漂うように流されてきた。何もかも受け入れれば、そのうち俺の意見が受け入れてもらえる時が来る、とそう…信じていた。
けれど、現実はそんなに都合のいくものではない。
俺の決断は生半可をゆるさず、黒か白かを確実に選ばせてくる。
責任を、背負うのか、捨てるのか。二択が俺に重くのしかかってきていて、縋るようにリボーンへと伸ばした手、は振り払うでもなくゆっくりと握られた。

「どうした、ツナ?勉強がつらくなったか?」

夏の終わり、中間テストが終わったころあい。平和な日々のはずなのに、俺は毎日のように不安に襲われるようになった。
本音を言うと、学校にも行きたくない。みんなと顔を合わせるのもつらくて、リボーンの顔ですら見たくなかった。
無言の訴えにリボーンは気づいてくれることもない、ベッドに寝転がったままの俺にそっと声をかけてきた。
様子を窺うようなそれは、たぶん日に日に俺の口数が減っているのが原因かもしれない。
三日に一度は聞いていた、お前はボスになれという言葉をここ最近はまったく聞いていない。
選ぶことの辛さ、逃げ道のない恐ろしさ、とても言葉にできない事実ばかりで本当は震えあがりそうなほどなのに誰も助けてくれない。

「お前、おっきくなったな」
「当たり前だろ、もうランボも抜いた。フウ太は成長期に入ってるからもう少しで抜けるぞ」
「そっか…ほんと、のんきだな」

少し笑って、リボーンの手のひらが俺の手と同じぐらいになっているのに気付いた。
フウ太は最近いたりいなかったりで家をあけていることが多かったが、確かにリボーンはフウ太と同じぐらいの背丈になっているみたいだ。
リボーンの成長も俺に追い打ちをかけるようだとひそかに思って、けれどその温かな手を離したくなくて握る手に力を込めると、頭を撫でられた。
それは前までの小さな手ではなく、しっかりとした男の人の手。
いつの間にか俺の目に涙がたまっていて、今ここで泣いたら理由を追及されるとあわてて止めようとするが、あふれだしそうなそれは簡単に収まってくれるはずもなく、ポロリと決壊した。

「ツナ」
「あ、なんだろう…眠いから、じゃないか?」
「…こっちにこい」

あわてて取り繕うとするが、それは苦しい言い訳でしかなくて、それをみたリボーンは何を言うでもなく俺の手を引いてきた。
起き上がるように示されるそれに、おとなしく従うとリボーンは俺のベッドに腰掛け、自分の足をたたいて見せる。

「前俺のことをさんざん抱きかかえてただろ、今度は俺がしてやるぞ」
「なんだよそれ、ひそかに屈辱的だったとかそんなのは聞かないからな」
「いいから、早くしろ」

何をする気だと訝しむが、そんなのは関係ないと俺の手を引いてくる。
俺は仕方なく手を離して、リボーンと向い合せになるように足をまたいだ。
本当に子供になったような気分で、けれど泣いている手前リボーンのことは恥ずかしくて直視できない。
俺は視界に下にくるリボーンの肩に顔をうずめた。
すると、背中を包み込むようにして抱きしめられ、背中を撫でられたらひとたまりもなかった。
俺の弱さが顔を出してとめどない涙を零し、リボーンの肩を濡らす。

「怖いか?…俺がいても、俺と同じ世界を生きるのは…怖いか?」

耳に落ちてくる言葉に俺は顔を上げた。涙でぬれた瞳ではうまく見れなくて、リボーンがどんな顔をしているのかわからない。

「みんながいて、お前を守る。俺だってそうだ、お前が是と頷けば図らずともほかの奴らもついてくるだろう。怖いといえば、助けてくれる奴だっている」
「無理だ、無理…だよ。俺は、弱くてダメツナで、あのときから変わったことなんて、つながりができたぐらい。これからどう頑張っても俺はボスの器になれないし、そのままボスになったところでみんなを路頭に迷わせることになったら…俺は」
「ツナ…結局、お前は是と頷く理由がほしいだけだろ」

決して咎める声ではなく、優しく耳に落ちてくる指摘。そうだ、俺がほしいのは逃げ道ではない。
もう逃げられないと、いっそ追い詰めてうなずくしかできない状況にしてほしいんだ。
そして、流されてまた…俺は。

「けど、俺はそんなに甘くないぞ。お前は自分の未来を自分で選ぶんだ。みんなだってそうだろう、お前をボスにと選んだ道に迷わなかったことはないはずだ。それを、お前ひとり楽しようなんて考えるな」

