シュガーベイビー

「リボーン、あの時のファミリーが俺達に目をつけたみたいだよ」
「あの時?」
「ほら、芽が出始めの危険分子を片づけた時の…あそこは小さいから大丈夫って思ってたのにな…」

ツナは淡々と言いながら、地図を確認している。
今言ったファミリーの情報も資料にまとめてあるものに目を通していた。
忙しいのに…と呟きながら作戦を練っているようだ。
だが、今ツナと俺以外は出払っていて相談できる相手がいない。

「ねぇ、俺がいっちゃだめかな?」
「駄目に決まってんだろ。なに馬鹿なこといってんだ」
「馬鹿じゃないよ。ちゃんと考えたんだって」

俺がいった方が早く片付くよ。と笑うツナは心から笑えていないようだった。
笑顔が作り笑いになったのはいつからだろう。

「雲雀辺りは頼めば行くんじゃないか?」
「雲雀さんは今財団の方に資金を注いでるから邪魔しないでって言われたよ」
「なら、俺が行く」
「だめ、それは絶対だめ」

突然頑なに拒否するツナは俺を真剣に見つめていた。
俺はしかたなくため息をつくと好きにしろと言って部屋を出た。
ツナの様子がおかしいことに気づいたのはいつだったか。
それも、今ではわからなくなっていた。
日々移りゆく季節、状勢。マフィアの世界も例外じゃない。
頂点に君臨するボンゴレのボスになったツナは追われるように仕事をこなし、俺はそれを見守っていた。
間違ったことは正し、好きなことは好きなようにさせた。
それがあいつにとって最善だと思ったからだ。
俺は家庭教師で、あいつは生徒。
それだけの関係にひずみができ始めたのは、いつだろうか。
同時にツナの変化にも気付いた。
人を殺すことにためらいを感じなくなってきているのだ。
前は止む負えずという場面があったが、今は自ら銃口を向けている。

「最近、おかしいと思いませんか?」
「何がだ?お前が口出すなんて珍しいな、骸」
「いえ、少し見ないうちにマフィアらしくなったと思いましてね」

廊下を歩いていれば後ろから声をかけられて、振り返らないまま言った。
骸は呆れたようにため息をつきつつも、貴方がいながら何をしているんですかと咎める言葉を続ける。
それは俺が聞きたい。

「俺はなにもしてねぇ。ボスのしたいようにさせているだけだ」
「おや、貴方が綱吉くんをあんな風にしたんでしょう?責任転嫁なんてしないでくださいよ」
「何もしてねぇだろ」
「何もしないのが、悪いんですよ。このままじゃ取り返しのつかなくなることぐらいわかっているでしょう」
「俺にも止められねぇ」

それは石が坂を転がり落ちるように。
緩急の付いたそれは止まることなく転がっていく、俺の言葉ですら時々届いてないかのようなツナの遠い目を思い出して、俺は口を閉ざした。
あんな風にしたのは他でもない俺だ、俺が間違ってしまったんだ。

「現状は把握できているようですね」
「……」
「どの道、彼を止められるのはあなたしかいませんよ、アルコバレーノ」
「聞く耳もたねぇのにか?」
「どうすればいいのか、それも薄々は気付いている。僕はそう思いますよ。ただ、怖がっているだけだ」

骸に言われて俺は唇を噛んだ。
図星をさされることすら苛立ちを覚える。それすらも楽しんでいるかのように骸は笑みを浮かべる。
そうして、もう用はないとばかりに歩いて行ったのだ。

「独り立ちさせたのは、俺なのにな」

今さら、俺を頼りにしろと言ったところで聞いてくれるともわからない。
俺の言葉にも反応しなくなっているのかもしれない。
そう考えて、骸が言っていたことはこれなのかと気付いた。
結局、経験である程度の予想はついてしまう。
だからこそ、踏み込めない領域を勝手に決めていた。
そう思いこんでいただけで、本当はもっとシンプルで単純なことなのかと思い出す。
あいつは今さらというかもしれない。
けれど、このままじゃいけない。
俺はきた廊下を戻った。放置しておけば一人で行きかねないからだ。
ドアを開ければツナはぼうっと机を見ていてふっと気付くなり顔をあげた。

「リボーン、怒ったんじゃなかったの?」
「別に…怒ってねぇ」
「そっか…よかった」

さっきとは打って変わっていつもどおり忙しそうに手を動かし始めたツナをしばらく眺めて自分の椅子に座った。
山のように積まれている書類をいつものように処理していく様子を盗み見ながら自分の仕事も片付けていく。
そうして、フッと見ると手を止めているのだ。
考え事をしているように視線は一点から動かない。

