家庭教師のリボーンのスパルタ教育によって俺は高校を入学することができた。
今日はその初日だ。
今日から一年間を共にするクラス表を前に自分の名前を探している。
「俺は二組だな」
「げ、野球馬鹿と一緒かよ。十代目はどこっすか?」
「俺は…三組だ」
「クラスバラバラになっちまったな」
残念だなと笑う山本にそうだねと若干一緒のクラスになるんじゃないかと思っていた俺は少し寂しかった。
せっかく仲良くなったのに、離れてしまうのは不安でもあった。
「あ、でも隣だからいつでも会えますねっ」
「そうだね」
獄寺君の一言に俺は納得して頷いた。
そうだ、別に学校が離れたわけでもないのに何を不安がってるんだろう。
俺はとりあえずHRが始まる前にと二人と別れ、自分の教室へと入った。
誰か知っている人はいないかと中を見回すと、そこには知っている顔があった。
「炎真君」
「ツナ君」
「ここの高校に進学したんだ」
「そうなんだ、ツナ君も一緒なの嬉しいよ」
よろしくね、と手を出されて俺も手を握る。
あんなことがあったけど、俺は炎真君のことを嫌いになったわけじゃないし、むしろ同じ境遇だということもあって共感していた。
それと、もう一人。
「ボス…」
「クローム…じゃなくて、凪。君も来てたんだね」
「はい、骸様が力の制御もできるように普通の生活を送ってみるのもいいんじゃないかと」
「そうなんだ、骸は?」
「骸様は、まだ日本にいる…とだけ」
私もわからないと首を振る凪にイタリアにいくことはしなかったんだなと少し安心した。
よろしくと挨拶をしてはいってきた教師にいわれるまま席に着く。
授業の話しや学校のシステムなどの話しを聞かされてその日は終わりになった。
帰りは前と同じに山本と獄寺君と一緒に帰った。
その間、山本がどうのとか獄寺がああでとか二人は本当に仲が良い。
獄寺君は嫌ってるみたいだけど、なんだかんだで最近は山本の力を認めてきてはいるし、性格の問題かなと考える。
「ツナのとこはどうだったんだ?」
「あ、俺?炎真君と凪がいたよ」
「凪って…クロームか」
「あいつ、骸の差し金でっ」
「違うから、普通に通ってきてるみたいだった」
獄寺君は今一凪のことを好きになれないようだった。
骸の仲間だったというのもあって警戒を捨てきれないのはわかるが、俺の勘だと凪は妄信している節があるけれど、こっちのほうのことを信用してくれていると思う。
だから、敵になることはないと思うんだけどなぁ…。
同じ高校に通っているからそことも仲良くしてほしいと思うのだが、獄寺君の想いを変えるのは少し大変そうだ。
「ツナのクラスも楽しそうだな」
「うん、一人じゃなくて助かったよ」
俺は友達を作るのは得意じゃないから、と笑えばそんなことないだろ、と山本は笑った。
「なんで?」
「だって、ツナはこんなにたくさんいるじゃねぇか」
中学でのことを思い出せ、と山本は言った。
「確かに小僧に言われて寄ってきた奴等もいるかもしれないけど、俺や獄寺は違うだろ。炎真だってそうだ」
「山本…」
「それに俺はツナに命救われてんだぜ?そんな優しい奴によってこない方がおかしいだろ」
「…それは、いいすぎだよ」
くしゃくしゃといつものスキンシップで慰めてくれているらしい山本に笑って突っ込めばそうかと笑った。
でも、思い出してみればそうかもしれない。
リボーンに会ってからたくさんの変化があったけど、それで得たものは多いと思う。
「俺は十代目のためならどこまでもついていきますっ」
「ついてこなくていいから」
冗談ともつかない一言になにもかわってないことを確かめて、不安がっていたのが嘘みたいだ。
そんなことをして歩いていれば家についていて、二人と別れた。
「ただいまー」
「おかえりツッくん」
母さんの声を背中に聞きながら二階にあがり自分の部屋に入ると目の前に飛んできた黒板消しを条件反射で避けた。
「あっぶねぇー、人の部屋で何してんだよリボーン」
「チッ、一丁前に反射だけはよくなりやがって」
「それもこれも家庭教師様の賜物だよ」
チョークの粉付きのそれは廊下を汚していて、どうするんだよと呆れた声をあげつつ顔をあげればリボーンの見事な右ストレートが頬に決まった。
