
「面倒だったんだよ。ちょうど近くにお前居たし」
「面倒って……別にいいっすけど、その代わり、帰りにアイス奢って下さいね。センパイ♪」
ニッと悪戯っぽい笑みを浮かべちゃっかりとアイスを強請る高尾に宮地は弱いらしく、「ちゃっかりしてるよ、お前は」と笑いながら高尾の頭をくしゃくしゃと掻き回した。
「……高尾」
「ん? おぉ、真ちゃん。どうした? そんな怖い顔して」
二人っきりの世界になどしてたまるものかと声を掛けると、直ぐに高尾が駆け寄ってくる。
「宮地さんと何をしていた?」
「なにって、目になんか入ったって言うから取ってやってただけだよ。つか何? もしかして妬いちゃった?」
ニヤニヤと卑下た笑みを張り付かせ顔を覗き込まれて、カチンときた。
「別に、妬く必要が何処にある。くだらないことを言うな」
「ふぅん、相変わらずツンデレだよな真ちゃんは」
「意味がわからないのだよ!」
少し大きな声を出してしまい、自分でも驚いた。
ムキになってしまったら、自分が妬いていると言うのを認めるようなものじゃないか。
「……っ」
なんだ、どうしたとみんなの視線が集中するのが居た堪れなくて緑間は持っていたボールを投げ捨てくるりと踵を返した。