No title
放課後、いつものようにシュート練習に精を出していると、隣で見ていた高尾が声を掛けてきた。
「前から気になってたんだけど、真ちゃんってさぁ……」
「なんなのだよ」
「もしラッキーアイテムがセーラー服だったらどうするわけ? やっぱ着るの?」
唐突な質問に、緑間は思わず手元が狂い絶対に外さない筈のボールを取り落してしまった。
動揺を悟られぬよう、出来るだけ平静を装いボールを拾い上げると眼鏡のブリッジを押し上げた。
「……愚問だな。そんなものカバンの中に忍ばせておけばいいのだよ」
くだらない事を言うなとばかりにフンと鼻で笑う。ところが、次の高尾の言葉に緑間はぴきっと音を立てて凍り付いてしまった。
「え〜、だって気になるじゃん。ラッキーアイテムは身に着けてこそラッキーなんだろ? じゃぁカバンの中に突っ込んだままとかって意味なくね?」
「……っ!」
確かに高尾の言うとおりだ。今までだって常に肌身離さず持っていた。
セーラー服だけカバンに入れるとなると、それは本当に人事を尽くしたという事になるのだろうか?
だが、セーラー服を自分が着るなどプライドが許さない。
「そういう時は持って歩けばいいのだよ」
「ぅはっマジで!? ちょっ、セーラー服持って歩くってなんか変態っぽくね?」
「……っ」
苦し紛れに言った途端高尾が盛大に噴き出した。
確かに195cmの巨体がセーラー服を持って歩くのは流石に目立ちすぎる。
警察に職務質問されてもおかしくないレベルだ。
「大体、セーラー服などと言うものがラッキーアイテムになる筈がないのだよ」
「わかんねぇよ? そう言ってて、もし明日本当にセーラー服だったらどうすんだよ」
確かに以前「派手な水着」だとか「お洒落な洋服」と言った衣類系がラッキーアイテムになった事があるから可能性は0ではない。
高尾は面白がってニヤニヤと笑いながら
「案外似合うんじゃね? きれーな顔してんだし」などと適当な事を言う。
「オレにそんな趣味はない!」
大体、自分より高尾の方が似合うんじゃないだろうか?
人前でカチューシャを付けても平気な位だ。
一瞬、赤いカチューシャを付け、セーラー服を着ている高尾の姿が頭に浮かんだ。
お世辞にも可愛いとは言えないが中々似合いそうだ。