俺は着々と時間を費やし情報を頭に入れていた。
将来に大事なことは覚えて、学習し、バイトも取り入れたりしてやりくりをし、リボーンとの生活にようやく慣れてきた。
リボーンとはつかず離れずの距離を保っているが、さみしいと思っていたのは最初だけで今は慣れていた。
慣れただけで、さみしい気持ちに終わりはないのだがここで甘えたらリボーンに子供だと笑われてしまいそうでなるべく口にはしないようにした。

そうこうしているうちに夏休みは終わり、その終わりの最終日俺は偶然出会ってしまった。

「あれ、綱吉クン?」
「へ?」
「あ、本当だ」

バイトの最中に唐突に声をかけられた。
そちらを見れば、昔因縁のあった白髪といまではすっかりと頼りがいのある顔になった正一君の姿が見えた。

「白蘭と正一くん…あ、さん」
「いいよ、君でそのほうが呼びやすいだろう?」
「すみません、どうしてこんなところに?」
「偶然だよ、ちょっと僕たちは話し合いで落ち合ったんだけど、まさかそのカフェに綱吉クンが働いているなんて」

にっこりと笑って言ってくる白蘭に少し足を一歩後ろに引いた。
高校の時に言われたことが頭をよぎったのだ。
でも、俺はここで弱さをみせてはいけないと改めて白蘭を見る。

「いい表情をするようになったね」
「白蘭さん、綱吉君と接触してたんですか?」
「ん?ちょっと前に、ね。で、決めたのかな」

覚悟を…といわないまでもわかった。
けれど正直なところ俺は何の覚悟もできてないし、俺一人じゃ何もできない。
俺一人の力は小さくて、何もできないことを思い知らされてしまっただけだった。けど、それを支えてくれる仲間の存在はいやというほどわかったし、それを全部無下にできるほど俺は考えなしでもない。

「決めたよ、俺は」
「そうかそうか、それはよかった。けど、その考えのままじゃいけないね」
「何が」
「僕からはそれぐらいしかいえないよ。ほら、もうバイトに戻った方がいいだろう」

珈琲ね、と注文を付けられて俺はしぶしぶ離れた。
その考えのままじゃいけない…いつも思うが、白蘭は悩ませるのが得意なんだと思う。
俺はわからないことが増えただけで、ちょっと嫌な思いをした。
正一くんは始終心配そうな顔をしていて、俺と白蘭のことは知らないようだ。
白蘭が一人で考えていることなんだとわかって、それこそわかるわけがないとため息を一つはいた。
リボーンは部屋にいろといったことを覚えているのか覚えていないのか、俺が部屋に戻っている間は出ていく気配がない。
でも、リボーンはどこからかお金を出して家賃を折半しているのでなにか手を出していることは確かなのだ。
けれど、それを聞く権利は俺にないと思う。
どう頑張っても俺はリボーンに釣り合わない。まっとうに会話をしようとしても、どうしても下に見られてしまうのだ。
最近ではもうすっかりと視線が上に向かざる負えなくなってきてる。
あんな小さかった姿が夢のようだ。あの姿で過ごした時間が長いのに…。
なんでか、俺はそれを最近になって思い知っている。転びそうになってそれを支えられたり、重い荷物を軽々と持ってもらったりするといつの間にかこんなに大きくなったんだなぁと考えてしまったのだ。
俺の知らないリボーンになってしまった、と思うにはリボーンすぎて大きいのが意外なぐらい。
いまだに俺の中では小さなリボーンのままであの時が一番台頭に慣れていた気がするのは着の精だけじゃないはずだ。
いまでは、よくわからない線引きをされているように感じてしまってうまくしゃべれないときもある。
考え事をしながらでも珈琲を淹れて、席に持っていけばなにやら二人は真剣な話をしているようだ。
本当に俺がいることはわかっていなかったようで、ほっとする。
そしてそのまま忙しくなり、あたふたと仕事をしているうちに二人はいなくなってしまっていた。
何をしていたのか知りたかったが、正一くんがいたということはなにかシステム系なのだろう。
そういえば、彼が今どこにいるのか聞き忘れてしまった。
けれど、俺がカフェで働いていることがわかってしまったから、きっとそのうちまた逢うことができるだろう。
久しぶりに会えたことにうれしくなりながら、バイトを終えて帰路についていた。
疲れを感じながら、歩いているとよく知った頭を見つけた。

「骸?」
「っ…なんだ、君ですか」
「そんなに驚いてどうしたんだ?」

路地の隅から顔をのぞかせていたのを見て首をかしげる。
骸はあたりを気にしながら、一つ咳払いをして見せた。

「白蘭を知りませんか?」
「そういえば、夕方ぐらいに駅前のカフェに来たけど」
「そうですか」
「そんなびくびくすることか?」
「君は付け狙われる人間の気持ちがわかりますか!?」
「わかるよ、現在進行形ですごくわかるつもりだけど」