一瞬意識が飛びかけて、赤ん坊なのにおかしい、と理不尽な強さに苛立ちを覚える。
「ってぇーーー!!!なんなんだよ、お前は。俺になんか恨みでもあるのかっ!?」
「ねぇぞ、つかなに帰り道で友情ごっこしてんだキモイ」
「何見てんだよ、覗きかよっ」
俺は部屋に入ってどかりと腰を下ろした。
理不尽なのはいつもだったとため息を吐くと制服の上着を脱いでベッドに放り投げる。
「いつもの偵察だ、気にすんな」
「気になるっての」
「山本と獄寺は合格だ、が…高校に入ってからツナの試練を発表するぞ」
テーブルに仁王立ちするリボーンは意味深な笑みを浮かべている。
何だ試練って、俺は今初めて聞いた単語に不信感でいっぱいになる。
大体リボーンが言う試練とか実験とかテストとかいい思い出がない。
というか、こいつがなにか企んでるときは嫌なことばかりだ。
「明日からネオボンゴレプリーモとしてファミリーとの絆を深めてもらう」
「…は!?だから、ならないってどれだけいったらわかるんだよっ」
「もう決めたことだろ?今さら愚痴愚痴言うんじゃねぇ」
「決めてないからっ」
あのとき上手くはぐらかされた気がしたけど、俺はそれに頷かずにここまで来た。
というか、俺は一生そんなものになるつもりはない。
マフィアのボスなんて…俺に務まるはずない。それに、そんな犯罪に手を染めるようなこと…。
「ファミリーは集めた、けど肝心な絆がまだ足りねぇ。さっき言ったように山本と獄寺は充分だ。けど、クロームやヒバリ、骸なんかは何するかわかんねぇからな」
「なんだよ、それ」
「ぜってぇ切れない絆を作るんだぞ」
リボーンはテーブルの上に胡坐をかいて俺を見上げてきた。
「マフィアの世界は裏切り上等ってとこもある。だが、俺達がそうなるのはまずい話しだ。そのためには、絶対に裏切らない関係、喧嘩はしても信頼してる仲間意識を高めることを目標にしろ」
「だから、俺はやらないって何度言ったら…」
「このまま中途半端にかかわらせたら、その方が危険だぞ」
リボーンの口調が冗談ではなく本気だと気付いて、俺は口を閉ざした。
俺を見るリボーンの目は、真剣そのものだった。
「ジャッポーネにいるうちは敵も早々こないだろう、けどな、ファミリーとしての形が成ってない俺達は恰好の獲物なんだ」
「そんなの…」
「ボスであるツナの仕事だぞ」
本当に理不尽だ。
俺のことを巻き込むだけ巻き込んで、何とかしろって無茶ばかり言う。
責任の重さを感じさせられて、俺は口を閉ざして俯いた。
ふっとリボーンの両手が俺の肩を掴んで引き寄せられる。
コツリと合わさった額、俺が顔を上げるとまっすぐに俺を見つめていた。
「りぼ…」
その目を見て俺はドキリと胸が痛んだのを知る。
そっと離れたかと思ったらいきなりゴッと鈍い音がして額に鋭い痛みが走った。
「いってえええぇっ!!」
「甘えてんじゃねぇぞダメツナ」
思わず後ろにのけぞりベッドに頭を擦りつけてるとリボーンの冷たい声が聞こえた。
そうだよな、お前はいつもそうだったよ。
今なんで心臓がざわついたのかわけがわからず枕に顔を埋めた。
「この石頭っ」
「あ?なんか文句あんのか?」
「イエ…」
「とにかく、お前はそれを実行しろ。もちろん、勉強も怠るな俺がしっかりみっちり高校の授業もお前の頭に叩き込んでやる。覚悟しろ」
ニヤリと笑う顔がいつぞやは天使だと思っていたのに、悪魔に見えると思った。
「高校生活も、レッツカテキョー、だぞ」
「もう…お前、ホントめちゃくちゃだよ」
枕から顔をあげると、悪態を吐くが、一つ思いついたことを口にした。
「そういえば、リボーンだってその試練に含まれないのかよ」
「なんでだ?」
「だって、リボーンは俺のカテキョなんだろ。実質ファミリーじゃないってことじゃないのか?」
「俺を口説くのは十年早ぇ」
「いってぇっ」
疑問に思ったことを問いかけただけなのに、いきなりハリセンが飛んできて、本日何度目かの物理攻撃に俺は涙目だ。
別に口説いていないしっ。
「意味わかんねぇ」
「たく、余計なこと考えてる暇あったら少しでも体力つけるためにランニングしてこい」
リボーンのいったことは絶対で、はぁーと大きなため息とともに俺の憂鬱な日々は幕を開けるのだった。