ロマンチッククラッシャー 彼とそういう関係になったのはかれこれ五年ほど前のことになる。 軽く頬を赤く染めて、好きなんだけど…と彷徨わせた瞳。 それに、僕はイエスと返事を返した。 僕たちはそれから付き合うということになったようだった。 ようだったというのは、それきり彼に付き合っているという感情をほのめかされたこともなく未だかつてキスもまだしていない状態だ。 ああ、ファーストキスはすませているのでご心配なく。 その僕と付き合っているらしき男は沢田綱吉、ボンゴレのボスである。 僕は読んでいた本を閉じ、自室のドアに視線を向けた。 それと同時に入ってきたのはクロームだ。 「どうしたのですか?」 「あの…骸様に仕事が…」 「こんな時間にですか…わかりました。クローム、お前はもう休んでいなさい」 「はい」 本をテーブルに置くと立ち上がり、クロームの頭に手を置いて頷くのを確認すると僕は部屋をでて、執務室に向かう。 クロームに用事を押し付けるなど、あのアルコバレーノはどこまで手を抜けば気が済むのか。 綱吉ならばこんなことはしない。クロームに用事を頼むとしたらあの男しかいないのである。 少し苛立ちを覚えながら、足早に廊下を歩き執務室のドアを開ければそこには綱吉とアルコバレーノがいた。 もう、彼はアルコバレーノではないが癖なので仕方ない。元より、直す気もない。 「何の用ですか」 「お前らに任務を与える」 「は?」 「……」 アルコバレーノからの言葉に僕は首を傾げた。 こんな夜更けに何をさせようというのだろうか。 それに、隣をちらりと確認すれば綱吉はもう何か知らされているのだろう、むすっとした顔で機嫌が悪いようだ。 「内容は?」 「俺が指定するファミリーの部屋にしかけてきてほしいんだぞ」 「盗聴器…?そんなことなら、僕一人で行けますよ」 「だめだ、これはツナの指導も含まれてんだ。こいつも連れてけ」 僕の能力なら容易いことだと言えば、綱吉をあごでしゃくっている。 綱吉は僕と行くのが嫌ならしくすごく逃げたそうだ。 僕が付き合っていることに不審に思うのはこれでもあった。 綱吉は僕を見ようとしない、というか僕から逃げる。それは僕が牢獄から出てきた曰くつきの人間だからか…そもそもむこうから告白して来たくせにそれはどうなのだ。 「はぁ、仕方ないですね。では、さっさと行きますよ」 「…わかったよ」 「健闘を祈る」 アルコバレーノから渡された盗聴器を持って僕たちは闇夜に隠れるようにして移動を始めた。 運転しながら隣に座る綱吉を確認するように盗み見る。 じっと座って、前を向いている。常夜灯が綱吉の表情を写すが、特に変わった様子はない。 今まで目を瞑ってきたことだが、ここなら…二人きりだし話題にしてもいいだろうか。 少し場違いな気もするが、これ以上良い条件もないだろう。 「綱吉くん、一つ聞いていいですか」 「なに?」 「以前、僕のことを好きだと言いましたよね?それは嘘ですか」 「…え」 話題にされるとは思ってなかったのだろう、綱吉の瞳が驚きに見開かれた。 でも、僕としてもこのままというわけにもいかない。 はっきりさせたいのだ…あのときは、つられるようにして了承してしまったが、今はもう止められない位に彼に溺れている。 こうして、付き合っているかもどうかわからない関係を改めてつなぎ直したいと思うほどに。 「いいえ、もう心変わりしたのならいいんです。ただ、この曖昧な関係がいつまで続くのかと思って」 「俺…嫌いだって一言もいってない…よ?」 「僕だっていってません」 「じゃあ、なんで曖昧な関係とかいうんだよ。俺、骸が良かったら…キスでもなんでも、良いと思うのに」 語尾が小さくなるが、しっかりと聞き取った声はとても頼りない。 明らかに僕の行動を待っているかのような言葉。 「あの、ですね…君が逃げるから僕はしようにもできなかったんじゃないですか」 「…それは、お前が俺のことをどう思っているのかわからなくて…」 「は?」 「俺、骸に好きって言われてないんだけど」 綱吉の衝撃的な一言に僕は思考が止まった。 そして、目的地に到着してしまった。 綱吉を確認すれば降りる準備をしてしる。 時間はないということはよくわかっているが、もう少し空気を読んでくれと思う。だが、車内が暖か過ぎたわけでもないのに耳が赤くなっているのを見たら、これ以上は仕事が終わってからの方がよさそうだと僕も綱吉のあとに続いた。 「で、どうやって中に?」 「ん…普通に」 「は?」 「リボーンがアポとってるから、それで俺が入って骸も入るんだ。で、通された部屋にそれをしかけて帰ってくる」 実に簡単な仕事だ。 これならば本当に二人でなくても大丈夫だっただろう。 むしろ、二人で行くから余計に面倒臭くなっていることに気づいているのか。 いや、あの男はしっかりと気付いているのだろう。 