怒涛のような一年を終えて俺は大学を卒業するに至った。
他の守護者も滞りなく、炎真くんも凪も一緒だ。
リボーンは九代目と連絡を取り合っていたのか、俺が卒業すると同時に飛行機のチケットが配られた。

「僕はまだやることがあるから遅れていくよ」
「僕と凪も少し遅れます」
「お前ら最初からいえ、用意しちまっただろうが」
「聞かない君が悪いよ。そんなサプライズ受けれる人間とできない人間がいることは明白だろ」
「僕はこの時間には間に合うようにしますから」

学校を出たところで一悶着あるかと思ったら、リボーンはため息ひとつでこれは使わないなとあきらめていた。
飛行機のチケットはとるのに難しいのに、特にこの時期は卒業旅行者ばかりでちゃんと来れるのかと心配になる。

「心配しなくていいよ、いざとなればあの人を呼ぶからね」
「ディーノを使うな」
「君に言われたくないよ」
「ま、まぁまぁ…雲雀さんがそういうなら、俺は待ってますね」

イタリアで、そう笑えば頭を撫でられた。

「僕は一度した約束を反語にしたりしないよ」

笑顔を浮かべて掠めるようなキスをして雲雀さんは離れた。
それに睨み付ける視線を向けているリボーンの腕を掴んで宥めるのもやめない。
俺とリボーンがこういう関係になってから、雲雀さんからのスキンシップが増えたと思う。
気のせいだと思いたいが、潔癖とも取れそうなあの人が平気で触れてきた時点で少しテンションが高いのかなと疑ってしまいたくなるぐらいなのに、今のキスみたいなものは半年前から行われていたのだ。
最初こそ驚いていたが、今では慣れたもので、それにいちいち突っかかるのがリボーンだった。
そうして、俺は気づいてしまった。
俺をからかうためではなく、リボーンをからかうためにしているんじゃないのかということに。
けれど、確信はないし、聞く気もないので俺はそっとこれを心にとどめておくだけにした。
愛情という意味ではなく、信愛とかそういう頼られているかのような感覚。

「じゃ、僕は先に行くから」
「では、僕も」
「ボス、また」

雲雀さんに続いて骸と凪も別の道を帰って行った。
渡されたチケットは一週間後を示して、それが執行猶予のようにも思えた。

「では、俺たちも」
「じゃあな、ツナ」
「またね、ツナ君」
「うん」

手を振って別れる。
炎真くんはまだやることがあるとかで、イタリアの方に行くのには時間がかかるらしい。
拠点を置くことになったら、うかがわせてもらうよと言われて心底安心した。
もう、あの時のようなわだかまりがなく、いまでは、お互いに危険を乗り越えていけたらと思える。
ボンゴレも、シモンもまた新たな一歩を踏み出す。

みんなを見送った後俺とリボーンも学校を後にした。
これから後一週間でお別れしないといけない部屋の整理をしないといけない。

「もっと何か言うかと思ったが、従順だな」
「へ?」
「いつもは、口応えの一つや二つは余裕だっただろ」

リボーンの言葉に、そんなことないと言おうとして、その通りだったことを思い出し苦笑した。
あのときの俺ならたぶん、いきなりは無理だとかなんとか絶対に反発していたことだろう。
リボーンが不審に思うのも仕方ないかとため息を一つついた。

「リボーン、俺だってリボーンのこの姿があの姿と結びつかなくてもどかしい思いをさせただろうけど、リボーンだってそうじゃないか?俺はもう子供じゃない、何もかも知って、受け入れるべきものは受け入れる人間になったんだ。まぁ、プライベートは別だけど」
「この七年間、お前に教え込んできたものは無駄じゃなかったってことか?」
「そういうことだよ」

確証はないけれど、リボーンは俺の家庭教師でそれ相応の働きをしたんだ。
ついでに、恋人というものもついてしまったけれど、そこはなんとかなる。ならなくても、して見せる。
そう思うほどには、俺はいろんなことを考えられる人間になった。
答えは一つじゃない、俺が選んだものは一つだけだとしても、これからさきいろんなものを選択できるみたいだと信じていたい。

「なら、今日の晩餐は期待してもいいんだな?」
「えー、そこは二人で作ろうって言ってくれるところじゃないのかよ」

相変わらず、リボーンは優しくないし我儘だしふてぶてしいけれど、俺にとってはいつものリボーンだ。
帰って、俺は自分の腕前を披露した。
自分で作ることになるのも日本を離れたら最後だ。
大変な四年間だったけれど、思い返せば懐かしくこの体験も貴重なものだったと思う。
リボーンはいつものようにきれいに食べて、片づけは明日からにしようと順番に風呂に入った。




「おい、本気でイタリアに来るのか」
「いくよ、っていうかこの会話何回目?」

リボーンが俺を押し倒しながら問いかけた。
実は飛行機のチケットを渡される前からこのやりとりは行われていた。
それも決まって夜になってからだ。
俺を押し倒しながら不安な顔をする。
そんなんだから、俺がこれだけ成長せざるおえなかったというかなんというか…。

「知らねぇよ」
「リボーンは案外、臆病だな」
「ヒットマンはそういう風にできてんだ」

身を隠して、敵の隙をうかがう仕事は何に対しても慎重に…たぶん、リボーンはその感情をおしこめているのだと思う。
家庭教師と生徒の間柄では、絶対に見られなかった臆病なリボーン。
恋人という名目なら、こうして少しみせてくれることもあるのだとわかった。

