この春から大学生になった。専攻はリボーンがすべて勝手に決めてしまった。
というか、俺が何にしたらいいかわからないと言ったら、リボーンが選んでしまっていたのだ。
でも、俺に必要なスキルをわかっている一番の人物でもあるからそれに不満はなかった。
大学は自宅から少し離れていて、俺は大学近くのマンションに住むことになり、それにリボーンもついてきたのには驚いた。
だって、せっかく離れることができるチャンスだったのに、お前がしっかり勉強するのか不安だとかそんな理由つけてまで一緒にいたがるなんて…変だろ。

「おい、ツナ…こっちは俺の部屋だからな」
「わかったよ、それよりこっちの荷ほどき手伝えよ」

自分の部屋ばかり気にかけているなと調理用具の入った段ボールを開ける。
食器やら、コップやら母さんが持たせてくれた。フライパンも、ほかにもいろいろ自炊するのよと言って料理本ももらったけど、家庭科の成績が平均以下の俺に何を期待しているのだろうか…。
とりあえず片付けなければと出して出して出して…って、リボーンはいい加減俺を手伝え。
俺はいつまでたっても出てこないリボーンにしびれを切らして、立ち上がると部屋の中を覗き込んだ。

「いったい何して…」
「あ…」
「……銃の手入れは後にしろっ」
「ちょっとまて、これやったら手伝ってやる」
「ちょっとも何も俺は必死で片付けてるのに、お前は勝手に自分のことしてて卑怯だろ、こっちやってからにしろ」

片付けてて主旨がどっかいくやつっているよな、とうんざりしながらリボーンの服を引っ張ってフローリングを滑らせた。
怒る声もなんのその、むしろ俺の方が怒っているのだ。

「俺ばっかにやらせるなって」
「ったく、しょうがねぇな」
「エラそうっ」

そもそもリボーンは俺についてきただけなのに、なんで非協力的なのか。
まったく、とぼやきながらフライパンやら何やらを出してリボーンがしまっていく。
半日も使えばようやくまともに引っ越しを終えることができた。

「それにしても、またお前と一緒なんてなぁ」
「いやか?」
「ん、別に。ただ、このままじゃ俺リボーンいないといけなくなりそうだなって」
「ばかやろう、大学いってる間俺はいないんだぞ」
「わかってるよ」

二人でソファに座りながらつぶやいた。
いろいろ動き回ったからこれ以上動く気にもなれない。
リボーンは持ってきたエスプレッソサーバーでコーヒーをいれて一人楽しんでいる。

「で?」
「で?…なんだ?」
「いや、なんだかんだ俺は毎日することがあったけど、何もしなくていいのか?」
「体力作りは十分だ、後は頭だな。あと、今日は来客がある」
「は!?そんなの、聞いてないぞ!?」
「言ってないからな、大丈夫だお前も知ってるやつだからな」

リボーンに言われた言葉に身体を起こす。
何時に来るんだと聞けば、もうそろそろだと時計を見ていった。

「なにもないじゃん、なんだってこんな日に…」

俺は急いで外で何かお菓子でも買ってこようと財布を手に取ったが、玄関に向かう途中ピンポーンと呼び鈴が鳴った。

「来たみたいだな」
「えー、もっと早くいえよ」

リボーンは立ち上がるとこっちに歩いてきて、俺の頭をくしゃりと撫でて俺より先にドアを開けた。
目の前には何もなくて、視線を下げればそこににっこりと笑った女の子が一人。

「ユニ…」
「こんにちは、おじさま、ツナさん」
「おお、よく来たな。迷わずこれたか?」
「はい、ガンマがそこまで送ってくれて…」

ちらりと後ろに視線を流すユニの先を見れば、マンションの下に車が止まっていた。
手土産を掲げて、引っ越しおめでとうございますと渡されてしまった。

「いや、俺さっき来ること知って何も用意してないんだ」
「いえ、いいんです。もらってください、それに…ツナさんの新たな一歩ですから」
「え…」

彼女は笑顔で俺に菓子折りを押し付けてくる。
未来を見ることができる彼女は俺がこうすることがわかっていたのだろうか。

「ユニ、時間が取れるなら上がっていけ。なにもないけどな」
「はい、私もゆくゆくは一人暮らしをしてみたいと思っているので、見せてもらえるとうれしいです」

冗談とも本気ともつかない一言を言いながらリボーンに促されてユニは俺たちの部屋へと入ってきた。
俺は持ってきたものを開けて、確認するとクッキーでこれを出させてもらおうとお茶とクッキーをテーブルに並べた。
部屋を見て回った後彼女はすごく楽しそうに近況を話して、クッキーを食べながら笑ってそうして、待ちきれなくなったガンマが迎えに来るまでそれは続いた。
まるで、妹のような明るさで何でも悟ってしまう彼女はリボーンのそばにいるのが心地よさそうだった。

