猫耳がついた話


「なんだぁ?」
「どうした、ボス?」

ある日突然、オレの頭に猫耳が生えた。
朝起きて鏡をみてびっくり、オレの頭に猫耳がついていたのだから。
ロマーリオがオレの声に素早く走ってくるが、オレの姿を見た途端指さして笑いやがった。
こんなのを恭弥が見たらどうなるのだろう…絶対笑い物になるに決まっている。

「今回恭弥に会う予定は、なしにしてくれ」
「なんで?」
「すまんボス、恭弥もうきてるぜ」

耳をどうやって隠そうかと悩んで、今回の渡日には恭弥のために時間を作ったが仕方ないとロマーリオに言うがその返事はとても気になる声が問い詰めてきて、そのあとにのんきなロマーリオの声が聞こえた。

「なっ、恭弥っ…い、いつもは来いって言っても来ない癖に今日は来たんだな」
「気が向いたんだよ。それより、あなた何をかくしてるの?」
「いや、何も隠してないって…オレは飯食うけど、恭弥はどうする?」

振り向けばもうロマーリオの姿はなく、恭弥がそこに立っていた。
何を隠しているかと問われているのを気を逸らすことで逃れようとしたが、トンファーを無言で構えられてしまい、仕方なく頭から手を離すとピョンッと耳が跳ねた。

「何、それ…」
「見ればわかるだろ?耳だ」
「猫だよ」
「猫だな。リボーンにでも盛られたんだろ?」
「馬鹿だね」
「そういいつつ、なんで触ってんだ?」

一瞬恭弥の顔が驚きに目を見開いたが、何故か笑い飛ばす様子もなくトンファーを下ろして近づいてくる。
恭弥の言葉に答えてやると手か伸びてきて、オレの猫耳をふにふにと触っている。
心なしか、少し嬉しそうにも見える。そして、恭弥がよく鳥と遊んでいるのを思い出せば純粋に動物が好きなんだなと思い当たった。

「…もしかして、気に入った?」
「悪くないと思うよ」

どうやら気に入ったらいい。
気に入ってくれているのなら、笑われる心配もないだろう。
恭弥の反応に安心しながら触らせていると、なんだかやめる気配がない。

「恭弥、なんかずっと触られてっとくすぐったいんだけど?」
「…ああ、神経も通ってるんだ」

動くだけなのかと思っていたらしい、くすぐったいとわかれば少し名残惜しげに手が離れていく。

「今日はどうしたい?」
「別に、したいことなんてないけど」
「仕事は?」
「片づけてきたに決まってるだろ?あなたといるとすぐには帰れないからね」

面倒くさそうに言われた言葉には少し説教も混ざっている。
きっとこの前仕事があると言っていたのに無理やりなだれ込んだことをいまだに怒っているのだ。
あれはオレだって悪いとは思っているが、三か月ぶりということでちょっと…我慢がきかなかった。
そのせいで、ヘタレ馬だの種馬だの散々な言われようだったのだ。もうそろそろ、忘れてくれてもいいと思う。

「でも、片づけてきたなら…話は早いよな」
「は?ちょっと、何押し倒してるの?」

どきなよ、とか噛み殺すよとか聞こえてきたがこの際無視だ。
あれから恭弥に会うのも二カ月半ぐらいになる。今回も我慢は効かない。
もう種馬だろうがなんでもいい準備万端な恭弥が目の前にいるのに、どうして我慢できよおうものか。
抵抗してくる恭弥の手をやんわりと取り上げて、頭の上にまとめて固定させもう片方の手で恭弥のシャツを脱がしていく。
ボタンを少し手間取りながら外していけば手の指先が突起に触れてビクリと身体が震えた。
本人も何が起こったのか理解できずに目をぱちくりしていた。

「恭弥だって、満更でもないんだろ?」
「っ…煩いっ!!」

図星をつくと頬を真っ赤にして叫んだ。丁度耳元だったので、少しダメージをくらってしまう。
でも、次はそうならないように顔を離して恭弥のズボンに手をかけた。だが、ズボンは片手ではさすがに脱がしづらくどうしようかと迷っているとシュルッと尻尾が見えた。

