ねぇ、俺をみて
じぃっと音が出そうな位俺はリボーンを見つめていた。
それはもう穴があきそうなほど、見つめていた。
けれど、リボーンの目が俺を見ることはない。かれこれ、二時間になるだろうか。
仕事が終わって、俺はシャワーを浴びて、出てくるころにリボーンは俺のベッドでじっと新聞と向き合っていたのだ。
世界情勢を知っておくことも必要だとわかっている。
朝、俺が駄々をこねているせいで満足に時間をとれないことも、だ。
けれど、俺が出てきているのに…むしろ、こうして視線を向けているのに知らぬふりをするというのはどういうことなのか。
まぁ、俺も俺でリボーンに声をかけることもしてなかったのだけれど…。
だって、リボーンはちゃんと俺を見てくれるってわかってる。
これは独り善がりなんかではないって、思っている。
「……」
口を開きかけ、ここで声を発してしまったら負けた気がしてすぐに口を引き結んだ。
リボーンは気付いてくれているのだろうか。
不安になって、テーブルに置いたままにしていたグラスを手に取る。
少し酔いたくてワインをいれてあったのだ。
けれども、注いだまま部屋に放置していたため温くなり、うまみもなくなってしまった。
アルコールだけはしっかりと自分を包んで、温まった身体に丁度よく巡らせてくる。
ぽやんと思考に霧がかかってくる。
もうこんなことをしてもこちらを向いてくれないリボーン。
俺は仕方なくリボーンの足に乗り上げた。
「ねぇ、こっち見てよ」
「なんだ?」
「もっと構って」
ようやく俺が言葉を発すれば新聞を避けて俺を見た。
初めてあった目はいつもと変わらなかった。
それはまるで俺がこのまま何もしないのを知っているかのようで、少しだけ納得がいかない。
「今日はこらえ性がないな」
「だって、俺リボーンが来るの待ってたんだ」
リボーンがくすりと笑って俺に自然な仕草で口付けた。
宥めるようなそれに、それだけじゃ足りないと言いたくなる。
けれど、俺は明日会議があるから無理はできない。
リボーンはそれをわかっているのだ。
時々この男は変なところで律儀だから困る。
少しぐらい、理性なんか飛ばして俺を抱きしめてくれたらいいのに、と思う。
「リボーン…」
「なんだ、もう少し待て」
俺は犬じゃないと言いたくて、けれどリボーンはすぐに新聞へと視線を戻してしまった。
元より、リボーンはそれを読みきるまで俺を見ることはないと…わかっている。
「つまんないって、なんで俺がいないときに読んじゃわなかったんだよ」
「そんな暇もなかったのは、お前が一番知ってるだろ」
かさり、と音がしてページがめくられる。
拗ねた声にもリボーンはさらりとかわして見せるだけだ。
むっとして、リボーンの片手をとった。
手ぐらいならとリボーンは抵抗することなく差し出してくれて、俺はその指先に舌を這わせてみた。
いつもリボーンがするとぞくぞくとして気持ちいいのだ。
こうしていれば、いずれ我慢できなくなってこちらを向いてくれるはず。
「…リボーン、こっちみてよ」
「もう少しだって、言ってんだろ」
「リボーン…リボーン、りぼーん」
リボーンの視線に俺がはいらないのがつまらない。
早く俺を見てよ、とそういう思いを込めて名前を呼んだ。
甘えるように足に頭を乗せた。
太ももの感触は女の子と比べてどうかと言うほど俺は膝枕をしてもらった覚えがないからわからないが、リボーンの体温が心地よくて腹の辺りに顔をくっつけているともうそのまま寝てもいい気になってくる。
大体俺はもうシャワーを浴びてしまって、寝るだけの状態だ。
静かにしていれば眠くなってくるのは仕方ないことだろう。
もっと俺の頭を撫でて、もっと俺の言葉を聞いてほしかったのに。
