「ツナぁっ、オレっちを公園に連れてけー」
「はぁ?なんだよ、俺勉強してるんだけど」
「リボーンがいない今がチャーンス」
「お前な…」
今日は学校の休日。俺はリボーンに言われるままテスト範囲の勉強をしていたのだが、突然乱入してきたランボに俺はため息を吐いた。
ランボもすくすくと成長していて今ではビアンキとよく外に行っているようだ。
そのため、俺の方に来ることも減っていたのだが、今日はビアンキもいないらしい。
ランボはボールを持ってベッドに乗ると飛び跳ねながらそーとそーととはしゃぎだしてしまった。
これでは俺も勉強どころじゃない、というか勉強にもそろそろ飽きてきたころあいだった。
リボーンは出かけてくるといって朝からいないし、いつ帰ってくるかもわからない。
「うーん、しかたないなぁ…ちょっとだけだぞ」
「やったー」
嬉しそうに飛び跳ねるランボの身体を捕まえてベッドの下におろすと母さんに一言言って家を出た。
「ツナ、ツナ、何して遊ぶ?」
「なにって、そのボール一つでなにができるんだよ?」
「えっとね、えっとねぇ…サッカーとバスケとぉ、バレーと…」
「あのなぁ、それ二人でやったってつまらないだろ」
ランボが上げ連ねたものはどれも大人数でやるもので、ボール遊びといっても俺だってあまりしらない。
野球ボールぐらいだったらキャッチボールができただろうが、ランボの持っているものはサッカーボールぐらいのものだ。
まぁ、これで二人でサッカーをやってもいいのだがすぐに飽きられそうな気がする。
その方がいいのだが、俺はやっぱり勉強したくなくて、たまにはランボのことをかまってやりたくてもっと楽しい遊びはと考えてみるが、運動もダメダメな俺には楽しい遊びが思いつけずにいた。
「あれ、十代目」
「獄寺君」
声をかけられてそちらをみれば、獄寺君が歩いていた。
服装がラフなのを見ればトレーニングなのだろうかと首をかしげる。
「こんなところで会うなんて、運命ですねっ」
「こら、おれっちのツナに触んな」
「アホ牛、てめぇなに独り占めしようとしてんだっ。十代目はみんなのものだ」
「やだもんねー、ツナはおれっちのだし…べー」
思いっきり舌を出して獄寺君を挑発するランボに余計なことするなよとため息を吐いてしまう。
ランボはこれでも落ち着いてきた方なのだ。
あの時は、本当にわけのわからない子供だった故に手榴弾などとんでもないものを持ち出していたが、今ではそれはなりを潜め、今ではその小さな体で必死に相手を殴りつけている。
暴力的ではあるが、その身体から繰り出されるものはとても微々たるもので、それにまともに取り合う獄寺君も獄寺君である。
「黙っていれば、好き勝手言いやがって」
「もう、二人とも落ち着いて。せっかく獄寺君も来たことだし三人でやろう、な?」
「えー、こいつと一緒なのか!?」
「いいだろ、二人より楽しい」
「十代目、いったい何の話を?」
勝手に話を進めてしまったがために獄寺君はなにもわからないらしく首をかしげている。
俺は初めから説明してやると、お安いご用ですと胸をたたいた。
「俺も結構サッカー得意っすから」
まかせてください、と言われればまぁ任せてみるのもいいか、と思ってしまう。
そもそも三人でやるのだから任せるも何もないのだが。
公園の広場に入ると三人で等間隔に相手の見える位置に距離をとる。
ランボがボールを蹴る。俺が蹴って、獄寺君に。
そしたら、それが戻ってきてそれをランボに。
最初はこんなもんだろうと思っていたが、二人とも俺にばかりボールを回してくる。
嫌いあっている二人だからお互いにボールを回したくないのだろう。
「しょうがないよな」
この二人の間も少しずつ改善していくだろうということはわかる。
なにせ、二人ともお互いのことを気にしている。
本当に嫌いだとしたら眼中にも入らないはずで、小さなランボにもちゃんと向き合っている獄寺君はある意味で気は短いが大人だ。
そんな風に少しずつランボが育つのを見守っていれたらいい。
ひそかににらみ合う二人がなんだか、兄弟のようで…もし、ボンゴレという名目でつながれるようなことがあれば、そんな家族のようなつながりがいいなと、俺は思う。
「つなー、早く蹴れー」
「わかったよ」
ランボにせかされてそちらに蹴ってやる。
すると、ここでまさかの俺のダメダメなところが出てボールはランボを通り過ぎ、その先にいたガラの悪い人の頭へと当たった。
「おい、誰だボール投げつけてきたやつはっ!?」
「ひっ…」
「ぐぴゃっ」
案の定その人を怒らせたらしくボールを持って声を張り上げてくる。
俺は完全にすくみ上り、ランボも涙目で固まっていた。
どうしようかと迷って、獄寺君はどうするのだろうとそちらに視線を向けた。
「すみませんでした、こちらの不注意です。どうか、ボールを返してもらえませんでしょうか」
「…チッ、仕方ねぇな…今度は気をつけろ」
「はい、ありがとうございますっ」
ぺこりと頭を下げてボールを返してもらった。
俺の予想では、獄寺君がいち早く殴りかかってそうなイメージで、そう来るとは思っておらず拍子抜けすると同時にちゃんと周りをみているんだと感心してしまった。
前の獄寺君ならもっと感情のままに言っているんだろうけど、そんな彼が頼もしく俺のせいなのにその光景をほほえましく見つめていた。
「十代目、行きますよー」
「うん、ありがとう獄寺君」
「いえ、この俺に任せてください」
少しずつ、時間を経て変わってくるものは身長や体重といった目に見えるものばかりではないことを思い知らされた気分だ。
ひとしきり遊んだところで解散となり、獄寺君は商店街の方へと歩いて行った。
俺とランボは、ランボがつかれたといったせいで俺はランボを背負っていた。
ずしりと重たいそれに成長を感じながら道のりを歩いているとぎゅっと首にランボの手が回された。
「おれっち、いつかちゃんとツナのこと守れるようになるから」
「ランボ…」
「ツナ、ちゃんと覚えて」
「うん、わかったよ」
決意のように呟かれたそれは、きっと昼間のことを指していて苦笑した。
俺より年下のランボが俺を守れるようになったときにはまた感慨深いものを感じてしまうんだろうと思う。
眠ってしまったのか重くなる背中に小さく笑って歩いていると隣を歩く人物が目に入った。
「リボーン…あ、れ?…なんでここに?」
俺は自分のしてきた所業を忘れて、一瞬出遅れた。
逃げようとした足にチャッと突きつけられた愛銃にひぃと情けない声を上げた。
「よし、ツナ。自分がしてきたことを思い出したところで、今日出した宿題にペナルティ追加だぞ」
よかったなと言って小さい手が俺に触れてきた。
ただただ、そんな絶望的なことに情けない叫びをあげていた。