「あれ?オレって尻尾も生えてたんだな…これじゃ、本物のネコみたいだな」

尻尾の感覚を確かめるように左右に振ると恭弥のズボンと下着をずらしてその隙間に尻尾を挿入した。
これなら気を逸らせて片手でも脱がせられると笑えば、自身を刺激されてビクッと身体を震わせた。

「うあっ…やめて…っ」
「ネコに犯されるのってたのしくねぇ?」
「んっ…楽しくなんか、ないよっ!」

必死で抵抗しているが、身体を宥めるように撫でるたびだんだん抵抗する腕に力が入っていかなくなる。
意外にもノリノリなんじゃないかという言葉は呑み込んで、服を脱がさせてやると素肌をネコのように舐めまわした。
とがった突起に口づけ、胸の周りや首筋へ赤く鬱血した跡を残す。

「なぁ、恭弥…恭弥が欲しくてたまんねぇよ。いいだろ?今回は逢えないと思ってたんだし」
「逢えないと思ってたんなら…ぁ、んんっ…僕は、帰る…アァッ」
「帰んないで…オレは、恭弥に逢えたの嬉しいんだから」

帰ると言ってしまう相手を引きとめるように片手で抱きしめて尻尾で自身を扱き始める。
すると、恭弥は体をくねらせて快楽にうち震え結局身体から力が抜けてオレは拘束していた腕を離した。
そうして、尻尾で自身を扱きながら秘部に手を伸ばした。

「そこは…んっ、やぁ…」
「嫌じゃないだろ?すげー、こここんなに濡れて…」

尻尾に乱れて自身から先走りを溢れさせているのを指摘すると恥ずかしそうに首を振って否定を示している。
だが、恭弥の瞳を覗けば欲情にぬれていて意味のないものだと感じる。
それなのに、突然オレの中から性欲が途切れた。
心では恭弥を欲しているにも関わらず、オレの身体がだんだん冷めていってしまう。
それと同時に襲ってきた強烈な眠気にオレは逆らえず欠伸が漏れてしまう。

「ふぁ…恭弥、すまん…なんか、眠くなってきた…」
「っ……は?」

仕方なく自身を恭弥の中から抜いて横に寝転がると恭弥を抱きしめて寝る体勢に入る。
恭弥はオレの腕の中でもがいていた。

「ちょ……本当に、あなた正気!?」
「もう…本当に眠いんだって……続きは、また今度な」

何故か悔しそうな呟きと頭にバシッと掌が落ちてくるが、それにも答えてやることもできずにオレは睡魔に身を委ねたのだった。




あの人が、変だ。
昨日僕を強引に組み敷いて、このまま貪られてしまうと思っていたのに…。
珍しく、赤ん坊に薬を飲まされたとかでネコの耳が生えていて結構気に入っていたんだけど…突然行為の最中だと言うのに眠ってしまった。
僕は煽られて中途半端な快楽のはけ口を失ったまま隣に眠る恋人をにらみ付けた。
一体どういうことなのかと気になり、仕方なくディーノの私用の携帯をバッグの中から見つけた。
そして、アドレスを漁って赤ん坊の電話番号を呼び出した。
そのまますぐに番号にかける。

『…どうした、ヒバリ』
「ワオ、察しが良いね赤ん坊」

数回のコールののちつながった赤ん坊の声は僕からかけてくるのを見越しての言葉だった。
全部読まれていたのかと笑みを溢せば、そろそろだと思ったからなと声からニヒルな笑顔が浮かんでくる。

「ディーノに、薬を飲ませたのは君だろう?どういうつもりだい?」
『ああ、今研究中の薬だったからな。安心しろ、人体に影響はない…まぁ、性格が極端にネコになっちまうぐらいで何もないはずだぞ』

少しやり過ぎなのではないかと声を強めて赤ん坊に言えばそう怒るなと嗜めながら言い訳にも似たような言葉が返ってくる。
思い返してみれば、ディーノはネコのように気紛れで今も欲望のまま眠っている。
近くで電話をしているというのにまったく反応していないのを見れば本当に眠かったらしい。

