No title
「――んなっ!?」
「うぉっスゲー……」
「やだ……ミドリンってば……」
青峰達はこっそりとキッチンの陰から覗き、高尾の腰に腕を絡ませて擦り寄る緑間の姿をばっちりと見てしまった。
幸か不幸か緑間達は三人の存在に気付いておらず、新婚さん張りの甘い雰囲気をキッチンに撒き散らしている。
「どーしよ、俺……超ドキドキしてきたっす」
「あたしも〜」
「オイオイ、こんくらいでドキドキするとか有り得ねぇだろ」
そう言いながら、青峰がごくりと喉を鳴らし食い入るように二人の様子を伺っている。
「ちょっと、青峰っち重いっす!」
「そーだよ、青峰くん大きいんだからもっとしゃがんでくれないと見えないじゃない!」
「うっせーよ、さつき。つか、お子ちゃまには刺激強すぎんだろコレ」
ブーブーと文句を言い合いながら出歯亀を続ける三人の耳に、小さな吐息が響いて来た。
「ん……っ、真ちゃ……も、これ以上はダメだって……俺、我慢できなくなっちゃうじゃん」
「我慢などする必要ないのだよ」
「で、でも……やっ、あんっ何処触ってんだよ……ぁっ、あっダメっ!」
なんて、甘ったるい会話が交わされているキッチン。
「なんか面白くなってきたなぁオイ!」
一人テンションを上げる青峰と、あわあわと真っ赤になってどうしようどうしようとオ
ロオロする黄瀬達。
「これは夢? 夢よねきっと!」
「そ、そうっすよ! 俺達いつの間にか寝ちゃったんすね」
中学時代から緑間のイメージと違いすぎて、最早ついていけない。
「だ、だって女の子と手も繋いだ事なかった緑間くんだよ? 青峰くんがえっちな話とかしてるのを“興味ないのだよ”とか言いながら、真っ赤になって、それでもさり気なく聞いてたあの緑間くんが、だよ!?」
信じられない! と、桃井は首を振る。
「そうだったっすね。てか、桃っちの黒子っちへのアプローチにすら気付いてなかったのに……」
恋愛に鈍感で、ツンデレで、堅物だった彼のイメージが音を立てて崩れてゆく。
「ほ、ほら……高尾くんの目になんか入っちゃってそれを取ってるのかもしれない。この角度だからキスしてるように見えるだけかも」
「目にゴミが入ったのを取るのに後ろから抱く必要が何処にあんだよ。さつき〜」
「う……っ」
珍しくまともな青峰のツッコミに桃井は言葉に詰まる。
「じ、じゃぁ実はそこにいるのはミドリンのお兄さんだった……とかは?」
「緑間っちは一人っ子だって、流石の俺でも知ってるっすよ」
「つーか、じゃぁ緑間はどこ行ったんだって話になんだろ、ソレ」
青峰の言葉に黄瀬がうんうんと頷く。
じゃぁ、今そこで昼ドラみたいな事してるのはミドリン本人って事?
そりゃ男の子だし、高校に入ったら多少は免疫付くかな? なんて思ってたけれど、まさかここまで成長しているとは。
「し、信じられない……」
桃井がぼそりと呟いた瞬間、物音に気付いた緑間がこちらを見た。
そしてゆっくりと眼鏡を押上げ、フンッと鼻で笑う。
「……っか、なんかすげームカついた!」
「なんっすか!? あの勝ち誇った顔!」
ムキーッ! と、怒りを露にする二人。
「ミドリン、なんか変わっちゃったね。でも……凄く幸せそう」
相変わらず甘ったるい雰囲気を醸し出している緑間達を見て、桃井はちょっと羨ましいな、と思った。
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