半年が経とうとしていた。
相変わらず、リボーンと会うことは少ないままだけど俺はいろんなことを覚えた。
毎日やるべきこと、やらなければならないこと、自分の仕事が板についてきてようやく周りが少しずつ見えるようになってきていたころ。
「リボーンに会ったのって、いつだったっけ?」
ぽつりと自室で言葉に出してみて、一週間ほど前だということに気づく。
九代目が俺につきっきりの代わりに仕事を任されていると知ってはいてもあえないだけで複雑な気分だ。
こっちにくるまで三日と空けず行為を重ねていたのだから仕方ない。
いや、その前は普通に顔を合わせたり合わせなかったりもあったから…気持ちの変化がそうさせているのかもしれない。
「そろそろ、触りたい」
自分はそんなに性欲が強くない。
けれど、恋人に会えないとなっては関係ないだろう。
それに、付き合っている時間としてもまだ蜜月といっても過言ではない。
そんな中こうして離れ離れは結構堪える。
仕事をしている最中ならまだしも、こうして一人きりで部屋にいることになってしまえば寂しさは助長して、息をしているのも時間が経っていくのを感じるのも何もかもが俺の寂しさに拍車をかけるようだった。
「もしかして、リボーンはこうなってしまうから九代目には言うなっていってたのか…?それならそうといってくれたら俺はどんなことをされても口を開かなかったのに…」
嘘はうまくない。
きっとそのうちばれていたかもしれないと思えば今の状況は仕方ないと思ってしまうが、この状況は俺にとって害でしかない。
ごろりとベッドに寝転がり、天井を見つめた。
忙しさで忘れていた寂しさが身に染みる。
いつまでこの生活が続くのか。
果てはあるのか、いつ終わるのか…いつになったら、まともに顔を合わせたり触れたりできるのだろうか。
何もわからない、わからないから不安になる。
もどかしくなる。
「泣いてんじゃねぇぞ、ダメツナ」
「泣いてないっ…って、リボーン!?」
いつもの人を馬鹿にしたような言葉に俺は身体を起こして言い返していた。
条件反射のようなもので、改めてそこの人物を見れば俺は驚いた声を上げた。
すかさずリボーンは手のひらで俺の口をふさいできて、名前を呼ぶ以上はなにもできなくなってしまったわけだが…。
「静かにしろ、目を盗んでここにきてんだからな」
「……」
リボーンの言葉にこくこくと頷くとようやく手が離された。
とたん、少し匂った硝煙のにおいに俺は改めてリボーンを見た。
何をしているか、なんて聞かなくてもわかる。
だから、聞きたくない。
今はそのことは目を瞑ることにした。せっかく会えたのだから拗れたくない。
リボーンに、もっと触れてほしくて触れていたい。
「さわって、いい?」
「ああ、それなら歓迎だ」
俺の隣に座るリボーンは何もしないでいてくれる。
俺はリボーンに抱き着いて胸に顔を埋めた。
じんわりとリボーンの熱が伝わってきて、ほっと息を吐き出す。
今日までため込んできた何もかもが昇華されていくようだ。
リボーンからも抱きしめてもらうとますます安心して、そして忘れてかけていたものが浮上し始める。
「ツナ…」
「んんぅ…」
リボーンの声に誘われるように顔を上げればキスをされた。
久しぶりのそれはすぐに深くなり、舌を絡ませ呼吸がしづらくなるぐらいには夢中でリボーンに縋っていた。
「リボーン…」
誘うような口ぶりになってしまうのもしかたないだろう。
実際、禁欲生活を強いられているようなものなのだから。
リボーンは俺の上に覆いかぶさってきて、服に手をかけた。
俺は自分の身体を浮かせて服を脱がせるのを手伝う。
リボーンも脱がそうと手をかけた。
無言で、お互い何をするためになんて言葉はいらない。
欲しいと目が語っていた。
俺だけじゃないのだとわかって安心する。
顔を上げればまたキスをされた。
唇を塞がれたままで声を上げることもできず、身体はゆっくりとあらわになっていく。
リボーンの指先が俺の身体を滑るたびに敏感に反応して恥ずかしいと顔をそむけようとしたら、無理やり顎を掴まれて顔を見つめられた。
「こわい、よ」
「なんもこわくねぇぞ」
久しぶりで、どうやってリボーンに触れていいか忘れてしまった、なんて言ったら激怒するんだろうな。
俺はそっと口を閉ざして、リボーンの愛撫を受け入れる。
視線を逸らすのもやめた。
視線が痛いほどで、肌がピリピリと痛むようだ。
「もっと…」
近くに来てと手を伸ばして首に手を伸ばした。
ぎゅっと抱きしめて近づく距離に安堵を覚える。
