日本代表入りした翌日から、吾郎は寿也と共に遅くまで残って秘密の特訓を始めた。 若手選抜の時に使い物にならなかったフォークを完ぺきに自分のモノにする為だ。 合同練習後に特訓を始め、ようやく手応えが掴めるようになってきたのは練習開始から数時間が経過した頃。 「今日はそろそろやめにしよう」 「え? もうかよ。俺はまだまだ投げられるぜ」 不満げに声を上げる吾郎を諌め寿也は荷物を纏め始める。 「いきなり無理して明後日使い物にならなかったら困るだろう?」 「なっ!? 俺はそんな柔に出来てねぇよ!」 「君がタフなのは前から知ってる。でも、その体力は夜に取っておいて欲しいからね」 「夜?」 夜にもう一度練習でもするのか? と、首を傾げる吾郎を見て寿也はクスッと笑った。 「練習しすぎて、寝ちゃったらつまらないだろう? こんな時間まで君に付き合ってあげたんだから、夜は僕に付きあってよ」 するりと腰に腕が回り引き寄せられて、思わず頬が引き攣る。 「……おまっ、付き合うってソッチの意味かよ」 「勿論♪」 「つか、昨日ヤったばっか……」 「何言ってるのさ、あんなんじゃ足りないよ。君に会えなかった数カ月……僕がどれだけ君に飢えていたかわからないだろう?」 そんなものわからないし、わかりたくない気もする。 自分に会いたい一心で日本代表に入り、一次リーグで全戦全勝の立役者になったと言う話は聞いたし、その気持ちは嬉しいと思う。 だが……。 「寿也……まさか毎晩付き合えとか言うつもりじゃ、ねぇよな?」 「まさか。僕も流石にそこまでするつもりはないよ」 「だ、だよなぁ……」 肩を竦める寿也を見て、吾郎はそっと息を吐いた。 昔の彼なら当然だよとか言いかねない状況だったから、内心ほっとしている。 「ま、二日に一度位で十分じゃない?」 「二日に一度でも多すぎだっつーの!」 「あはは! 冗談だよ。いくらなんでもそこまで色惚けしてないつもりだよ。もうお互いセックスを覚えたての高校生じゃないんだから」 「お前が言うと冗談に聞こえねぇっつーの」 苦笑しながらホテルに向かって歩いていると、入口に黒い人影が見えた。どうみても一般サラリーマンとは思えないいいガタイをしている。 (6/11) |