その代り、今はたくさん泣けとまたリボーンは俺を肩に押し付けてきた。
ごつごつしてちょっと痛かったけれど、でもどうしようもないことに泣かせてくれるその腕の中は確かに居心地がよかった。



それからしばらくして、進路調査の紙がクラスで配られた。
俺の道は、大学への進学だ。そこから、就職か、イタリアへ行ってボスか、とまた選択を迫られるのだろう。
それとも、ここから就職へと逃げるか…。
思いつくほどに選択が増える、俺は迷うしかなくて与えられた一週間で答えを出すには少し、難しかった。
それでも時間は着々と迫って、そんなある日また俺は夢の中で骸に出会うことになる。

霧の立ち込める花畑、いかにも姿を現しそうだとあたりを見回しているとそいつは現れた。

「骸…」
「現実世界ではそろそろ君の進路を決めるころですか?寝ていないようですね、そんなんで大丈夫なんですか」
「大丈夫じゃない、大丈夫じゃないよ」

毎日泣きそうだと、静かにそう本音を告げてやれば骸は戸惑ったように視線を泳がせる。

「それを何とかするのが君の使命なんじゃないんですか」
「使命とかそんなすごいことじゃない…俺は…もっと、普通にしてたいよ」

好きでなったんじゃない、そういえば骸はますますうろたえて見せた。
どうして、俺じゃないのにそんなに戸惑うんだろう。
骸はもっと自由気ままなんだと思ってたのに…。

「なんでボスってだけで、嫌われなきゃならないんだよ」
「それは、君が…」
「俺が、なに。俺が何したっていうんだよ、不可抗力でこんなことになって骸にはこんなに嫌われて、そりゃ俺が何かしたなら仕方ないけど、そうやって俺の身の上のことで一方的に嫌うのとかって、卑怯じゃないか」
「ひ、卑怯ってなんですか」
「卑怯だろ、俺はお前のこと嫌いじゃないのに…」

俺は頭にきて骸の手を掴んだ。
ボスとかもう、どうでもいい。けれど、骸が一人でいるのはなんだかかわいそうだ。

「俺のこと、嫌いじゃないなら俺についてきて」
「な…君は、僕がどんな人間かわかってるでしょう?」
「それがなんだよ、十年後のお前は俺のこと助けてくれた。クロームを通じてでも、この世界で俺のことを助けてくれた。だから、友達になってよ」

お礼を言わせてくれと、見つめれば骸は後退さり視線が泳ぐ。
嫌なのかともう一度問うた。

「嫌じゃ、ないですよ。ただ、僕はマフィアが嫌いで…」
「俺だけを見て、マフィアとかどうでもいいから…お礼を言わせてくれよ」
「君は本当に馬鹿ですね。こんな僕と友達とは…」

骸のあきれたような苦笑と握り返された手に俺は、うれしくなってありがとう、とお礼を言った。
長い間、一人にしてしまったような気がする。
いや、骸には犬や千種がいるから大丈夫だろうけど…。
そうして、ぐにゃりと視界がゆがんで、一気に現実へと引き戻された。
目を開けると、手に確かな感触。
俺が横を向くと、そこには骸が立っていた。
窓から秋をにおわせる風が吹いてきて心地いい。

「やっと、会えた」
「僕のことをそんな風に言ってくれるなんて君だけですよ」
「…言わないだけで、みんなそう思ってるよ」

照れたように顔を逸らす骸に笑って身体を起こして、握ったままの手を確かめるように見つめた。

「僕は、絆されたわけではありませんから」
「ん、しってるよ?」
「ならいいんですよ」

するりと手が離れて、骸は部屋を出て行こうとする。
俺はあわてて、服を掴んだ。

「何してるんです?」
「どこに行くのかと、思って」
「僕は僕の居場所がありますので。君がどうしてもというのなら、いてあげますからそんなさみしそうな顔をしないでくださいよ」

どうしようもないと笑われて、恥ずかしくなれば手を離した。
骸はそのまま窓に手をかけて、それではと出て行ってしまった。
結局俺に何が変わったのかと言われれば何も変わってない。
俺は俺のままだし、うまく決めれないし…。
けれど、進路希望調査の紙には大学進学を書き込んでみた。
このさきまたいろいろ思うんだろうし、たくさん迷うのかもしれない。
でも、俺はまた何かをきっかけにして選んで何かを犠牲にするんだ。
それでいい、何も犠牲のない人生なんて早々ない。
そのときそばにいて力になってくれる人がいてくれたら、俺はまた選べる気がするんだ。





END






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