真夜中、君と二人でドライブ
「リボーン、ドライブいきたい」
唐突なボスの要望。よくあることだが、ドライブとは珍しいと俺は思った。
丁度仕事もひと段落して、もう少し頑張ってもらいたいところだが集中力も切れるだろうと俺は了承した。
鍵を持ち、いつも俺が運転する車を入口へとつける。
ツナが助手席にと乗り込んでシートベルトを締めたのを確認したのち走り出した。
「どこかいきたいところでもあんのか?」
「うーん、特には決めてなかった…海とか、山とか…何もないところが良い」
「わかった」
ツナの頭をクシャリと撫でて向かうは海にした。
山だといろんな危険もあるからだ。それに、ドライブなら海は丁度いいだろう。
何もなければ星も綺麗に見える。
「ぁふ…」
「眠いのか?」
「だって、ここのところ寝ずの仕事なんだけど…」
「お前がさっさとやらないからだろ」
眠いと椅子へと座り込むツナを横目に見ながら海までの道のりをゆっくりと走る。
口で言いながらも、今だけはこいつを休ませてやりたいと思う。
いつも自分のできる範囲でがんばっているから、少しぐらいは…と。
「手…繋ぎたい」
「ほら」
「ん…」
そっと握られた手、少し冷たく手温めるように指先を擦りつけてやればだんだんとそこが熱を持ってくる。
いつもは俺の方が冷たいぐらいなのに身体が冷えているのは夜だからか…。
風邪を引かなければいいが…と考えつつ車を走らせ続けていた。
「キスは?」
「さも当然のもののように聞くな」
首をかしげこっちを見つめてくるツナの視線に突っ込みを返した。
なんだ、こいつは実は疲れてこうしている間も脳が休みたがっててあまり考えることもできてないとかそんな感じか!?
動揺を隠しつつ、俺はツナを見ればまだこっちを見ていた。
どうやらキスをしないと気が済まないらしい。
そもそもこれもツナのしたいことをしてやってる感じなのだからこのままこいつの好きなようにしてやればいいんだろうか…。
信号で止まってその間にツナに顔を近づけてキスをする。
触れるだけの軽いものはすぐに離れて、変わった信号機と共に流れた気がした…。
「もっと…」
「今日は随分甘えただな」
「ん…星がみえるから」
ぼそりと溢すのは眠いからか…。
元から眠そうにしていたのだが仕方ないことだが、もう少しはっきり喋ってもらわないと聞き逃してしまいそうだ。
「もっと…」
「わかった、止まったらな」
信号機で止まるたび、キスをすることになった。
長い時は長いキスを…短い時は触れるだけ。
キスをするたびツナは嬉しくて、だんだんと元気を出していくようだった。
「屋敷ならキスだけじゃなくいろんなことしてやるのにな」
「いいよ、ここでいい…ほら、こうして暗い方がたくさんキスできるだろ」
「屋敷でもキスぐらいたくさんできるだろ」
「駄目だって、お前キスしてるとすぐ手が出る」
それは駄目だとツナは言った。
今は触れたいというより甘やかされたいのだそうだ。
何と我儘な恋人だ。
「リボーンもそんな時あるだろ」
「…ねぇな」
「この色情狂っ」
「うるせぇ、お前見て欲情しない方がおかしいだろ」
「…嬉しいのか悲しいのかわからない」
「そこは喜んでおけよ」
他愛ない話しをしていたら街を抜け、外套も少なくなり、月の映る海岸線を走りだす。
ここの海岸線は長い道路で、夜中というのもあり対向車も少なかった。
空が、いつもより澄んで見え、星が一層強く輝いていた。
ツナはいつの間にか空に釘付けで。俺はまっすぐと続く道を走っている。
ラジオも消して、静かな道をただひたすら。
ツナはずっと空を見ていた。
まるで、そのまま上ってしまいそう儚さ。
俺は握った手に力を込めた。
「リボーン、好きだよ?」
「聞いてねぇ」
「すき…もう少し、ここにいたいな」
「駄目だ」
ぽつりと思わず零れた言葉に自分でも驚く。
そこまで言うつもりはなかったが、ツナはそっか、じゃあ帰ろうと間延びしたような声で言った。
「いいのか?」
「リボーンが言ったんだろ。それに、なんかリボーン寂しそうだし」
一緒にいるのにおかしいね、なんて笑ってそして指先に力を込めた。
いつの間にか熱は分け合って同じ体温。
冷たいのか温かいのか、二人がとけたらこうなってしまうんだろうか…なんて柄にもなく考えた。
「キスはして」
「今日はキスの日なのか?」
「うん、キスの日」
適当に言って笑いあいながら道路の脇に車を止めて奪うように口付けた。
深く、浅く舌を伸ばして歯列をなぞり、舌を絡めて咥内を味わった。
シートに押し付けるようにしたが、そのうちレバーを引いて倒す。
それには思わず焦ったツナが俺の胸を押してくる。
「りぼーん…」
「…チッ、わかってる…お前は仕事だ」
自分にも言い聞かせるようにしてそのまま身体を離した。
ツナは苦笑して、そっと手を俺の頬に伸ばした。
「最近、我慢してくれてる?」
「でないと、お前は今ここで俺に美味しく食べられてるぞ」
「そうだな…」
ありがとう、とツナは囁いて引き寄せられるようにもう一度キスをした。
啄むようなそれはいつ深くなってもいいのに、一向に深くならない。
さっきの今では俺は手を出しづらいし、ツナはそれでも十分気持ちよさそうな顔をする。
「ったく、お前は…」
「なに?」
「なんでもねぇ、帰るぞ」
性質が悪すぎる。
そんなことを口に出すことはできず、俺はハンドルを握り直した。
再び動き出した車の中、ツナは静かに座っていて時折俺にキスを強請ってきた。
甘い雰囲気、壊したくないのは本当だ。
だが、そんなシンデレラにも本当の姿に戻らなければならない時間があるように、ツナにもタイムリミットが迫っている。
来た道を帰って、屋敷に戻る。
一時間にも満たない時間の中、騒ぐでもなく、ただ甘い時間を過ごして帰ってきた。
ツナは、寝る前にともう少し仕事をするつもりらしい。
「大丈夫か?あまり根詰め過ぎんなよ」
「うん、ありがとうリボーン…大丈夫」
さっきのキスを強請ってきたツナとは違う元気なツナ。
もしかしたら、いつも見ている俺のツナは違うのかと思うが、根本はきっと変わってないと思う。
いつも通りのツナで、いつも通り、呆れたり我儘言ったり笑ったり、泣いたり、そんな何もかもを隣同然の場所から見れることを俺は誇りに思う。
「リボーン、運転かっこよかったよ」
「…は?」
「惚れ直しそう」
「寝たいなら寝ておけ」
「本気なのになぁ」
冗談でもそんなことを口にしてくれるな、と面倒臭い気分になりつつ俺はそんなこと言ってくるツナの手伝いをしようかと伸びをする。
多分、きっと最初から絆されていたのだ。
END
あみ様へ
ドライブデートでしたっ。
実は惚れ直すとか書いてあったんですが、完璧スルーしてました。
リボーン視点で書いてた時点から色々おかしかったのですすみません。
ただひたすらドライブいして、キスしてる本になりました。
気に入ってもらえたら何よりも嬉しいです。
いつもこんな実のない話ばかりですが…。
ホントにキスしまくりで、ちょっと楽しかったです。
リクエストありがとうございましたっ。