日もだいぶ傾き始め、人物の区別が付けにくくなった頃、廃墟のようなモーテルで落ち込んでいる清水と合流。故障した車もキーンが無事に修理してくれてホッと胸を撫で下ろした。

「悪かったなキーン。でも、助かったぜ」

「別に構わんさ。それよりも、彼女とよろしくし過ぎてマイナー落ちしないように気を付けるんだな。ま、シゲノが女相手に勃つとは思えんが……」

「うっせー! 余計な世話だっつーの!」

ムキになって声を荒げる吾郎の姿が可笑しくてキーンはククッと僅かに肩を震わせる。

英語が殆ど理解できない薫はただ黙ってそのやり取りを眺めていた。

「なぁ、なんて言ってるんだ?」

「なんでもねぇ。お前には関係のない話だよ!」

キーンが去って行ったあと、思い切って尋ねてみたが吾郎が答えてくれるはずもなく、ぶっきらぼうなもの言いに薫は少しムッとした。

「随分と無愛想な奴だな」

「根は悪い奴じゃねぇんだけどな……エロいし、Sだし最悪だぜ」

「え?」

「い、いや。なんでもねぇ。つか、早く車出せよ」

慌ててブンブンと首を振り、その場を誤魔化すように車に乗り込む吾郎。そんな彼の様子を清水は首を傾げて不思議そうに見つめていた。


翌日の試合は、先発で登板。六回までノーヒットで抑え吾郎は着実にメジャーリーガーへの階段の手応えを掴み始めていた。

だが、そんな矢先。監督のスティシーから突然連絡が入り今夜中にロスへ向かうようにとの指示を受ける。

細かい事を何も知らされぬまま急いでロスに飛ぶ吾郎。

折角日本から来てくれた清水を置いて行くのは心苦しく思えたがニ、三日で戻れるだろうと勝手に解釈をして置き手紙だけポストに挟んでおいた。

まさかそれが、日本代表入りの通達だとは夢にも思わなかった。

ロスに着き指定された球場に足を運んだ吾郎を待ちうけていたのはなんと、父親である英毅だった。

「なんでオヤジがココに!?」

驚きを隠せない吾郎だったが、そこで始めて自分が、怪我で代表入りを辞退した勝呂に代わって日本代表に選ばれた事を知る。

突然の事に驚いて実感の湧かない吾郎。さらに驚いた事は寿也もキャンプで結果を残し堂々たる活躍で日本代表入りを果たした事だった。

「取り敢えず、お前も代表のユニフォームに着替えろ。荷物は後で纏めて持っていけばいいだろ」

「着替えろって、俺は今着いたばっかなのに休憩もなしかよ」

「まぁまぁ、吾郎君。僕らも今朝着いたばかりだから条件はさほど変わらないはずだよ。とにかく、着替えなきゃね」

ポンと新しいユニフォームを手渡され思いっきり不満を口にする吾郎。それを窘めるように寿也はそっと肩に手を置いた。

「更衣室には僕が案内するよ」

いいですよね? と、英毅に確認すると彼は一瞬戸惑ったものの小さく「あぁ」と呟いた。それを確認し寿也は吾郎の腕を引く。

「じゃぁ、吾郎君行こうか。荷物半分持とうか?」

「いいって、別に重くねぇから。このくらい自分で持てるっつーの!」

吾郎が合流してから寿也の表情が変わったのを英毅は見逃さなかった。

前々から二人の関係を怪しんではいたが吾郎がアメリカに渡り、寿也と離れた事でお互いに頭も冷え不毛な恋愛ごっこなど終わらせたのだと勝手に思っていた。

吾郎はともかく、頭の切れる事で有名な寿也ならプロになって世界が変わった事で、自分達のしていた事がいかに非生産的で馬鹿げていたか理解出来た筈。

そう信じたかったのだが、今の寿也の表情を見る限り、幼馴染としてだけでは無い何か別の感情が潜んでいるような気がして言いようのない不安を覚える。

「お、おい……着替えたら直ぐに戻ってこいよ」

「は? 当たり前だろう。何言ってんだよ親父」

英毅の言葉を軽く受け流しながら関係者用通路に消えて行く吾郎達を、英毅は困惑した顔で見つめていた。


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