唇が触れる距離が、愛しくて、自分から口づけてリボーンの唇を舐めた。
お互いの息がぶつかるのもかまわずに身体も寄せる。
直接的な場所を露出させて、リボーンは一つにまとめて扱きはじめた。
「んんっ、くち…ふさいでて」
声が出てしまいそうになって足をリボーンの腰に絡めながらねだる。
すぐに唇を塞がれて、深く舌を絡ませたまま自身に与えられる激しい刺激に身体を震わせた。
身体が熱い、いつもより感じて頭が酩酊状態になっていく。
酸欠もあるだろうか。
わからない、けどすごく感じてこのままどこかに飛んで行ってしまえるのならそれもいいかもしれない。
「ふっ…んっ、んん…んぅっ!!」
「はっ…ツナ」
俺が最初に吐き出すとそれにつられるようにしてリボーンも白濁を放っていた。
手のひらの中が濡れる気配がして早くそれを中に入れてほしいと思った。
でも、俺の思考は唐突に落ちて、切れた。
目が覚めると俺の部屋で、天井だった。
そして、額に冷たい感触。
頭の下にも同じような冷たさを覚えて首を振れば頭痛がして額の冷たさが取れた。
俺はそれを手に取って、見た。
「タオル…?」
「風邪だ」
「…リボーン」
リボーンの短い言葉に俺は声をした方を見た。
あきれた顔で、服は整えたまま告げたリボーンは俺の額にタオルを戻した。
「風邪?」
「疲れだろ。そういえば、お前こっちにきてから珍しくへこたれずに頑張ってたからな」
ぽんぽんと撫でられて俺はぼうっとした頭で考えた。
頑張ってたのは事実で、けど、リボーンとせっかくの機会を自分の体調不良で逃してしまったことになる。
リボーンはなんだか、垢がぬけたようにすっきりとした顔をしていて、俺はおもわずリボーンの手を握った。
「俺、リボーンと…途中で」
「まぁ、シャマルに見てもらっただけだ気にすんな」
「そうじゃ…ないじゃん、おれ…」
「なんだ、まだしたかったのか?機会ならたくさんある、今はちゃんと休め…俺は、これから仕事だ」
立ち上がって手をほどいて行ってしまいそうになるリボーンを俺は服を掴んで引きとめた。
今いかないでほしい。
お願いだから、もう少しだけ。
「さっき、たくさんきすした」
「ああ、したな」
「風邪、うつってるかも…しれない」
「俺を誰だと思ってる、離せツナ」
「いや、やだ…いったら、嫌だ」
リボーンは仕事だといっているのに、俺はリボーンにいてほしかった。
このまま出て行ってしまわれたら、俺は寂しさで心臓が押しつぶされてしまいそうで。
「りぼーん」
泣くつもりはなかったのに、ほろりと落ちた涙はすぐにあとからあとからあふれてくる。
呼吸が苦しくなって、ますます思考が鈍くなってくる。
熱があるのかもしれない。
うまく身体が動かなくなって、風邪だと自覚した途端何もできなくなってこれ以上引き留めるわけにはいかないと、俺は掴んでいる手から力を抜いた。
「ごめ…いって、いいから…」
「ったく、お前は」
リボーンは俺の言葉に苛立ちを乗せて言うなり俺のベッドに腰掛けた。
そっと俺の頭に手をあてて安心させるように撫でる。
「寝るまで近くにいるからちゃんと寝ろ」
「いいの?」
「一人にさせちまってるのは、わかってるからな。近くにいたいのは俺も一緒だ」
ちゃんとわかってる、そういわれたようで安心した。
けほっと少し咳き込むと頬を撫でて、鼻先に口づけてくる。
「移るよ」
「さっきまでキスしてたんだ、気にするな」
「リボーンは、ここにきて楽しい?」
「なんだ、突然」
「眠る前の子守歌だと思って」
少し聞いてみたくて顔を見れば、お前は、とあきれた顔をされた。
「故郷みたいなもんだしな」
「ふぅん、なら俺も早くなじまないとな…」
「無理に合わせることはない、今のお前に求められてるのは仕事ができるかどうかだ。空気に慣れることは、もう少し先でもいい」
優先すべきことをちゃんと見極めろと言われて、頷く。
本当ならもう慣れてもいいはず、なのにここになじめていないのはあまり外に出れていないのもあるかもしれない。
俺はまだこの街がどんなものかも知らない。
リボーンの言うとおり、ゆっくりやっていけばいいのかもしれない。
目を閉じれば、眠気がきてゆっくりと力を抜いた。
また離れてしまう、けれど、リボーンはちゃんと近くにいる努力をしてくれている。
だから、俺も少しでもはやくもっと近くにいれる力をつけなければならない。
やることはたくさんある、そのどれも手を抜けない。
リボーンのぬくもりを確かに、俺は意識を手放した。