くわっと目を見開いていってくる骸に、まさに目の前のやつに前は付け狙われていたといってやれば、ハッとして肩をがしっと掴まれた。

「なら、僕を安全に部屋まで送ってください!!」
「どうしてそうなる、女子じゃあるまいし気持ち悪いよ?」
「いいです気持ち悪くたってなんだって、僕は本当にこの身体を狙われているんですよ!?」

どうにかしてください、なんて真剣な顔で言われてしまえば無理に突き放すこともできず、ちかくにあるという骸のマンションまで送っていくことにした。
本当に、これは不可抗力といってもいい。
骸は最近丸くなって、みんなといるようになったからだろうか俺ともあまり抵抗なく付き合ってくるようになっていた。
あまりにも自然に絡んできたから俺も気にすることなく会話をしていたら、そのまま好かれる形に落ち着いたようだ。
俺としても、嫌われていたり命が狙われてしている状況じゃなければこんなに快適なことはないと思っているわけで、すごく助かった。

「で、誰に付け狙われているんだ?」
「白蘭です」
「ああ、なんか骸のこと気にしてるみたいだったしな」
「どんな風にですか!?僕はどうなってしまうんですか!?」
「知らないよ、でも悪意があるようには見えなかったけど」

むしろ好意的ななにか、だと思ったのだが間違いだったのだろうか。
その途端骸はうなだれて額に手のひらを当てた。

「なんだよ?」
「どうやら僕は白蘭に好かれているみたいです」
「よかったじゃないか」
「ライクじゃなくラブの方ですよ」
「……よかった、じゃないか?」
「よくないですよ!?君はどの口がそんな辛辣な言葉を吐くんでしょうか?縫い付けますよ!?」

がくがくと肩を揺さぶられて俺は視界が揺れた。
そんなことを言っても、他人の気持ちなんてわからないし恋愛感情なんて初恋を終えてから俺は一度も持ったことないし、わかるわけない。
しかもそれを振る前提での話をされても、夢のまた夢だ。

「俺は好かれたこともなければ、付き合ってとも言われたこともないし。そんなこといわれてもわからないよ」
「……君は、アルコバレーノと付き合ってるんじゃないんですか?」
「リボーン、そんなことないだろ……は!?リボーン!?なんで」
「付き合ってないんですか、てっきり僕は一緒に暮らし始めたと聞いたのでついに、と思いましたが…」

それなら気にしないでください、とさっきのことをなかったことにされて俺は混乱した。
なんで俺とリボーンが付き合わなければならないのか。
一緒の部屋に住んだら付き合ってるとか誰が流した噂話だ。

「だって、リボーンはちょっと前まで赤ん坊だったんだぞ?」
「何を言ってるんですか、彼は立派にもう大人でしょう。それに一般男性なら、オナニーもすれば付き合う女性の一人や二人いるでしょう、特に彼ならば引く手あまただろうに君に固執しているようですしね」

そう思わない方が不自然だと思いますよ、と言われてしまって言葉が出なかった。
自然とリボーンが近くにいることを考えていたけれど、そうだ…よく考えればリボーンは愛人がたくさんいたはずだし、俺よりも性欲はあるだろう。
俺がいない間に誰かをはけ口に使ってるんじゃないのか。

「俺は、いつもリボーンのそばにいるわけじゃないし…」
「ですが、君がアルコバレーノの近くにいる時間はずっと一緒でしょう?」

離れている時間がない時点で、考えればわかることじゃないかといわれて信じられなくて首を振る。

「どうしたんです、動揺ですか?」
「ち、ちがう…リボーンは、だってたくさん愛人いるし…俺がいない間はどこかにきっとでかけてて、いろんな女の人といるんだ…」

口に出して、なんでか悲しくなってきた。
俺じゃない人のところにリボーンがいっている、少し考えればわかりきったことが何もわからなかった。

「…君、自覚してなかったんですか」
「なにを?」
「いや、いいです。僕の言葉はなかったことにしてください、ここまででいいですから」

逆に骸は落ち着きを取り戻していて、足を止めるとそこはもう骸の部屋のあるマンションらしく礼をいって中へと入って行ってしまった。
夏も終わりに差し掛かっていて、涼しい風が頬を撫でるというのになんでか俺は暑くてたまらなくて、部屋に帰ってもリボーンの顔がまっすぐに見られなかった。
何を、俺は自覚してないんだろう。
鏡の前の顔が赤い自分に、理解ができなかった。









「#オメガバース」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -