「――で?」

「で? って言われてもな……」

部屋に戻ると、話を有耶無耶にする暇もなく訊ねられ吾郎は困ってしまった。

「彼だろ? 君がアメリカにいる間に寝た相手って」

「……っ!」

単刀直入に切り出され、吾郎の肩が大きく震えた。

「な、なんで……!?」

「彼の態度を見ればわかるさ。あの挑むような目つき……明らかに僕を挑発してた」

ベッドに腰掛け胸の前で腕を組みながら、気に入らないな。と呟く寿也は怖い顔をしている。

「僕が君の恋人だって事は知っているんだろう?」

「あぁ、一応話はしてたからな」

「だとしたら、いい度胸だね。ま、あんな無愛想な奴に君を渡すつもりはないけど」

ギリッと音がしそうな程拳を強く握りしめる寿也を見て、吾郎はそっと息を吐いた。

「あのなぁ……、俺はもう寿也以外の奴と付き合わねぇって。この間約束したじゃねぇか」

「確かに約束したけど、強引に迫られたら簡単に言い包められそうじゃないか、吾郎君は」

「……ぅ」

それを言われてしまえばぐうの音も出ない。実際先日、車を出して貰った際にも言い包められてしまっているので、反論のしようがない。

「だ、大丈夫だっつーの! 俺が好きなのはお前だけだから!」

「本当に? それをどうやって証明するのさ」

「しょ、証明……?」

「そぅ。証明。僕以外ともう寝ないって言う証拠見せてよ」

真っ直ぐに見つめられて、吾郎は困惑した。突然証拠を見せろと言われても、何も思い浮かばない。

しばしの沈黙。

寿也は真っ直ぐに見詰めたまま、吾郎の言葉を待っている。

「わかった。じゃぁ……毎日お前が好きだって言ってやるよ」

「言うだけ? 言葉だけじゃなんとでも言えるし、大会終わったらまた暫く会えないんだよ? そしたらそんな約束無効じゃないか」

「大会中は出来るだけお前と一緒に過ごすようにするし、大会終わっても毎日電話で言ってやるから……つーか、証明しろなんて言われたって何も思いつかねぇ」

くしゃくしゃっと頭を掻き心底困った様子の吾郎を見て、寿也は肩を竦めた。

「わかった……それで手を打つよ。ずぼらな君が何時まで約束を守ってくれるか不安もあるけど……」

「守るに決まってんだろ? これ以上寿也を悲しませる事はしたくねぇからな」

そう言って唇に触れるだけのキスをした。

「――たく、言う事だけは一人前だね。 まぁ、その言葉に騙されてあげるよ」

「だから、ちゃんと約束は守るっつーの!」

「はいはい。……それより、そろそろ行かなきゃまずいんじゃない? アメリカ戦始まる時間だよ」

「え? マジ!? うわっ、やっべ!」

ハッとして時間を確認すると、慌てて立ち上がる。

ドアの前で手を差し伸べられ、寿也は一瞬驚いて躊躇ってしまった。手を繋いでみんなが集まる所まで走るのはちょっと照れくさい気もする。

「なんだよ、どうかしたのか?」

「――ううん。なんでもない!」

はにかんだ笑顔を向け、差し伸べられた吾郎の左手に自分手を絡ませる。そして、二人同時に部屋の外へと踏み出して行った。


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