「でも、これはやりすぎなんじゃないのかい?」
『まぁ、人によって状態は様々。だが、ちゃんとネコを解除することも考えてある』
「どうすればいいの?」
『さぁな、一緒にいればわかるんじゃないのか?』

こんなディーノはもう嫌になったと赤ん坊に告げるが、結局元に戻す方法をはぐらかされそのまま電話は切れてしまった。
すぐにかけなおそうと思うが、縋りつくようでプライドが邪魔をする。
ディーノの携帯をサイドテーブルに投げ出せば、眠ったままのディーノを見つめる。
いつもはどこか疲れの残る寝顔をしているが、今のディーノの顔は安らかなそれだった。

「まったく、こんなんじゃ怒れないじゃない」

怒る気もなかったが、安心しきったようなその寝顔は嫉妬をしてしまうぐらい憎らしく見えた。
起きる気配のないディーノの寝顔を確かめたのち、僕は仕方なくディーノの隣へ横になった。



次の日、僕はディーノより先に目が覚めてしまい状態を気だるげに起こした。
隣を見れば昨日と変わらない猫の耳と尻尾がついた変な男。
夢ではなかったのかという脱力感と疲労感が一気に襲ってきた。
猫に近くなるというのは、どういうことなのだろう。
いつもは僕の気配で目が覚めるディーノが今日は起きる感じは一切ない。

「ん……」

小さく声を漏らしながらもぞもぞと動くディーノを見れば僕はディーノの背中に手を回した。
昨日から、なんだかこの身体に飢えている。
触っていないと、落ち着かない。

「全部、あなたのせいだよ」

だから、早く起きて…。囁くような声も届いたのかわからないままディーノは眠り続けている。
こうも僕が動いて眠り続けているのを見れば、本当に目覚めるのか心配になってくる。

「ディーノ…」



朝、恭弥の声に意識が浮上した。
恭弥が何やら動いているようだったので目を閉じたままでいれば、突然オレの背中に腕が回ってきて抱きついてくる。
そして、小さく囁かれた言葉にドクンと胸が高鳴る。
そして、完璧に起きるタイミングを逃した。
どうしようかと心配になっていれば、恭弥は俺の名前を呟いた後鼻を思いっきりつままれてオレはびっくりして目を開けた。

「んうっ…恭弥…いてぇ」
「最悪だね。タヌキ寝入りなんて感心しないな」
「…バレてたのか」
「あんなににやにやした顔を見せつけられれば嫌でもわかるよ」

鼻を摘まんでも鬱憤は収まらないのか頬も思いっきり摘ままれて顔をしかめた。
平常心を保っていたのに、顔に出ていたらしい。
もう少しポーカーフェイスがうまくならないと…とくだらないことを考えつつおはようのあいさつのために顔を近づけて恭弥に口づけた。

「おはよう、恭弥」
「ん…」

笑顔を向ければ不機嫌ながらも目を逸らして短く頷いている。
こんなちょっぴり素直な一面を見てしまうと朝からいただきたくなってしまう。
と、余計な思考を払おうとするがいきなりトサッと何かがベッドに落ちた。
それはオレの頭辺りからで何なんだと、不思議に思った恭弥と同じに視線を下に向ければ、さっきまでオレの頭に付いていたと思われる毛玉がそこに落ちていた。

「取れた…」
「こんな風になるなんて…気持ち悪い」
「尻尾も取れてるぜ」
「朝からこんなものを見せられるなんて本当に最悪だ」

力をなくした剥製のようになって落ちている耳と尻尾を恭弥は気持ち悪そうにして足でベッドから蹴り落としている。
何はともあれ元に戻ってよかったと笑みを浮かべれば、恭弥の腕を引き寄せて甘く口づける。
最初は触れるだけだったが、だんだん深く重ね合わせて舌を絡ませる。
恭弥も抵抗していたのは最初だけで、昨日中途半端にした分飢えていたのだろう、自分からキスに応えてきた。

「はぁ…ん…ふ……ん、もっと」
「昨日は、途中にしちまったからな」

唇を離そうとすれば離れたくないとオレの胸倉を引き寄せて自分から唇を深く重ね合わせてくる。
オレはそれに嬉しくなりながら好きなだけ咥内を舐めその間に性急に下肢へと手を伸ばす。
キスに夢中になっているためた容易く触ることができて、尚且つ抵抗する気配がなくオレは恭弥の服をあっという間に脱がせてしまった。

