「おっせーな。清水の奴一体何やっているんだよ」

メジャーのキャンプに合流していた吾郎は練習試合の後、清水との待ち合わせ場所にやって来ていた。

別れ際に応援に行くからと言った清水はその言葉どうり、大学が春休みに入ったのと同時にアメリカに来ると連絡をしてきた。

仕方なく迎えに来たのだが一向に彼女がやって来る気配がない。もしかして道にでも迷ったのだろうか?

「たく、早速面倒かけやがって」

どうしようかと迷った吾郎だったが日は段々傾いて来るし、万が一という事もある。このままほおっておく訳にもいかず渋々とある人物に連絡を入れた。

「よぉキーンか。お前確か車持ってたよな? 悪りいけどちょっと付き合ってくれないか?」

『なんだ? デートの誘いなら喜んでいくが』

「ちげーよ馬鹿。ちょっとアシが必要なんだ」

自分をアシ代わりにしようとしているとわかって、キーンはひっそりと溜息を吐いた。

『内容次第だが、俺のレンタル料は高いぞ』

「……なんだよ、チームメイトから金取るってか? でも、しゃーねぇか。なんでもいいやとにかく急ぎで頼むわ」

『……』

キーンは金を払えと言ったわけではないのだが、敢えて訂正しなかった。他の仲間の頼みなら即断っている所だが、吾郎直々の頼みとあらば聞いてやらない事もない。

キーンは仕方がないな。と呟いて電話を切ると、指定された場所へと車を走らせた。


「で?」

「で? って、お前。だからダチが日本から来てる予定なんだが全然連絡の一つもねぇ。アイツが使いそうなルート一緒に辿ってくれって言ってんだよ」

キーンと合流した吾郎は、事情を説明。なんとか車を貸して欲しいと頼み込む吾郎にキーンは肩を竦めた。

「別に貸してやらんことも無いが、相手は日本に居ると言う幼馴染か?」

だとしたら、わざわざライバルを助けてやる義理は無い。

「寿也はんな間抜けな事しねぇよ。……幼馴染にはかわりねぇが女だ。これから暗くなるし女の一人旅はあぶねぇだろ?」

「女? ほぉ、珍しい女がいたもんだな。こんな奴を追いかけて単身アメリカにくるなんて」

「うっせーっつーの! で、どうなんだよ? 行ってくれるのか?」

「行くしかないだろう。嫌だと言っても無駄だろうからな」

溜息混じりにそう言ってキーンは車のエンジンに手を伸ばす。

「サンキュ、キーン。お前なら行ってくれると思ってたぜ」

「調子のいいやつだ。ま、レンタル料はきっちりと貰うからな」

「……わかってるよ」

にやりと笑みを零すキーンに若干嫌な予感がしたものの、背に腹は変えられない。

頼るべき相手を間違えたかと思いつつ、吾郎はキーンの車に乗り込んだ。


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