No title
「食わねぇと溶けるぜ?」
「あ、あぁ……」
そうは言ったものの、食う気にならねぇ。つか、今はそれどころじゃねぇ。
心臓がバックンバックンと激しく脈打ってて今にも口から出ちまいそうだ。
青峰もさっきから一言も発せずに高尾の方をジッと見つめている。手に持ったアイスが溶けて甲に伝う感触はわかっても指先一つ動かすことが出来ない。
「つか、勿体ねぇし、せっかく奢ってやったんだからちゃんと食えよな」
笑いながら高尾が青峰の手に触れた。
途端に、やつの身体が大きくびくりと跳ねる。
「食わねぇなら、俺が手伝ってやろうか?」
高尾の手が青峰の手に重なる。次の瞬間、垂れて手の甲に伝っていたアイスを高尾がペロリと舐めた。
「――っうわわわわわっ!!!!!! な、な、なななっなにしやがんだてめぇっ!?」
「え〜、だって、垂れてんじゃん。勿体ねぇだろ?」
「だ、だ、だからって舐めるか普通!? ぅおっ!?」
あからさまに狼狽えてズザザザッと物凄い勢いで飛び退いた青峰はそのままベンチから転げ落ちた。
「ぶっ、ウハハハハ! 青峰が落ちた! やべー、超ウケんだけど!」
ゲラゲラと腹を抱えて笑い出す高尾。よほど可笑しかったのか目尻に涙まで滲ませて爆笑している。
それを呆然と眺めていた俺の頭上にフッと影がさす。
見上げると、呆れ顔の緑間が佇んでいた。
「……また悪趣味な事を……」
「お〜、真ちゃん。だって、可笑しくね? あの青峰が……クククッ」
「……あまりアイツをからかうな。後でややこしくなるのだよ」
溜息混じりにそう言って、緑間は高尾の腕を掴んだ。
「帰るぞ」
「りょーかい♪」
幸せそうに微笑んで立ち上がると、また遊ぼうな♪ と、手を振って高尾は行ってしまった。
「くっそ! ……アイツぜってぇ今度犯ってやる!!!」
完璧に目を据わらせた青峰が起き上がって、二人が去った方角を睨みつける。
「おいおい、なんか漢字間違ってねぇか?」
「いいんだよなんでも! つか、マジ許さねぇ!」
よほどおちょくられたのが頭に来てるんだろう。
あっぶね、一歩間違えれば俺も青峰みたいに弄ばれたんだろうか?
そう思うとゾッとした。
高尾和成。変人の相棒はやはり変人にしか務まらねぇってか?
つくずく恐ろしい男だと思った。