寒い、そんな日は
深々と降りつもる雪がさっき止んだところだ。窓から外を眺めて昼間は吹雪いていたのだから今日はタイミングが良い。
「そろそろリボーンが帰ってくる時間だ」
時計を見て、ころ合いを見計らう。
俺もさっき仕事が終わったところで、部屋に置いた炬燵のスイッチを入れた。
だんだんと暖かくなるのにじっと寒さに耐えた。イタリアでしかも洋室で炬燵をいれたいと言ったところ雲雀さん以外は反対したが、むしろ雲雀さんが味方についてくれたおかげでこうして設置するに至った。
暖炉もつけるが、炬燵という日本の文化が忘れられない。
しっかりとテーブルにはミカンとお茶を用意した。いつリボーンが帰ってきてくれても問題ない。
すると、窓の外に光が見える。立ち上がり窓に近づけば積雪の中ゆっくりと車が一台帰ってきた。
降りてきた人影を見て、俺は笑みを浮かべると下で声がしそのうちこちらに歩いてくる足音を聞いて立ち上がった。
ドアの前まで来るとガチャリと開き、待っていた人物がそこにいた。コートは濡れていないが帽子の隙間から覗く耳が赤くなっている。
「おかえり、リボーン」
「ただいま」
コートを受け取り、帽子をとって自分が被りつつリボーンの真っ赤になった耳を両手で温める。
リボーンは少しびっくりしたように目を見開いたが、俺が笑顔を向けると柔らかい笑顔で返された。
甘い雰囲気に気が抜ける。こんなに気を抜いているのも久しぶりだろう。
そして、リボーンの手が伸びてきたかと思えば俺の耳を覆った。
「うっ…つめたっ」
「冷えてるのは耳だけじゃないぞ」
「わかったわかった、ほら…炬燵だしたんだ」
冷たさに肩をすくめると自慢げに言ってきた。それは何の自慢にもならない。
風邪を引かせるわけにもいかないし、と俺はコートと帽子をいつもの場所へと掛けながら炬燵に案内した。
リボーンはまじまじとそれをみて、部屋をぐるっと見渡した。
「お前、いくらなんでも…」
「いいだろ、雲雀さんはいいって言った」
「ヒバリが良いって言ってもこれは…」
「なら、俺が入るからいい。リボーンは外にいれば」
案の定リボーンの口から零れたのは否定の言葉。俺はふんっと鼻を鳴らして炬燵へと足をいれると、リボーンは少し納得いかない顔。
「俺も入れろ」
「なら、なんて言えばいいかわかるだろ」
「いれろボス」
「なんて理不尽だ、じゃあこっち」
むしろ、入りたいなら否定しなければいいのに…。
俺が示したのは自分の後ろ。リボーンはなんだかわからないという顔をしていたので、とりあえず座ってとぽんぽんと毛足の長いじゅうたんを叩く。
わけのわからないまま座ったリボーンに身体を凭れさせ、リボーンの腕を俺の方へと持ってきた。
「人間座イスってこんな感じ?」
「ツナ、これじゃ俺は足しか暖かくないだろ」
「もっと近づいていいよ」
「他が空いてんだろーが」
「くっついてたいんだ、いいだろ」
不公平だと口にするリボーンに振り返って上目づかいで言ってやれば、それに納得したのかそれなら仕方ないとぎゅっと抱きしめられる。
身体の冷たさが伝わってくるけれど、それと同時にリボーンの心臓の音も伝わってくる。そして、ゆっくりと暖かさが交わるのだ。すりっと頬をすり寄せると撫でられた。
「誘ってんのか?」
「すぐそういう」
「このままでも炬燵でできるぞ?」
「何の自慢だよ、それ」
するりと服の中へと手が入ってきそうになって俺はその手を掴んで止めた。
こんなところでやるなんて、どんな酔狂だ。
ちょうど目の前に置いておいたミカンを掴んでリボーンに握らせる。
「これでも揉んでろ」
「揉んだって何もないぞ」
甘くなるのは迷信だって知っていたか?と言われて嘘っと返しつつリボーンが剥くのを待つ。
リボーンは俺の後ろでうんちくを垂れながら剥いて、ミカンの酸味にこれぞ日本文化だよなぁと楽しくなる。
「なんか、二人羽織りとかできそう」
「してもいいが、あえて顔面におでんをつけてやるぞ」
「やめろよ」
アツアツおでんは熱いから食べるのも駄目だと冗談の様な真面目な話しをしつつミカンが剥けると口を開けた。
「いつからこんなダメダメなボスになったんだ?」
「いつからもなにも、俺はリボーンと居る時はダメなボスだけど?」
呆れたようにいいながらもしっかりと口の中にミカンが運ばれる。
ダメなボスに甘い先生は誰なんだと笑いながら、振り返ってちゅっとキスをしてやる。
「お前、いちいち煽るのはなんだ。俺を試してるのか?」
「やだな。センセーの理性を試すなんてこと、俺がするわけないだろ」
マジな声が後ろからして少しやり過ぎたと笑う。
まだ冷たいままのリボーンの手を優しく握ってお疲れさまと囁いた。
「なんかこうしてると隠居生活してるみたいだな」
「洋館だけどな。そもそも隠居できるほど仕事がないわけじゃないだろ」
今日はたまたま仕事が早く片付いてリボーンも早く切り上がると連絡をくれたからこうしてゆっくりする時間があった。
いつもは、ほとんどがシャワーを浴びて寝るだけなのだから快挙だ。
ようやくまとまりが出てきたファミリー、仕事も慣れてきてボスとしても少しはやれている気がする。
「ようやく雲雀さんと骸がまともに話しをできる関係になってきたし…」
「ほう…あの二人がな」
「まぁ、近づきすぎると途端喧嘩するんだけど…」
「……」
「でも、皆で集まった時に睨みあわないって言うのがやっぱり成長なのかなって」
あのピンッと張った空気がなくなっただけでもいいことだと笑えば唐突に頬を摘ままれた。
その指がさっきより温かくなってきているのを知る。
「痛いんだけど」
「俺の前で他の男の自慢をするな」
「…えー」
いくらリボーンの指が温かくても痛いものは痛いし、それに今更な嫉妬を向けられて俺は呆れた声をあげた。
心が狭すぎる、どうしてこんな大人になってしまったのか…誰か教えてほしい。
いや、もとからこんな大人だったのかもしれない…。
「あのなぁ、そんなんじゃ女にモテないぞ」
「別に、愛人だけいればいいからな」
いい情報を持つ愛人だけいれば後は寄ってこようが引こうが問題ないと平気な顔でいうリボーン。
愛人は寝ているわけではなく、ちょうどいい情報交換材料として持っているのだと聞いた。
けれど、こっちだってそんなことをいわれても心配になってしまうわけで…。
そう思ったら、俺も結構心が狭いなと苦笑した。
「というか、俺別にリボーン以外とどうこうなろうって思ってるわけじゃないっ」
「は?んなの思ってたら即個室行きだぞ」
「どういう意味!?」
「他の奴等の目に入らないように軟禁だ」
「いい加減慣れてもいいんじゃないかな、センセー」
「慣れるわけないだろうが、バカツナ」
いくらなんでも独占欲が強すぎる。はぁとため息を吐くのに、リボーンは笑ったままの気配がする。
こっちはこんなにも呆れているのに…。
「ほら、もっと食え」
「リボーンは食べないのか?」
「俺は別にいい」
誤魔化すようにミカンを持ってきた。俺は好きだから口を開けるが、俺ばかり食べてもいいのかといえばリボーンは食べる気がないようだ。
自分で剥いたくせに、と剥かせた本人が言えば反撃が待ち構えているだろうからその先は言わないことにする。
大人しくミカンを口に運ばれ続け、甘いそれを租借し続けた。
リボーンの指先からミカンの匂いがして、微笑ましくなる。だってあの最強のヒットマンなのにこんな場違いな炬燵に入ってミカン剥いているなんて…。
「機嫌直ったか?」
「別に不機嫌になってないよ」
ぎゅっと腰に巻きついてくる長い腕に安らぐ、とリボーンの胸に頬を寄せる。
少し上を向けばリボーンの顔があって、モミアゲを指先に絡めるとこちらに視線を向けてくる。
「ちょっと呆れただけ…絆されないぞ」
「絆されとけよ、ボス」
優しく抱く腕に力がこもれば言ってやる。
それなのに、冗談交じりに甘える声が返ってきて、笑ってしまった。
そうして、顎をとられ少し窮屈な体勢でのキス。
俺がしたような触れるだけのものじゃなく咥内を舐めていく深いもの。
「ん…」
「ミカン味だな…」
「もっと…」
お互いの口にミカンの味が広がって、リボーンの声にこっちが煽られた。
俺は体勢を変え、両腕を伸ばして先を促していた。
内側からだんだんと温かくなって、そして、いつか二人で溶けあえてしまえたら…。
END
けいさんへ
相互小説リクエスト有難うございましたっ。
冬の部屋デートということで、温かくなってもらえたらいいな…なんて思いながら書かせてもらいました。
じっくり、二人でぐだぐだ言ってるだけのただの甘い砂糖ぶっかけ小説になってしまってちょっとこれキャラ崩壊しすぎで誰これ状態だけど大丈夫か!?と戸惑ったのは三分ほど←おいww
子供リボーンか、大人リボーンか迷いましたがここはあえての大人バージョンでお送りしました。
返品はいつでも受け付けています。少しでも喜んでもらえたら幸いです。
これからも、サイト共々よろしくお願いします(微笑)