「で、ようやく正体がバレたのか、コラ」
「ああ」
「いままで気づかなかったのかコラ」
「…ああ」
「お前、それであいつのことが好きっていうのかコラ」
「………ああ」

瞬間笑い出そうとしたコロネロの額に銃口を突きつけた。
自分でもわかっている。
どれほど希望の薄いことをしようとしているのかということは。
ツナが大学に行っている間、俺はコロネロを部屋に招いていた。
ラルと幸せな同棲生活を送っているのかと思いきや、尻に敷かれる毎日ならしい。

「おい、やめろ…言っちゃなんだが、希望が薄すぎるだろコラ」
「うるせぇ、わかってる。だから、これから少しずつ気づかせてやるんじゃねぇか」

両手をあげて降参を示したコロネロから銃を離してやればソファに深く座る。
コロネロは少し考えるそぶりを見せて、顔を上げた。

「お前が普通に告白するんじゃだめなのか?」
「…だめだ」
「ははん、怖いんだろコラ?」
「そうだ、悪いか」

からかうようなコロネロの言葉に銃を向ける気にもなれず、ため息とともに吐き出した。
取り繕っても仕方がない。
出会って一年足らずならば、すぐにあきらめることもできただろう。
だが、俺たちは近くにいすぎた上に付き合いが長くなり過ぎた。
俺にとって、ツナの存在は根深く巣食っていて、離れてしまうことなど考えられない。
だから、否は認められない。外堀を固めて、鈍感なあいつに自覚させて、俺のことを好きだとわかるまでは告白なんてできない。

「もう俺は、あいつから離れられねぇ」
「…それは、ツナだって一緒だろ」
「あいつには未来がある、なんでもかなえられる未来だ」
「はぁ、難しいやつだなコラ」
「お前らとは違うんだ」

コロネロはわけがわからないという顔をしたが、それでいいと思った。
俺たちの言葉に表せない関係を理解しろって方が無理だろう。
夕方、ツナが帰る頃にコロネロは帰って行った。
俺とツナが一緒に住むにあたって、家事は食事を一週間交代、洗濯ゴミ出しをそのとき交代制でやることとなった。
料理は作ってみてわかったが、俺とツナはどっちもどっちという感じだった。
俺は殺しの仕事をしていた時は、外食が多く何かを作ってもらっても既製品の方が安心して食べられたからだ。
ツナもママンの食事をただ食べるだけの生活を送っていたため料理なんて家庭科の授業ぐらいだといっていた。
こればっかりは、二人で成長するんだなと思ってしまったら少しほほえましく思えた。

「そういえば、俺がいない間ってリボーン何してるんだ?」
「適当だぞ」
「適当って?」
「散歩したり、寝てたり、適当だ」
「ただのヒモじゃん」

誰かと会っていたとはいいづらくごまかしたら笑われた。
まぁ、確かにヒモみたいだ。
それに実際引っ越してきてから一か月部屋に引きこもっているのは飽きてきてしまった。
大学に顔を出すのもいいが、あっちはツナの区域だ。あまり踏み込むのも悪いだろう。

「バイトでもするか」
「何の?」
「金になるバイトに決まってるだろ」
「コンビニとか?」
「そういうものじゃねぇ」

呪いが解けてからはご無沙汰だったが、ヒットマンの方の仕事を少し受けてみるのもいいかもしれない。
腕がなまるのはゆゆしき事態だ。
いつでもどこでも、俺は突然のことに対処できなければならない。

「…別になにしてもいいけど、あまり危ないことはするなよ」
「それは保障できねぇな」
「なんで?リボーンは俺の家庭教師じゃないか、まだ終わってないだろ。勝手に死ぬとかやめろよな」

ツナの料理をする手が止まった。
俺をまっすぐ見つめていうその言葉が、きつく突き刺さるようだ。

「俺を勝手に殺すな、そんなことにはならない」
「だって、今そういった」
「そんなに心配そうな顔するな」

なんだか泣きそうに見えて、無性に抱きしめたくなるが必死に押しとどめる。
あまり触ってしまっては不審に思われるだろうか。
ツナがここまで突っかかってくるのに理由がわからず内心首をかしげる。

「リボーン、俺が目を離したら俺の知らないところにいきそうで、怖い」
「いつから、お前は俺にべったりになったんだ?」
「前からだ…」
「そうか?」

子供のようなダダのこね方に笑って見せれば、すねたように呟いてまた料理をする手を動かす。
出来上がったものをテーブルに運んできて、俺もそれを手伝う。
なんとなく、ツナの顔がすねたものから戻っていない様子に機嫌を損ねたのかとますますわからない。

「暇でもなんでもいいから、あまり一人でどっかいくなよ」
「わかった、心配するな」
「……」

ツナの独占欲のようなものを見せられてうれしく思うが、笑って言うとまだ納得していない様子だった。
夕食を食べた後もツナの機嫌はあまりよくならなかった。
そのあとは一人部屋にこもって課題をしないといけないと俺は一人残された。
マンションに暮らしているからには金は何かと入用になってくる。
ないよりあった方がいいだろう。
ツナにわからないようにすれば、かまわない。
正直、ツナがこっちを好きになるようにさせるのにどうしたらいいかよくわからない。
ツナの世界は日々広がり続けている。俺が独占欲を見せたところで、なびくことはないだろう。
もう少し、機会をうかがった方がいいみたいだ。




なんだかよくわからないもやもやが俺の中を渦巻いている。
課題をしようと開いたノートは一時間経つのに真っ白のまま。
リボーンが危険なことをしようとしている。
それは困るけれど、止めるすべを俺は持たない。
だって、俺といてリボーンはあまり楽しそうではないようだ。
一緒に住み始めたのはいいけれど、楽しいのは俺ばかりみたいだ。

「本当はもっと楽しいことだと思ってたんだけどな」

どうしてそう思うのかわからないけれど、リボーンは楽しそうだったし…。
大学生活の方はおかげさまで勉強以外は順調だ。
何かと気にかけてくれる雲雀さん、いつものように迎えに来る山本と獄寺君、骸が大学に受験していたこともあってクロームはよく骸のそばをついてあるいていて、了平先輩は違う大学へと進んでいる。
楽しい毎日に俺は公私ともに充実しているはずだった。

「それなのに…なぁ」

どうしてこんなにもリボーンのことが気になるのだろう。
きっかけはといえば、たぶんあのリボーンがあのときの人だったってことを知ってからだ。
俺の中で、あの人の存在は本当に救世主のように思えていて、だからあの人がリボーンだと知った時なんとなく安心もしていた。
なんで安心したのかわからないけれど、リボーンだと思ったらなんだかうれしくて浮かれていたのかもしれない。
そりゃ、リボーンが一人でこの部屋にいるのは暇だろうけど…それだったら、誰かを呼んでみたりすればいいのに。
なんで、仕事しか頭にないのかな。リボーンは俺の家庭教師っていう仕事があるのに。

「今日も来ないし…」

二人暮らしをするようになってからリボーンは俺の部屋に入らなくなった。
いつもは、一緒の部屋で勉強を見てくれたりしたのに。
今ではそんなことなんてなかったかのように、一人の時間をくれる。
正直、一人の時間なんていらない。
ランボやリボーンやイーピンがいて騒がしいのが常だったのに、いきなりこんな静かなところで勉強できるかと言われても無理だ。
誰かがいる方が逆に安心するタイプだったのかと新たな発見をしながら、俺は椅子を立ち上がりそっと部屋の外を覗いた。
リボーンはおらず、部屋に入ったのかと思ったがどうやら風呂のようだ。

「なんだか、遠くなったみたいだ」

近くなったはずなのに、変なの。
こつりと壁に頭を押し付けて小さくつぶやいた。
これではなんだか片思いをしている女のようだと思って首を振り再び机に向かう。
これ以上はただの雑念だ。
課題ができなくて困るのは自分だと奮い立たせる。
途切れた集中を呼びさましてもう一度机に向かったのだった。




風呂から出ればツナは出てきた様子もなく俺は舌打ちを零して部屋に入った。
本当はもう少しスキンシップをとってやるつもりでいたのだが、うまくいかないものだ。
想像したものよりずっとツナとの距離が遠く感じる。
隣の部屋だというのに、こんなにも遠くなるとは思っていなかった。

「少し様子でも見てみるか」

少しだけだと自分に言い訳をつけて、コンコンとノックをしてみる。
が、返事が来ない。
俺はそっと中を覗いてみる。
そしたら、ツナはパソコンと向き合ったまま机に突っ伏していた。

「寝たのか」

課題は終わっているのだろうか。
覗き込むが、途中らしく言葉が途中で止まってしまっている。
調べたままの資料も開いたままで大丈夫かと少し心配になった。
起こすべきか、寝かせるべきか。
俺としては寝かせてやる方が身体のためにもいいだろうが、こいつの頭的に言わせれば起こす方が先決か。
俺はスッとハリセンを取り出して、いつものように叩いて見せる。

「いってぇぇっ…って、リボーン?」
「なにしてんだ、課題やってるか見てみれば寝やがってしっかりやれ。終わらせてからじゃねぇとやばいんだろうが」
「あっ、そうだった…でも、眠い…」
「コーヒー淹れるか?それとも、このままベッドか?」
「リボーンが甘やかす選択しだしてくるなんて…珍しい」

無理やり起こしたせいかツナの顔はまだ眠そうだ。
譲歩してやるときょとんとした目が俺を見てくる。
甘やかしたことはあまりないが、そうまで言われると厳しくされたいのかともう一度殴るためにハリセンを握る手に力がこもりかける。

「殴ってほしいなら今すぐにでも殴ってやるぞ?ただ、大変なら睡眠だってとった方がいい」
「…うん、そうだね…あのさ」

ツナが顔を上げて俺を見てきた。
その表情に少しのテレが混じっているのを俺は見つけてしまった。

「少し、そばにいて」
「どうした?」
「いや、なんか…誰かいないと落ち着かなくてさ。リボーンが寝るまででいいからベッド使って」

ね、と促されたそれに俺は不思議に思いながら腰掛けた。
何の誘いかと思ったが、ツナにはまったくそんな気はないようだ。
焦らせるなと若干焦りながらしばらくそこにいた。
ツナは俺が来てからというもの課題を張り切って終わらせ、終わって風呂に入っている間に俺は自分の部屋に戻る。
少し、俺も一人がつまらなくなっていたのでちょうどよかった。
今日はいい気分で寝れそうだと、ツナが俺の部屋におやすみをいいにきたのに返事をして電気を消す。
しばらくはツナとの距離感を図らないといけないようだと、改めて思っていた。









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