「大丈夫だ、リボーンがいてくれたら俺は何でもできる。なんでもやるよ」
「なんでもはやらせねぇ、向こうに行ってからは九代目の元でしばらく仕事を学ばされると思うが、お前はお前の考えをちゃんと持ってろ」

わかったな、と顔を覗き込まれて俺はしっかりと頷いた。
自分の考えが一番重要になってくる、俺は何をしたいのかどういう未来をいきたいのか。
決して甘えた気持ではいけないところだ。

「リボーン…早く」
「ああ」

あまり考えていると後ろ向きな俺が顔を出す。
早く忘れさせてほしいと手を伸ばした。
今だけ、イタリアに行くまでの少しの時間は甘えさせてほしかった。
自分で決めてしまったことだとしても新しい進路は誰だって怖い。
自分が望んでいたとしたことでも、本当にやっていけるのか、いつまでも頼っていられるのか。
思いつく限りの疑問は消えることなく、俺の中にたまっていくけれどそれを解消するすべもわからない。
ただ、その日が来るのを待つしかできなくてその間俺は何度もやめたいと思うのだ。
後戻りもできない未来なのに、往生際の悪いことだと思うけれど…。
リボーンはそんな俺の想いを知っているかのようにたくさんのキスをくれた。
息が止まるような情熱的なキスも、触れるだけの愛情を感じるキスも、宥めるためのやさしいキスも。
ファーストキスだったのに、そのキスが増えるのはあっという間だった。

「何笑ってる?」
「いや、我慢させてたのかな…とか、思って」

聞く限りでは結構前からリボーンは俺を好きだったようだ。
無理やり聞いたら話してくれた。心底嫌そうな顔をしていたけど。

「そうだな、自分の身体ができてなくてもヤっちまいたいぐらいには…」
「うそっ」
「冗談だ」
「あっ…んんっ」

信じられないという顔をしたらリボーンはすぐに否定して、胸への愛撫を再開した。
けれど、それは嘘だなと思う。
リボーンは案外素直なところがあるし、そんな面倒くさい冗談をいうやつではない。
恥ずかしいやつだと思えば、身体が反応してリボーンの愛撫に喜ぶ。
すっかりとリボーンの好みに改良されてしまった身体は、いまではリボーンの手に喜ぶように震える。
自分の意思とは関係ないから少し怖いけれど、それを安心させるようにリボーンは俺にキスをした。

「ツナ…」
「ん、もっと…」

リボーンの身体は俺になじんでいるかのようにスムーズだった。
いや、さすがに最初はきつくて痛みを伴ったけれど、ゆっくりじっくり融かされるうち喜ぶようになっていた。
リボーンは素質があったんだという、けれどそんなことはなくて…だって、中学の時には普通に女の子に恋をできたんだか…きっと、リボーンに合わせるように身体が変わったんだと俺は思っている。

「だ、から…リボーンは、せきにん…もんだいが」
「は?…お前、何考えてるんだ。さっきから、眉間にしわよりっぱなしだ」

ばかつな、と入り込んだリボーンが一度大きく腰を突き上げた。
頭の中でぱちぱちと星が散って、一気に締め付ける。

「だっ…ぁあっ、りぼーん、リボーンっ」
「俺のことだけ考えろ」

叱るように、嫉妬をぶつけるように強く何度も奥を抉り、そのたび俺はリボーンにすがって声をあげさせられた。
気持ち良すぎてどうにかなりそうだと泣きそうになりながら、最後は結局気持ち良さに抱き着いていた。
リボーンといると幸せだと思う、これからもそうでありたい。
未来の確証はこれっぽちもないし、何もわからないことばかりだけれど今はリボーンを信じて前に進みたい。





一週間がたった。
イタリアに持っていけるものは限られていたのでもっていかないものはほとんど実家に送ってしまった。
母さんから苦情の電話をもらったけれど、最後にはちゃんといってらっしゃいといってもらえて、少し泣いた。
空港には雲雀さんを抜いた、メンバーがそろっていた。

「いよいよですね、十代目」
「うん、あのさ…獄寺君、俺のこと十代目って呼ぶのやめない?」
「どうしてですかっ!?」

常々思っていたことを言ったら泣きそうな顔をされた。
いや、そういう意味じゃないんだ。

「えっと、俺はもう十代目にならないし…名前で、ね?俺も隼人って呼ぶから」

苗字では距離を置かれていると勘違いされてしまうかもしれないと考えて、名前で呼び合うように発案した。
俺でも少し慣れないのだが、このまま十代目と呼ばれることの方が慣れない。

「はいっ、綱吉さんっ」
「う、うん」

手をぎゅっと握られたけれど、喜んでもらえてるしいいか。
後ろのリボーンの顔は見ないふりをして、俺はそっと安堵した。
みんなで飛行機に乗り込み、なぜかリボーンと隣だが、三人席で俺を挟むように反対側には骸が座った。

「何だか安心して眠れないんだけど…二人とも」
「大丈夫だ、ちゃんと俺が見ててやるからな」
「安心してください、僕が見てますから」

いやぁ、なんというかにらみ合いながら言われても何もうれしくないから。
どうしてこうなった、教えてくれ天命。
イタリアまで眠れないというのは、少しきついと思うのだが…どうか、寝かせてくれ。
この緊張状態さえなければいいのにな、と思いつつそれでもこの旅は楽しめそうだと笑顔を浮かべた。

「じゃあ、二人ともあとはよろしく」
「ツナ!?」
「綱吉くん!?」

みんながいれば、楽しいだろう。
俺はこの七年間で、助け合う大切さと時に必要な決断力、判断力を養ったつもりだ。
ダメツナは、相変わらずだけど信頼する仲間と一緒なら、何でもできる。









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