テレビからは賑やかな声がして、出演者は着物を着ていた。
つい数時間前には新たな年を跨ぎ大騒ぎをして、なんとも元気なことだろうかと寝不足で欠伸をかみしめながら僕はぼんやりとそんなことを思った。

「もうテレビ消して、僕もう寝るよ」
「おー、恭弥…卒業まであと一年だな」
「…なに、唐突に」

けだるい身体を反転させて天井を眺めた。
いきなり真剣な話をするのはあまり好きじゃない、それにこの人の場合碌でもないことが多いからだ。
その話の内容も、大体想像ついてしまう。

「俺と一緒にイタリアにこねぇ?」
「いかないよ、あと一年残ってる…それに、僕にはまだ勉強することがあるし…でも、あなたにも教えてもらわないといけないことがあるんだ」

ディーノの要求には応えられない、けれど利用させてもらう価値はあると思う。
テレビを消して、こちらを振り返るディーノに手を伸ばす。

「お前のその言葉、一番うれしくねぇぞ?」
「それはお互い様だろ、それに勉強を教えてくれるのは家庭教師の仕事だろ?」
「都合のいい時だけ生徒になるなよな」

で、何を知りたいんだ?と聞きながら腕を引っ張ってもらい身体を起こし、くったりと身体を預け耳元に唇を寄せる。

「イタリアの経済だよ、もちろん、表向きのきれいな話じゃなくあなたのかかわっている裏のほうの、ね」
「…何する気だよ?」
「何もしないよ、ただ必要とあらばいつでも使える知識はほしいだろ」
「必要になった時でいいだろう?」
「それじゃぁ遅いよ。ねぇ、あなたの力が必要なんだよ、ディーノ」
「…ホント、お前が俺の名前をちゃんと呼ぶときは碌でもねぇ」

嬉しいけど、と悔しそうにするディーノに笑ってすりっと身体をこすり付ける。
一緒に居たいと思う気持ちはある、この人の傍に居たらきっと幸せになれるのだろうなとも、思う。
けれど、僕が選ぶのはあなたじゃない。
ディーノもそれをわかっている、わかっているからこそそうやって悔しい気持ちを言葉にするのだ。
髪を撫で、引き寄せ唇を重ねた。
何度も愛し合うために触れて、触れられて、僕がボンゴレにつくなら跳ね馬は傘下に行く立場になるだろう。
そしたら、僕が目をかけてそっと守ってあげることができる。
無茶ばかりのこの人を少しでも長く、少しでも多く笑っていてもらいたいと思うのはエゴだろうか。
言葉にしたら迷惑がられるだろう、養われるほど落ちぶれていないといわれるだろう。
けれど、僕からしたら十分値する。
わからないように、そっと手の中に守ってあげたくなるぐらい、僕はこの人を愛してあげたいと思ってしまったんだから仕方ない。

「いずれ、僕だってあなたの隣に立ちたい」
「しかたねえな、基本だけだぞ?」
「十分、あとは自分でどうにかするよ」

ちゅっとキスをするとますます怖ぇ、とつぶやいて心外だと妖艶に笑った。




「ぁっ…りぼーん、りぼっ…やめっ」
「やめてほしいのか?ん?」
「…〜っ、やっ…あぁっ…」

リボーンのものが出たり入ったりしている、熱いそれでこすり付けられるたび身悶え身体を縮めて身体を震わせると意地悪な声が耳に吹き込まれ俺は首をふるふると横に振った。
冬休みに入る前に想いを通じ合えた俺たちは、休みに入ってからがすごかった。
バイトの時間は確保されるが、ほとんどを部屋で過ごし、リボーンの好き勝手に身体を開かされた。
俺も特に嫌じゃなかったし、むしろリボーンをネタに抜いた発言からあれよあれよという間に身体を着々と開発されていた。

「ツナ、つな…もっとお前を見せろ」
「みるな、よぉ…ふあ、あっ…」

指を絡ませるように握られてシーツに縫い付けられた。
小さくなるようにしていた身体はリボーンの眼前にさらされて俺は恥ずかしく視線を逸らす。
宥めるようにキスをされるが、恥ずかしい態勢に逃げたい衝動に駆られるが、なかなかそうもいかない。
暴かれる感覚に恐怖して涙を浮かべるとちゅっとそれを吸われる。
過保護なところは全く変わらず、甘くどろどろに甘やかしながら全部を暴こうと時々強引に奪われて、それが嫌じゃないから俺はほとんどの時間をリボーンの部屋で過ごしていた。
これを雲雀さんや骸が見たらどう思うだろうか。
あきれた声を上げることは間違いないなと淀ごとを考えていたら、いきなり感じる部分をこすりあげられてリボーンの手に爪を立てて痛いぐらいに握りしめてしまう。