そして、僕たちが戸惑っているのを見て楽しんでいるに違いない。 なんて面倒な性格だとため息を一つ吐いて、もしかしてこの関係が漏れているのでは…と一瞬頭をかすめたが、綱吉自体付き合っているという感覚はなかったのだからそれはないだろう。 僕は気を取り直して、綱吉の隣に立つとベルを鳴らした。 すぐに出てきたメイドが中へと案内する。 綱吉は貼り付けたようなボスの笑顔で中へと入っていく。 僕はといえば出そうになる欠伸を噛みしめながら綱吉の後に続いた。 それからは、本当に楽だった。 アルコバレーノがどうアポを取ったのかわからないが、不審に思われることなくテーブルの下に盗聴器を仕掛けてボスの顔をした綱吉は相手に合わせつつ雑談を続け、適当に時間が経った後で、では俺達はこれで、と笑顔でその場を立ちあがった。 僕はずっと気を張っていたが、向こうが何かするわけでもなく時間にして三十分ぐらいだ。 華麗に任務を終わらせていた。 「んー…疲れた」 「改めて、君が一マフィアのボスなのだと実感しましたよ」 「そう?これぐらいは、普通だよ」 普通になってしまったんだと苦笑して、いった綱吉はなんだか寂しそうに見えて車に乗り込むと来た時よりも少し肩を丸めているせいか自分を守っているかのように見える。 この五年、僕は彼をずっと見ていた気がしたが一緒の任務はこれが一番最初。 こうしてまともに話すのだって、結構久しぶりだったりする。 これでは付き合っているつもりといわれてもしかないし、お互いに自覚が足りなさすぎた結果だと思う。 「では、君にとって…僕の存在もそうやってなんでもないと思えるようなものですか?」 「…まだそれ続いてたのか」 「僕は気になることは解決するまで気になるタイプなので」 このまま逃がしてなどやらないと車を発進させながら思えば、ため息を一つ吐いてシートに身体を預けている。 そして、暗がりの中そっと僕の手に綱吉のそれが触れた。 「あのときから、変わってない。俺は骸が好きだよ」 「そうですか」 「それだよ」 「は?」 「骸はあの時も、そうですかって言ったんだ」 綱吉にいわれて、僕はハッとして考え直してみると、確かにあのときの返事はそっけないものだったかもしれないと思い始めた。 けれど、そんなに味もそっけもない返事だっただろうか…。 「お前こそ、俺のこと好きなのか?」 「…好き、ですよ」 「本当に?」 「好きですよ」 手をぎゅっとさらに握られて、囁くように吐き出した。 綱吉はそっかと嬉しそうな声を出して、そのまま沈黙してしまった。 ああ、こんなに暗くなかったとしたら綱吉の表情も知ることができるのにと思っていたら、僕は近くの空き地に車を止めていた。 「え、どうかし…」 「許されたのなら、良かったですよ」 ギシリと僕は綱吉のシートに覆いかぶさった。 驚いた眼が閉じられて、その唇を堪能しようと重ねる。 チュッチュッと触れるだけのキスをして、もっと深くしようと舌を差し込んだ。 「っ…」 いい加減あいつらもしっかりとくっつくべきだと思ったのは、つい数時間前だった。 俺の見立てによれば五年ほど前から付き合っているはずの骸とツナの様子が一向に変わらない。 男同士の癖に、なにを操を守っているのかと俺はため息をつきたくなるほどだった。 なので、今回きっかけを与えてみた。 案の定、盗聴器からながれこんできたのは骸とツナの会話で、結局のとこと些細なすれ違いから起きた思い違いだったというのは予測できた。 そのあと、しっかりと流れてきた怪しんでいたファミリーの密会の音に俺はニヤリと笑いながら、屋敷のドアが乱暴に開かれる音に俺は顔をあげた。 「なんだ?…ツナ、どうだったんだ?」 「ちゃんと任務してきたのはわかってるだろっ」 廊下に出て自室に足早に向かうツナを見かけて声をかければ、耳まで真っ赤にして一言それだけ言うと走って部屋にいってしまった。 あの展開からすれば、今夜は帰ってこないかと踏んでいたが…二人に何の変化もなかったのかと首を傾げた。 が、それを追うようにこちらに向かってくる足音に視線を向けると左の頬を赤くした骸がツナの部屋に行くところだった。 「お前、なにしてんだ」 「なにって、舌をいれたら叩かれただけですよっ」 あの鈍感男が、と暴言を吐いてツナの部屋の前で痴話げんかをし始めた。 結果、うまくいったのだろうが…何もなかった方が静かだったかも知れないと思ったのは、口にしないでおこうと俺は思った。 END 棗さまへ 192769ヒットおめでとうございます。 リクエストの骸ツナで任務が一緒になる二人でした。 付き合っている設定にしてみましたが、どうでしたでしょうか。 もっと骸はこんな性格だ、とか思いましたら気兼ねなく苦情はききますので(笑) リボーンを出したのは結局私の中でリボーンと骸とツナというのは外せない存在だと思っているからだと思います。 リクエスト有難うございましたっ。 |