今日は甘えも許されないのかと少し寂しくなってくればじんわりと目が熱くなる。
視界が歪んで溢れそうになる涙を拭うようにリボーンのシャツへと擦りつけた。
リボーンに構われないだけでそんなに落ち込むこともないだろうと思うけれど、なんだか今日は感情が上手くコントロールできない。
きっと、ワインのせいだと決めつけてリボーンの手が空くのをじっと待っていた。
どれぐらいの時間がったのだろうかと時計に目をやるが、そう時間がかかっていないことが知れた。
時間は時として残酷だ、
早く終われと思うほど時間は進まないし、まだまだ楽しみたいと思うほど時間はすぐに過ぎていくのだから。
「暇だ…リボーンが構ってくれない」
「何拗ねてんだ」
「拗ねてない」
「…そうか」
リボーンの声が聞こえて、それがなんとなく俺の機嫌を伺うような響きを持っていたから思いっきり不機嫌な声で返事をした
だが、返ってきた返事はいつもと変わりないなんともない声で俺はそんな簡単に諦められてしまうのかと途端に不安になる。
顔をあげたらリボーンは俺をじっと見ていた。
さっきまで新聞にとられていた視線は、今度はしっかりと俺を捕えている。
「……」
「言いたいことがあるなら、口があるだろ」
「…口を使いたくない時も、あるんだ」
「そうか、ならキスもできないな」
新聞を元のように畳んでテーブルへとおくとリボーンはネクタイをようやく緩めた。
投げやりに言われた言葉に俺は焦る。
どけと頭をあげて俺の下からリボーンは抜けだし、ベッドを降りた。
俺はリボーンの背中を目で追った。
このままシャワーを浴びに行ってしまうのだろうか、そしたら俺は寝てしまう。
さっきのキス一つで今日が終わってしまうじゃないかと恨めしい気分になる。
「キスはできるよ、ねぇ…リボーン」
「つまんねぇ意地張ってると、欲しいときにもらえなくなるぞ」
「意地を張らせたのはリボーンだ」
「俺は俺の仕事をしているだけだぞ」
だったらなんだ、俺は邪魔してるって言いたいのか。
ここは俺の部屋なのにとこの展開は何も嬉しくない。
俺は行ってしまいそうになるリボーンのシャツを、精いっぱい手を伸ばして引き留めた。
辛うじて掴んだシャツを離さないようにぎゅっと握りしめる。
「皺になるだろ」
「皺にしてんの」
「何がしたいのか、口で言ったらしてやるよ」
「リボーンが俺に意地悪しなければ良い話」
「ツナ」
「リボーンが俺を最初にのけ者にしたんだ」
「で?」
「で、って…」
「他にいいたいことはあるか?」
リボーンは俺の方に戻って来ながらベッドに座った。
俺の頭に指を滑らせて、少し伸びてきた髪を梳く。
見上げたら、優しい目が俺を見ていた。
「ツナ…素直に言ったら、その通りにしてやる」
「キス…して」
リボーンが甘いのか、俺が甘いのか…よくわからなくなりながら、俺が言った途端にリボーンが口付けてきた。
ちゅっちゅっ、と啄んでそれだけじゃ足りないと手を伸ばした。
リボーンの手も伸びてきて俺は寝転がった体勢から身体を起こして、リボーンに抱きつくようにして繋がりを深めた。
舌が侵入してきて、声がでるけれどそれすらも忘れていた。
「シャワー浴びるんじゃないの?」
「これでか?」
リボーンが触ったのは俺の反応がすぐにわかる場所。
俺すらも気付かなかった変化につい、顔が熱くなる。
「シャワー浴びてきてよ、それから…抱いて」
「お前、ほんと…良い性格してるな」
「リボーンがしたんだよ」
リボーンがするなら俺だって少しぐらい仕返ししたい…なんて。
「ねぇ、でたらさ…ちゃんと俺に構って、甘やかしてくれなきゃヤダ」
「了解」
前髪を掻きあげられたと思ったら額にちