言葉もなく伝わったのは
「好きだ、ツナ」
「あー、はいはい…わかったから」
「ったく、お前はいつになったら俺の話を真剣に聞くんだ」
唐突に告げられた言葉、でもそんなのは俺に驚きも与えない。
毎日のように、俺に言ってくるんだから。
いちいちとりあってたらキリがないよ…。
はぁ、とため息をついてリボーンの言葉を受け流した。
これは、いつものこと…いつから始まったかと考えようとして、それもいつか思い出せずに終わった。
「まだ仕事残ってるんだ、リボーンもだろ」
「終わったからここに来たんだぞ」
「…仕事の早いことで」
ちっと舌打ちしつつ俺は判子を手に取る。
リボーンはずっとそれを飽きもせず見ているのだ。
視線を感じるが俺はそれに構うことなく黙々と作業をしていた。
唐突にあんなことを言うかと思えば、あとは見ているだけだ。
本当に何をしたいのだろう。
自分は愛人もいるというのに…。
リボーンには愛人がいる、それは前から知っていたことだがそれに加え俺にあんなことを言ってくるのだ、遊びじゃなくてなんだというのだろう。
でも、好きだと言われるのは嫌じゃない…愛されるのって誰でも嫌になれないものだろ?それと同じ感覚だと思う。
だから、呆れはするけれども好きと言うなとは言わなかった。言われて嫌な気はないからだ。
「はい、終わった雲雀さんのところに届けてくれる?」
「…まだ、ヒバリは苦手か?」
「そんなんじゃないよ、あの人俺が渡しに行くと君はまだ残ってるだろって言われるんだ」
残っているのは事実だが、少しぐらいの気分転換ぐらいいいだろうと思う。
だから、雲雀さんのところにはあまり行かないことにしたんだと言えばリボーンは苦笑して、仲良くやれよと俺を宥めてきた。
俺がもう少し寛容になれればいいんだろうけど、雲雀さんはなかなか難しい。
リボーンは出来上がった書類を持って部屋を出ていった。
そして、それを見計らうように骸が入ってきたのだ。
「おかえり骸、今日は早かったな」
「僕にかかればあの程度、造作もないですよ」
見くびらないでいただきたい、と言いながら俺の頬に指先が触れる。
俺はやんわりとそれを払いのけて、骸の持っている報告書をとり上げた。
「あ…」
「ということで、お疲れ様」
「酷いですね、君は。その様子では、アルコバレーノとは…まだですか」
「は?リボーンは愛人がごまんといるだろ」
「それは、初耳ですね」
リボーンが人目もはばからないせいで、告白沙汰は周知の事実。
骸が確認するように言ってきたので首を傾げて、なんでそうなるのかと言い返せば、顎に手を当てて少し思案するように呟いた。
初耳って、アイツ愛人のこと結構自慢してたように見えるけど…。
「愛人いるのは知ってるよな?」
「いた…のは知っていますが?」
「…は?過去形?」
「はい、なんでも…大切な人のために他は全部切ったとか」
骸の言葉を聞いて、俺は持っていた判子をぽとりと落としてしまった。
幸いその下には何も引いてなかったせいで、机に変な跡がついてしまっただけだが…。
「なにそれ」
「おや、存じ上げなかったご様子で」
「嫌味な位丁寧に言うな、俺は初耳だぞ」
「まぁ、そうでしょうね。僕が知ったのも、偶然でしたから」
くふふと笑う骸にその経緯を説明してもらった。
なんでも、骸はリボーンの元愛人に接触したらしい。
偶然忍び込んだら正体がばれて、しかもリボーンと顔なじみだから見逃してあげるとかなんとか言われて難を逃れたらしい。
なんというか、しっかり潜入してくれ。
「遊んでるんじゃないだろうな?」
「刺されたいですか?」
「イヤ、ゴメンナサイ」
なんでもそういうのを見破るのが得意な女性だったらしい。
そんなのが敵にいたと思うと少し背筋に寒気が…。
あまり目立たないところだからスルーしようとしてたので、それで良いとしよう、そうしよう。
そうして、骸はリボーンのことについてそんなことを聞かされたらしい。
「その大切な人って誰なのか、と問い詰められまして」
「なんて答えたんだ?」
「うちのボスですよと答えましたけど?」
「…あのなぁ、俺男リボーンも男それが女性にとってどれだけ驚くことになるのかわかってんのか!?」
「二の句が継げないようなので、放置してきました」
骸の言葉に俺はもういいや、と開き直ることにした。
やっぱりこいつときどきわからない。
リボーンが大切な人が俺とか、確認取らないでなんでわかるのか。
ただ単に面白がって言ってるだけじゃないか。
「わかった、もういいから部屋にいけよ」
「…わかってないですね。まぁ、いいです。どうなるのか、興味はありますから」
「ホント、なんなんだよ」
骸はいうなり部屋を出ていった。
リボーンが俺を好きとか、そんなこといったらこんなに仕事押し付けないし、スパルタじゃないだろうし、もう少し甘くてもいいはずだ。
なので、リボーンが俺を好きと言う意見は却下。
「そんなことになれば、俺どうなるんだろうなぁ」
好きな人もいない、仕事一筋にやってきているこの状況でそんなことになれば…俺は、どうするんだろう。
京子ちゃんは憧れだって気づいた、あの子に付き合っている人が現れて泣くよりよろこびが勝った時点でそう確信していたのだ。