「別に、僕がしたいわけじゃない」
「そうだな、オレが恭弥の身体も心も欲しいんだ」

勘違いするなと確認のように言われてしまうが、笑みを浮かべたまま頷いて肌に口づけていく。
そのたびに震える恭弥の反応を確かめ、半勃ちのそこに辿りつけば先端にチュッとあいさつ代わりにキスをする。

「あっ…そこ、しないで」
「する…気持ちいいだろ?」
「いやだ…ああっ…ディーノッ」

不安げに呟かれた言葉を振り払うように言えば、先端からズルリと唾液でぬめりを帯びさせた咥内に招き入れた。
パサパサと恭弥の髪が揺れている。
ダメだ、いやだと言いつつオレの髪に指をからませて、自身に押し付けているのはわかっているのかいないのか…。
きっとわかっていないのだろうけど…自身を口で愛撫しながら、秘部に指を入れて慣らしておくことも忘れない。

「ふぁん、あんっ…んんっ…ディーノ…もっ」
「後ろに欲しい?」

快楽に訳が分からなくなってくると恭弥はオレの言葉に頷くことしかしなくなる。
いわゆる、羞恥がなくなった状態だ。
快感に熟れた瞳で見つめられ、何度も頷くさまは何より扇情的でオレの理性をなくしてしまう。
恭弥の許しが出れば、口を自身から離し指を抜いて状態をあげれば自身を秘部へとあてがった。

「ッ…久しぶりだからゆっくり深呼吸して」
「んっ…早く…」

オレの言葉を素直に聞き入れながら深呼吸をする恭弥に微笑み。
タイミングを計って自身を挿入した。
久しぶりの恭弥の中は絡み付くようにオレを締めつけてきて、感じさせてくれる。
恭弥の表情を見ればそんなに苦しそうに見えなかったので、オレは慣れるのもそこそこに律動を始めた。

「あっ…まって…やぁっ、感じちゃうよっ」
「感じていい、オレで気持ち良くなれ」
「は、んんっ…ディーノッ、ああっ…だめっ」

オレを見つめてくる瞳は全く嫌がってなく、オレは恭弥の腰を掴んで激しく揺さぶれば感じすぎて涙をあふれさせながら抱きついてくる。
愛しいと涙の痕を舐めとりながら中で自身をかき混ぜるように動かせば恭弥自身をオレの腹に擦りつけてきた。
先端を見ればもうイきそうなくらい張りつめて先走りをにじませている。

「もうイくか?」
「んっ…あなたも、っ」
「じゃあ、一緒にイこう」

切なげに頷く恭弥に囁けば、唇を啄んで舌を絡ませながら自身を包み込むように手に握れば扱いて先端を親指の腹で撫でビクビクと震える恭弥を抱きしめて最奥へとひときわ強く突きあげれば勢いよく白濁を放った。

「うあぁぁっ…イくっ…!!」
「はっ…恭弥、うっ!!」

久しぶりに感じる内壁の締め付けにお互いに動きを止めてしばし余韻に浸っていたが最初に身体を動かしたのは恭弥だ。

「はっ…も、退いてよ」
「何だよ、もう少し抱きしめててもいいだろ?」
「ヤダ……あなた、くっついてるとすぐするじゃない」

もぞもぞと動くのを押さえるために体重をかけるがもうするなと強い視線で咎められてしまえばオレの下から出てバスルームへと歩いて行く。
それを見送っていれば、ピタリと足をとめた恭弥は振り向いて不機嫌な顔をした。
その顔がまた可愛くて笑みを深めれば、呆れたようにため息を吐かれてしまった。

「早くきなよ…あなたには、まだ僕の身体を洗う仕事が残ってるよ」
「はいはい、今行く」
「はい、は一回」

本当は恭弥が猫になった方が似合っていたかもしれない。
こんな気紛れなネコは、いつでも甘やかしたくて仕方がなくなるから。
オレは恭弥のあとについて歩きながら、ふっと想った事に笑みを浮かべた。




END