「本当にすみませんでした」
「いや、全然…俺はすごく楽しかったから」
「さ、早くいきますよ」
「はい」
「ユニ、また来たくなったらいつでもこい」
「はいっ」

リボーンの一言に笑顔になれば、ユニはガンマに手を引かれて帰って行った。
女の子というのはどうしてあんなにしゃべるのか。
結構おとなしくて無口だと思っていたが、人は見かけによらないのかもしれない。
ちらりと隣を見たら、リボーンと目があった。
俺は何となく気まずくて目をそらす。

「なんだ?」
「なんでも、ない」

ユニも大きくなったと思ったのに、なんで今リボーンの顔が自分の視線より上にあったんだろうかと考えて、リボーンが俺の身長を優に超えていたからだと気付いた。
そして、その面影はなんだか見覚えがある。
ハッと気づいた。それはすごく唐突で、なんで今まで気づかなかったのか不思議なぐらい自分の記憶にぴったりと当てはまった。
もう一度リボーンを振り返る。

「だからなんだ?」
「…お前、あの時のスーツの男!?」

ずるっとリボーンがこけた。
珍しいものを見た気がする…じゃない、なんでそんな反応するんだ!?

「なんだよ、なにかおかしかった!?」
「…お前、今頃気づいたのか…俺はてっきり感づいて何も言わなかったとばっかり思ってたぞ」
「へ?あ、いや…え、ええええっ!?」

半分冗談のつもりだったのに、まさか当たってしまうなんて…。
びっくりすればまたリボーンはがっかりした顔をして自分のボルサリーノを俺の顔に押し付けてきた。

「わっ」
「ったく、びびらせんなダメツナ」
「なんだよそれ」

俺が顔を出したときにはリボーンは中に戻っていて、俺はあわてて追いかけた。
ソファに座る背中に俺は一つ深呼吸する。

「あの時は、ありがとうございました」
「ツナ」
「ずっとお礼、しようと思ってたんだ」

まぁ、こんな近くにいるなんて思ってなかったけどと照れながらも笑って、振り返ったリボーンにボルサリーノを返した。

「言ってくれたらよかったのに」
「いうわけねぇだろ」

リボーンの隣に座って、また二人の時間が流れた。
なんで言わなかったのか気になったけど、なんとなくそれ以上突っ込むことをためらってしまった。

「とりあえず、今日からまたよろしくな」
「おう…食うもんねぇけどな」
「あっ…そうだった、買い出しいかないと」

リボーンの指摘に立ち上がり財布を再び手にとる。

「ほら、リボーンも行くぞ。働かざる者食うべからずなんだからな」
「ほう?俺の舌にあう極上の飯を作ってくれるっていうんだな?」
「何を基準に言ってるんだよ」

ふざけたことを言いながらリボーンは俺の後についてきて、俺は先を歩く。
リボーンはいつも俺の少し後ろを歩く、それは前から変わらなくてけれどなんだかそれが今日は少しさみしいと思った。
さっそくホームシックになってしまったのかと思いながらそれを振り払うように首を振った。
これから新しい生活が始まるんだ、そして次こそは迷いない判断を迫られるんだろう。
それまでに、決意を…覚悟を決めなければ…。




その日の夜、俺は眠れず天井を眺めていた。
ツナと離れるのは面倒でついてきてしまったが、少し後悔している。
鈍感なのはわかっている、がいつまでたっても俺を眼中に入れないツナにはほとほと呆れはじめていた。
それでも、好きという事実は変わらないあたり俺も大概しつこい性格をしている。

「にしても、あの時の俺と今の俺をようやく重ねたツナにこれ以上を望めるかと思えば、無理だな」

あの難攻不落なダメツナに、どうやってこちらの気持ちに気づかせるか、これからが問題だ。
ボスになれと強要し、小さな脳みそにこれでもかといろいろ詰め込んだ上に、これからあいつを悩まそうとしている。
でも、これ以上は待てなかった。
あいつをほかの奴らには渡したくない、こうして近くで見守って誰かに取られるのを阻止するぐらいには、俺は余裕がないのかもしれない。

「すまん、ツナ」

これから俺は、お前のことを俺のものにする。









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