高校生活にも慣れ、あっという間に時間は過ぎて行き夏休みへと突入していた。
高校に入ってからは初めての夏休み。
中学の時もなんだかんだと時間を試練だ修行だと潰されてしまったので、今年こそはゆっくりと夏休みライフが堪能できるかと思えば…そうじゃなかった。
「まぁ、リボーンだしな…」
「そこ、文句あるならに三キロ追加だぞ」
「ひぃ…もうやだよー」
今日も今日とてリボーンは女装をして俺の隣をキックボード片手に笛を吹く。だんだんと身体が大きくなるのに、その趣味だけは止めないんだなと思いつつも口には出さない。
俺だって命は惜しいのだ。
夏だというのに俺はランニングに駆り出されていた。
『部活をやっている山本ならまだしもお前は帰宅部でなおかつ夏休みはだらけようって魂胆は見え見えなんだぞ。つーことで、ランニング十キロいってみよー』
なんていう勝手な一言で俺は夕日がさす土手沿いを走っていた。さすがに炎天下の中は知らされなかっただけましかと思いつつ、獄寺君はと聞けばあいつは自主的にトレーニングしてるから問題ないぞと言ってくれた。
どうして獄寺君はマフィアに対してアクティブなのだろうと呆れながら俺はため息をついた。
するといきなり、リボーンの蹴りが入る。
「いってぇ…何するんだよ、リボーン」
「真剣にやれ、ボスだってただ座ってるだけじゃないんだからな」
「わかってるよ…って、だから俺はボスになんかならないって」
「そのやりとりいつまで続ける気だ?」
「いつまでもなにも…お前が諦めるまでに決まってるだろ」
まったく、俺はこんなことしないような普通のサラリーマンに慣れるぐらいでちょうどいいのに、と言葉にしないまま思った。
ただ、こんなことを言ってしまえば、またリボーンはいなくなってしまいそうで、つい、そういう発言は避けてしまっている。
前にいなくなられたことが、俺にとってこんなに根深く残るとは思ってなかった。いや、忘れてしまうこともあるけれど…なんでか、あのことがリボーンを突き放す瞬間になると頭をよぎるのだ。
「ったく、考え事すんなっつってもお前はするんだな」
「へ?」
「とりあえず、行って来い」
「なにす…うわぁっ」
リボーンは俺の少し先を走っていたが、いきなり足を止めるとキックボードを持ち上げ、振りまわし俺を土手から下へと落とした。
下は砂利になっていて強かに尻を打ちつけた。
いてて、と顔を上げて何をするんだと上を見たがリボーンの姿はなく、何をする気だと声を上げようとして自分の口を自分で塞いだ。
川の橋の下から声が漏れ聞こえたからだ。
俺はそっとそちらへと視線を動かした。
すると、そこには数人の男たちが寄ってたかって一人の人間にたかっているように見えた。
リボーンを探すも見当たらず俺にこれを解決しろってことなのかとおかれた状況に迷いつつもそっとそっちに向かう。
「すみません…やめてください」
「誰がやめるかよ」
「金出せよ、コンビニで引き落としてたのみてんだよ」
「カード取らないだけマシだろ?おら、早くしろよぉ」
これはどうするべきか…つか、逃げなきゃ。
そう考えて、反対側へと向かわせた足を止める。
ここで逃げたら、前と同じだ。俺は何も変わってない、けれど…ここでリンチに遭っている人を見捨てておけるほど非情にもなれなかった。
俺がこんな風に誰かを助けるなんて、思ってなかったのにな。
それは、きっとリボーンのおかげなんだ。
俺は深呼吸をして、人が群がっている場所へと歩いた。
「おい、止めろ」
「ぁあ?なんだ、こいつ」
「正義の味方ってか」
「マジうける」
「ツナ…くん」
「炎真君!?」
奥から顔をのぞかせたリンチされていた人物に驚きつつ、俺は声をかけたは良いが何もできない。
男たちの注意はこちらに向いたが、何の策もない。
俺は炎真君の傍へとよれば、守るように立ちはだかった。
「なにしてんだ」
「ああ、俺達に金くれるんだな」
「そうか、そういうことか」
「ひっ、ツナ君…逃げよう」
「逃げられないよ」
炎真君は肩に手をつくが、ここまで来てしまえば逃げることもできないと首を振る。
逃げ道は塞がれてしまった。
勢いづいて俺が入っていっても、力も何もないため解決には至らない。
どうしようかと考えてみるが、どうにもこれの打開策が見当たらない。
リボーンはどこかへ行ってしまったし、このままじゃ俺と炎真君二人で地面と仲良くすることになってしまう。
「…どうしよう」
「どうしよう?今ここで金だせば、全部解決すんだよ」
「そーそー、面倒だから早くしろよ」
「ぐあっ」
詰め寄ってくる男たちの後ろから呻き声が聞こえて、俺はそちらに視線を向ける。
「大丈夫か、沢田」
「おにいさ…じゃなくて、笹川先輩」
現れた助っ人に俺は声をあげた。
「極限、助けに来たぞ」
「っにすんだよ…ぐえっ」
「ひぐっ」
笹川先輩はそこにいた男たちをあっという間にのしてしまうと、俺の手を取ってくれた。
「老師に、お前を守ることは守護者の任務だといわれたからな」
「老師…?」
「パオパオ老師だ、あの方は俺の永遠の師匠だぞ」
「…あ、そう…ですか」
パオパオ老師と聞いて、リボーンの姿がよぎる。
いないと思ったらまたコスプレかよっ。
「ありがとうございます」
「俺は沢田を助けただけだ、じゃあな…俺はトレーニングに戻る」
「はい、ありがとうございました」
笹川先輩は手を上げると土手沿いに登って走っていってしまった。
俺と炎真君は暫く呆然としていたが、顔を見合わせると一気に脱力した。
「よかったぁ」
「ツナ君、なにもなく僕のところに来たの」
「あはは…うん、なんか身体が勝手に動いちゃってさ」
自分でも無謀だったと笑って炎真君についた埃を払ってやる。
俺もそうだけど、炎真君も結構巻き込まれ体質だよなぁ。
「ありがとう、助かったよ」
「俺は何もやれなかったけどね」
炎真君はそんなことないよと笑って、俺の手を握った。
「ツナ君は強いと思うよ。僕よりも、ずっとたくましいや」
「そ、そうかな」
強さを認めてもらえて、俺は少し自分の力を自覚できた気がする。
なにもできないけれど、そこで終わってはいけないんだ。
影からツナを見守っていた俺はため息をついた。
つくづく、危なっかしい奴だ。
まぁ、俺があれに飛びこませたのもあるがもう少し策があると思った。
「そういや、ダメツナだったか」
そこまで頭が回らないあたりツナだなと笑って、丁度通りかかった了平に助けを求めた次第だ。
本当に通りかかってくれてよかった。
「まだまだ、やることが残ってるぞ…ツナ」
目先のことで安心してはいけない。この先の未来までを見据えていかなければならないんだ。
「アイツが自覚持つ頃には…」
周りがついてきてくれるはず。
ツナの存在は好意をよせられる対象だ。
「悔しいけどな…今は、少しずつでも力をつけさせてまとめさせる力を養わねぇといけねぇ」
ボスにとって一番必要なことだった。
ツナはならないと言っているが、責任感は持っている奴だ。
俺はニヤリと笑って、手を取り合うツナと炎真を見降ろしていた。