「ツナ、どうした?」
「へっ…なんでもないよ」
「ならいいけどな」

言葉を繋げようにも話題がない。
一度終わった話を戻すというのも不自然だ。
どうにか会話をしてみようと思うが、なかなか続かない。
こんなにもこいつと話すとき難しかったか…?
どうにも壁ができているようで、それを打開することもできない。

「チッ…」

俺は舌打ちすると椅子を立ち上がりツナの目の前にいく。
ツナは突然の俺の行動に驚いていて、じっと俺を見てきた。

「どうしたんだよ、リボーン?」
「俺がいるだろ。俺に頼れ、もっと甘えろ」
「は?突然なに言い出すんだよ、意味わかんない」

それに、俺に頼るなって最初にいったのはリボーンだろと言われて自分の言葉を後悔した。
あの頃は、ただツナを独り立ちさせたくていったことだった。
俺だって長く傍にいれるわけじゃない。
むしろ、ボンゴレに雇われている俺はいつ終わりにされても文句も言えないのだから。
けれど、こうなってこいつの傍に居続けられるのなら、何でもしょい込むのではなくその苦しみも二人で分けたらいい。

「突き放して悪かった。そうすればお前がもっとボスらしくなると思ってたんだ」
「リボーン…」
「まぁ、ボスらしくはなったけどな…お前らしくねぇ」

不思議そうに俺を見てくるツナに手を伸ばした。
頬に触れて、暖かいことを確認する。
少しずつ冷えてきているように思えた温もりは、確かだった。

「なに、俺らしくないって…俺は俺だよ」
「ああ、俺がそうさせたんだ」

ごめんなと抱き寄せれば驚きに目を見開いた。
けれど、そのままでいればおずおずと背中に手が回ってきて、ぎゅっと握る。
なんとも拙い仕草に俺はつい笑ってしまってからまずいと思ったがツナはすぐに手を引っ込めてしまった。

「もうからかっただけなら止めっ…」

機嫌を損ねてしまったツナの言葉を塞ぐようにして俺は顎を掴みキスをした。
最近、たまに夜抜けだして女遊びをしているのも知っている。
キスをしても何のためらいもなく反応を返す。初めてというわけじゃないんだなと気付いて少し寂しく感じた。
舌を絡ませて、離せば戸惑いの色が見える。

「な、なにしてんだよ」
「キスだ」
「そうじゃない、何で…なに…」

混乱しているツナの頭を撫でる。
この感情はただのボスとしての感情じゃない。
沢田綱吉への個人的な感情だ。

「なんだよ、なんで笑うんだって」
「ツナが見てて飽きないからじゃないのか?」
「なにそれ、子供扱いかよ…もう二十五になるんだぞ」
「好きなやつなら、なんでもかわいく見えるもんだろ」

好きなやつ、と言ったのにツナはますます訳が分からなくなっているようだ。
俺の態度の変化に混乱しても仕方ないことだろう。
こんなにも好きで、だからこそ潰れてはならないと思ったのだ。
こいつだけは俺がいなくなったとしても、一人で生きていけるように、と。

「好きだ、ツナ…お前が…いい加減わかれ、鈍感」
「何それ…すき、とか…いきなりそんなこといわれても…」

どうしたらいいかわからないと怯えたような声を出すツナにもう一度キスをして不安げに揺れる目を見つめる。

「わからなくてもいい、でも…一人でなんでもするのは却下だ。お前が大変なら俺が手を貸してやる」
「ばか…俺ひとりでなんでもやれとかいったくせに」
「すまん」

ツナの声が涙声になった。
そうして、肩に顔を埋めて声なく泣きだし俺はそんなツナの背中を優しく撫で続けた。
たくさん謝ることはあるだろう。
これから少しずつ直してやればいい、もとのツナになるために。

「これから、リボーンにすっごく頼ってやる」
「ああ、頼れ。甘えろ、惚れた弱みだからな」
「ベタ惚れかよ…」
「悪いか?」
「んーん、悪くない」

抱えていた重みがなくなったような軽い声でツナは首を振った。
抱きしめる腕に力が込められて二人の間にあった溝がなくなったような幸福感に包まれた。
ツナも同じ気持ちを抱いていたらいい。
これから二人時間を重ねて、今とは別のボスらしいボスになるのだ。
そして、その隣にはずっと俺がいる。
俺がついていてやる…。




END
10年後で、リボ→スレツナのシリアスと10年後で、リボ→ツナのシリアス。忙しさのあまり若干スレちゃってるボスと、甘えてほしいリボ。で書かせてもらいました。
実は二つリクがきていていい感じに被っていたので一緒にさせてもらっちゃいました。
納得できなかったらすみません。
甘えたいというのを勝手に頼られたい、と解釈したのでこんなんじゃ嫌だと思ったら遠慮なくどうぞ。
あまりシリアスじゃなかったかもしれない…すみません。
素敵なリクエスト有難うございましたっ。





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