玄関のライトに照らされ、こちらからは逆光になっていて相手の顔が確認できない。

男は吾郎達の存在に気が付くと柱に凭れていた身体を起こしゆっくりと近づいて来る。

「……遅かったな、シゲノ」

「!?」

思わず身構えてしまった吾郎だったが、聞き覚えのある声にハッとしてその男の顔をマジマジと見た。

「キーンか?」

「あぁ」

「なんだ、お前かよ……てっきりどっかのマフィアかなんかが因縁つけに来たのかと思ったじゃねぇか」

ホッと胸を撫で下ろした吾郎とは対照的に突然現れた男の存在に寿也の表情がいっそう険しくなる。そんな寿也の変化に気付かず、吾郎は英語でキーンと話を始めた。

「失礼な奴だな。誰がマフィアだ」

「つか、なんでお前がここに? キャンプ地はフロリダじゃなかったのか?」

「……お前が日本代表に選ばれたと聞いて、からかいに来たんだ」

スッと、キーンの浅黒い手が吾郎の頬を撫でた。顎を持ち上げ二人の視線が絡む。

「――な、ぁっ!?」

あまりにも突然の出来事に絶句している寿也の目の前で、キーンが何事か吾郎の耳に囁い
ている。

「なっ、ば、バッカじゃねぇっの!? お前っ!」

頬にサァッと赤みが挿してうろたえる吾郎を見て、キーンがククッと小さく笑った。

ほんの一瞬寿也とキーンの目があった。そして、勝ち誇ったような顔をしながらフッと鼻で笑われ拳をギュッと握りしめる。

面白くない。吾郎と親しげに話しているのも、何を言っているのかさっぱりわからない事も。全てが面白くない。

「……吾郎君、コイツ何者なの?」

くいっと袖を引き、耳元で訊ねると声が怖かったのか吾郎の肩が小さく震えた。ほんの一瞬、躊躇うような素振りをみせたが、咳払いを一つしてキーンを紹介してくれた。

「コイツは去年、俺と一緒にバッテリー組んでたキーンだ」

(へぇ……これが……)

「佐藤寿也です。よろしく」

「……あぁ」

得意の営業スマイルを顔に貼りつかせ挨拶すると、キーンの眉がピクリと動いた。差し出した手を握り、にこやかに握手を交わす。

二人の間に緊迫した空気が走り、握る手に力が籠る。

「シゲノ……。コイツが前言ってたお前の恋人なのか?」

「え? あ、あぁ……まぁ……」

「ふぅん。コイツが……」

キーンの威圧的な視線を感じ、寿也の表情から笑顔が消えた。じろじろと見られるのはあ
まり気持ちのいいものじゃない。

値踏みするような目つきが気に入らなくて負けじと睨み返す。

「お、おい……なに見詰め合ってんだよ二人とも……」

強烈な威圧感を発する二人に挟まれ、吾郎の頬が思わず引き攣る。

「……まぁいい。今日はお前の顔を見に来ただけだ。邪魔したな……」

先に引いたのはキーンだった。ゆっくりと息を吐くと静かに手を振り踵を返す。

「おい、もう帰るのかよ? 飛行機でわざわざ来たんだろ?」

「あぁ、丁度こっちに来る予定があったんだ。お前、本気で俺がお前の為だけにわざわざ3時間も掛けて来たんだと思ったのか?」

「別に俺はそんな事思ってねぇ!」

「フン、ならいいんだがな。俺は明日まで同じ州にいるから寂しくなったら電話して来い。ソコの日本人よりイイ思いさせてやる」

顎で指され、寿也はムッとした。何を言っているのかはわからないが、自分にとっていい内容で無い事だけははっきりわかる。

「馬鹿っ! コイツを煽るような事言うんじゃねぇ! 言葉がわかったら俺、半殺しにされちまうつーの!」

ブルッと身震いをする吾郎の姿を鼻で笑いながら、キーンは闇に消えて行ってしまった。

(たく……相変わらず心臓に悪い奴だぜ)

「……吾郎君、さっきの彼の話……詳しく聞かせて貰えるよね?」

冷たい笑顔を貼りつかせ、にっこりと笑う寿也に不気味なオーラを感じ吾郎はヒィッと思わず身震いをした。


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