No title
電話の向こうでヤッター! と、言う声が響き、眼鏡を押し上げると電話を切った。
「本当にいいのか? 気を遣っているのなら……」
「別に気なんか遣ってねぇよ。ただ、真ちゃんの中学時代のダチに会ってみたくなっただけ。よく考えたら俺、ちゃんと話した事あんの黒子だけだし」
自分が知っている緑間は高校に入ってからだ。自分の知らない彼の一面を知るチャンスじゃないか!
楽しみだなぁと素直に喜ぶ高尾とは対照的に緑間は複雑そうな顔をしている。
せっかくの二人っきりの時間を邪魔されたのだから無理もないだろう。
しばらくして、ぴんぽーんと言うチャイムが鳴り響いた。
緑間が渋々玄関に向かうと、高尾も後を追うようについてくる。
「どうも〜。お久しぶりっす☆」
「うっす。久しぶりだな、緑間」
「やっほ〜ミドリン。ごめんね〜急に押しかけちゃって」
玄関を開けた途端に、ゾロゾロと中へ入ってくる。
「なんか超久しぶりっすね緑間っちの家」
「相変わらず広いね〜。キレーだし」
キョロキョロと辺りを見回していた桃井は、高尾の存在に気がつくと「あら?」と小さな声を上げた。
「友達が来たてんだ……」
「マジか!?」
「へぇ、珍しいっすね」
口々に驚きの声を上げ、珍しいものでも見たような表情で観察され、高尾は少し困惑した。
なにをそんなに驚いているのかよくわからない。だが、取り敢えず自己紹介くらいはしないとまずいだろう。
「どーも。高尾和成です。よろしく! まぁ、こんな所で立ち話もなんだし、真ちゃんの部屋にでも行ってていいっすよ」
「真ちゃん!!?」
何気なく言ったつもりが驚愕されてしまった。
「なんだよ緑間、おめー真ちゃんって呼ばれてんのか!」
へぇ〜、ふ〜ん。と、青峰がニヤニヤしながら緑間を見る。
「じゃぁ俺もこんどから真ちゃんって呼んでいいっすか?」
「それはダメなのだよ!」
黄瀬の一言に、眉を釣り上げ緑間がはっきりとNOを突きつける。
「オレを名前で呼んでいいのは高尾だけなのだよ」
「――えっ!?」
眼鏡を押上げ、さも当然といった風に言い放った緑間をその場にいた誰もが――高尾ですら驚いて目を丸くした。
三人は一体どうなっているんだ? とばかりに高尾と緑間を見比べ、高尾はあははと笑いながら緑間の背中をバンバン叩いた。
「はははっ! 何言ってんだよ、真ちゃん。そこでデレたら色々誤解されるっしょ? 取り敢えずさぁ、お茶とか俺が適当に用意しといてやるからみんなを部屋に案内してあげなよ」
ポンと緑間の背中を叩き、当たり前のようにキッチンへ向かう高尾。
えっ? ここミドリンの家だよね?
間違ってないっすよね!?
などと戸惑う一同に首を傾げ、緑間は小さく息を吐く。
「こいつらは俺の部屋の場所くらい分かっているのだよ」
だから案内する必要などない。と、文句を言いつつ彼らを自分の部屋へ招き入れた。
「相変わらずシンプルな部屋だな、おい。ポスターの一つもねぇじゃねーか」
「ゴチャゴチャしているのは嫌いなのだよ」
キョロキョロと辺りを見回す青峰。
「良かった〜、ミドリンなんか変わっちゃったのかと思った」
と、ホッとする桃井と、それに激しく同意する黄瀬。
先ほど見た高尾とのやり取りが未だに信じられない。
「適当に座っていてくれ。青峰、人のものを勝手に触るんじゃない!」
一言そう言って部屋を出ていこうとする。
「ミドリンどこ行くの?」
「高尾だけで運ぶのは大変だろうから手伝いに行くだけなのだよ」
至極当然と言ったように、緑間は部屋を出て行こうとする。
「緑間っちが手伝いとか、ありえなくね?」
「って、ゆーか高尾君って、私たちと同じお客さん、よね?」
信じられないモノを見たとばかりに顔を見合わせる黄瀬と桃井を横目に、緑間は眼鏡の位置を整えて高尾の元へと向かった。