「ぁああっ!?…やめ、そこ…強いっ」
「ほかのこと考えるからだ、俺だけを考えてろ」

全部を見透かしているようなそんな目で見つめられて、予想外な独占欲に切なげに瞳が揺れてみせた。
前までこんなこと言ったことなかったのに、と思ってそんな風に言える関係でもなかったことを思いだす。
全部をわかっているつもりで、何もわかってなかった。
自分の気持ちにも、リボーンの気持ちにも…。
これがまだ、本当に自分の望む答えなのかも怪しいけれど、リボーンが俺を必要としてくれるのならと考えた。
俺はキスをねだるように小さく声を上げ、リボーンがそれをふさいでくる。
もう吐き出したいと視線で訴え、激しくなる律動に息も荒く縋りついた。

「んんっ…あぁぁっ、いく、もう…いくぅ」
「俺に全部見せろ…何もかも」
「ふぁ、ぁあっ…ひぁ、んんっ!!」

最奥を突き上げられて身体を震わせて白濁を吐き出した、リボーンも俺の中へと出すけれど呑み込み切れず秘部からあふれる感覚にふるりと身体を震わせた。
非生産的なことをしていると、感じてしまう。
いくらリボーンが出したところで、俺は女ではない。
けれど、こうして注がれるたびに切なくも愛しく思うんだ。
こんなにも抱き合うことしか知らない毎日に、爛れていると思うけれど、止める術を俺たちは失ってしまった。
ここまで過ごしてきた時間がもったいなく、少しでも長く繋がっていたいと思うのは、俺だけじゃないと信じたい。

「あぁ…ハッピーニューイヤーだぞ。ツナ」
「んぁ?本当だ…今年もよろしく」
「去年以上にな」

リボーンは笑ってちゅっとかわいらしいキスをする。
恥ずかしくて、直視できず視線を逸らし身体を起こそうとしたけれど、リボーンがまた覆いかぶさってくる。

「ちょ、もう無理…腰立たなくなる」
「もうしねぇ…あと一年だ。わかってんのか」
「…わかってるよ。もう、時間がない」
「決めたのか?」
「……うん、もう迷ってない。俺は…ボスになる、イタリアに行く」

真剣な瞳で顔を覗かれ、真意を探られた。
俺は正直に今の気持ちを言葉にすると、安心したようにため息が漏れる、がリボーンの視線の奥に見える不安は大きくなったように見えた。

「いいのか」
「いいよ」
「もう後戻り、できねぇぞ?甘えたことも、言えねぇぞ?」
「リボーンが言ったことなのに、そんなに心配するなんて変だな」
「結局のところ、お前をボスにするのは俺の仕事でもある。育てることは当たり前だった…」

今さらといえば、リボーンは言葉を濁してくる。
そのあとに続くだろう言葉が予想できて、その先は聞きたくないと思った。
俺はこめかみから指を差し入れてリボーンの頭を掻き抱いた。

「俺は自分で決めた。逃げ道を残すようなこと、するなよ」
「ツナ…」
「最強最悪のヒットマンで、俺の家庭教師だろ。また家庭教師失格だって言われたいのか?」
「…それは、勘弁してくれ」

小さく笑った気配がして、リボーンが言葉を飲み込んでくれたのがわかった。
俺は安堵して、強くなって見せると決意するように心の中で強く思う。
あと一年で、やらなければならないことをすべて片付け、俺は日本を出なければならない。
リボーンがいれば、できる。
不安は、こうして触れていれば解消できていくから。




除夜の鐘が鳴り響いている暗闇の道で、僕は周りを確認しため息を零した。

「そんなに簡単に安心していいの?」
「っ…しつこいですよ」
「そんなの、わかりきったことだよ」

逃げようとした腕を掴まれて、舌打ちすればひどいなぁと笑った声が聞こえる。
相手の顔までは確認できなくて、ざわざわと胸が落ち着かなくなってきて離してくださいと声を上げればいや、と短い返事が返ってきた。

「僕は、あなたなんかに屈しない」
「別にそこまで言ってないよ。僕をマフィアとしてみてほしいわけでも、嫌ってほしいわけでもないんだから」

単純に好かれたいだけだというのに、ならばその手を離してもう少し欲情に濡れているだろう視線を向けるのはやめてくれと思った。
けれど、それを止められたところでもうどうにもできない。