初恋、だったけれどとても綺麗な思い出になった気がする。
「ツナ、俺は少し出てくるぞ」
「へ?どうかしたの?」
「ディーノからの応援要請だ、俺が言ってみてくるから連絡待っててくれ」
「わかった」
騒がしい足音がしたと思えば入ってきたのはリボーンだ。
雲雀さんのところで何をしていたんだろう。
ディーノさん絡みということは、雲雀さんはもう出てしまったのだろうか。
「雲雀さんは!?」
「もう行ってる」
そういって、ぱたりとドアがしまった。
やっぱりなと思うと同時に、何か嫌な予感がした。
「何もないと…いいけど」
空には雨雲が立ちこめて、今まで晴天だったのにと俺は暗くなる空をじっと眺めたのだった。
仕事の合間、俺は大きく伸びをした。
もう日が沈んで結構経っている、外はあの雨雲が来てからすぐに雨が降り注いだ。
大量の雨に、台地は潤いを取り戻していくが、俺の胸は焦りが埋め尽くしていた。
そうして、外からバイクの音が聞こえ、少しして下が騒がしくなる。
どうかしたのかと、俺は聞こえてくる足音に耳をたてていた。
「十代目、雲雀とリボーンさんがっ」
「…すぐいく」
予想が的中したような嫌な予感に胸がいっぱいになった。
ぎゅうっと締めつけられるような心臓を胸の上から握るように力を込める。
隼人の後を追って治療室へと入る。
「どうかした!?」
「うるさいよ、草食動物」
「雲雀さん」
中に入れば一番に声をかけてくるのは雲雀さんだった。
そこには上半身を裸にして手当てをしている光景が広がっていて、リボーンは隣の部屋らしい。
「どうかしたんですか?」
「応援に行って傷を作ってきただけだ。僕もリボーンも大丈夫だから安心しなよ」
リボーンは足にけがをしていて大変だっただけだと言われて、騒ぎに納得がいった。
俺は安堵と同時に足から力が抜ける思いをして少しふらつけば隼人に腕を掴まれて支えられた。
「大丈夫ですか?」
「うん…」
「これしきで騒がないで、少し暴れすぎただけだよ。もう片付いた」
「そうですか、ありがとうございました」
雲雀さんの言葉に頭を下げると、リボーンの様子が知りたくて自力で立った。
隼人はここにいてと言って、隣の治療室へと入った。
リボーンのところにはヴェルデがいた。
「来てたのか、ヴェルデ」
「ああ、呼ばれたのでな」
「銃弾は貫通してる、心配しなくていーぞ」
「リボーン、そんなこといわれても心配するだろ」
もう処置は済んでいて包帯が巻かれていた。
のんびりとした声に、痛くないのかとリボーンの顔を覗き込もうとしたらリボーンの掌がそれを拒んだ。
「なにするんだよ」
「なんでもねぇ、ヴェルデ」
「まったく、世話の焼ける奴だ。しばらくはベッドで休めばいい、俺はもう帰らせてもらうぞ」
まったく金にならんことをさせてくれるとため息を吐きつつ、部屋を出ていった。
リボーンは片足で器用に立ちあがると手すりと伝ってベッドへと乗り上がる。
「このとおり、足だけだ心配しなくても明日はちゃんと働いてやるよ」
「…なんで、銃で撃たれるんだよ」
「は?俺だって当たる時は当たる、しかたねぇだろ」
「だって、俺に好きって言ったじゃんっ」
「…何の関係がある?」
平然と返してくるリボーンに苛立ちを覚える。
俺が言いたいのは、そんなことじゃないのに…。
「好きな相手、置いて死ぬとか…やめてよ」
「そんなこと言われたって、俺達の仕事は…」
「わかってるっ、けど…リボーンが俺のこと好きって言うなら、俺だけの傍にいてよ。俺がいないところで野たれ死ぬなんて、そんなの…」
「ツナ…泣いてんのか?」
「泣いてないっ」
俯いて、涙を耐えていればリボーンの手が伸びてきて、俺の頭を乱暴に撫でた。
それを首を振って逃れようとすれば腕を掴まれる。
「ツナ…」
「離せってばっ」
「俺は、自惚れてもいいか?」
「は?なにそれ」
腕を引かれて近くに行きたくないのに、無理やり近づけさせられる。
そうして、俺の顔を下からリボーンは覗き込んできた。
見つかってしまった、泣きそうになってる顔…見られた。
リボーンは俺の後頭部を引き寄せると胸へと顔を押し付けさせられる。
「好きだ、ツナ…俺は、お前が好きだ」
心臓がすごくうるさくなっているのが伝わってきた。
俺に言ってるときずっとそうだったのか?
俺は顔をあげた、すると優しげな瞳が俺を覗き込んでいた。
「知らないよ…そんなこと」
「そーか」
言いながら、リボーンの唇が俺の唇と重なった。
返事なんかしてないのに、なんで伝わってしまったんだろう。
「おまえなんか、きらいだ」
「そうか」
俺を大事にしないなんて、きらいだ。
だから、今度はちゃんと…。
END
For You
十年後リボ→ツナ。ボスツナを頑張って口説くリボ、でした。
結局ツナは告白しませんでしたが思いはちゃんと伝わってるんじゃないでしょうか。
すごくツンデレと言うか、ツンしかなくなってしまった気が…。気に入ってもらえたらいいのですが、気に入らなかったらご一報くださいね。
全力で書き直させてもらいますっ。
素敵なリクエスト有難うございましたっ。