「僕は、なれ合うつもりはありません」
「君は、いつまでマフィアを拒絶するの?」
「一生…この憎しみは、消えることなんてありませんから」

白蘭の言葉に、僕は即答で答えた。
本当のことだ、常に僕はその感覚を持っていて例外はない。
そう、例外はなかったはずだった。

「それでどうして、あの子の近くにはいるの?君が最も憎むマフィアのボスになろうとする人間だよ」
「僕は、あのボスにだったら…ついていってもいいと思っています」

まっすぐに見つめた視線は、いつもより大きく見開かれた視線と絡まった。
僕とこの男は絶対に交わることなんてできない、僕はこの男が嫌いで、この男は僕の嫌いなマフィアだ。

「そんなマフィアを嫌うメンバーがいて、綱吉クンはどう思うだろうね」
「だめだといわれればそれでいいですよ。僕はあの子が必要だといってくれればついていくと、そう決めているだけですから」

ただ、唯一許すことができるボスだと言ったら笑われそうだ。
けれど、笑われてもいいぐらいに、僕はあのボスに賭けていた。
君は、絶対にボスになる覚悟をする。
その時に、君の助けになれるよう、僕はいつでも頷く準備をしている。




わざわざ人が多く集まる時間帯に呼び出されて、俺はすごく不機嫌だった。
それもこれも、全部野球バカのせいだといいたいぐらいにイライラしていた。

「よお、またせたな獄寺」
「そう思うなら、平気な顔で遅刻してくるな…ったく」

日付の変わった瞬間に十代目にはメールを送った。
この先も俺が仕える人はあの人以外いない、そしてあけおめメールとともに初詣で行こうぜなんて空気の読めないメールが着たのは同時だった。
メールじゃまどろっこしいので電話をかけてやったら、そのノリで近くに集まって二人で行こうということになってしまった。
夜に出歩くのも嫌だったが、新年の抱負を近々宣言しなければならないと思っていたので、ちょうどよかった、ただそれだけだ。

「なんだか、野球してねぇのにようやく慣れてきたんだ」
「…なら、そのままメジャーでもなんでもいけばよかっただろ」
「うーん、なんでだろうな…そうは思わなかった」

いきなり話し始めた山本に、俺は適当に相槌を打ちながら聞いてやる。
最近俺の役目といえばもっぱらこいつの愚痴を聞かされている気がする。
愚痴だけで、危害はないから別にいいけれど、能天気なやつなのにそこまで考えるのかと時々思って半ば楽しんでいたりもした。

「お前は、まともだろうが」
「まぁ、そうだと思うけど…俺はツナの親友でい続けてやりてぇのかもな」

山本の意外な言葉に、俺はそいつの顔を見た。
神社の提灯に照らされて少しオレンジに染まった顔は後悔なんか微塵も見せない。

「俺がいなくなったら、あいつのことだしほかにも支えてくれる奴はいるかもしれねぇけど…俺は、初めて許された親友って場所を誰にも渡したくない。ツナは、俺のことを理解してくれた…だから、俺はツナを一番に理解して傍に居てやるって決めた」
「迷惑とか、考えねぇのかよ」
「はは、迷惑だったらそもそもこんな風につかず離れずの距離にいないだろ」

ツナは拒絶すると本気で関わりなくしちまうところがある、という山本は自分が信用されていることをよくわかっているようだった。
俺にはないところを、こいつは持っている。俺には到底及べないことを、こいつはさらっとしてくると、思う。
見習いたいと、本気で思ったことはないけれど、こいつの近くならこのよくわからない焦燥をけすことができるのかもしれないと思ってしまった。

「ほら、行こうぜ獄寺」
「お前が遅れてきたんだろうが」

先を歩く、山本の後ろを歩く。
俺は流されるまま、言われるまま、ついていくだけの準備だけはしっかりとできていて、俺はそれでいいのかと思う。
きっと、十代目は決断を下されることだろう。
もちろん、否定することなんてないけれど、俺の気持ちはどこに行ってしまったのかと理不尽にも思ってしまう。
近づく時間、俺は迷っていた。
この気持ちを知っていたかのように山本は現れて、当然のように俺の前を歩く。

「なぁ、獄寺。イタリアってどんなところだろうなぁ」
「…別に、ここよりずっと危険で、残酷なだけだ」
「そっか…俺さ、お前がいたら生きていける気がする」
「気がするとかねぇよ、親友っていうなら死ぬとかいうな」
「…おう、わかった」

きょとんとした顔をして振り向いた山本は、俺がそんなことを言うなんて考えてなかったみたいな顔しやがって少しむかついたから後ろから膝を蹴ってやった。

「いてぇって」
「しるか、さっさと歩けバカ」



ゆっくりと、確実にいろんな関係は目覚めて消えて、シャボン玉のように高く昇っていくようなそんな感覚。
想いだけは大きく育って行って、いつか消えてしまいそうな不安に駆られつつも、前へと進む。

一つだけの願いは同じ。
ただ、傍に居たくて。





END






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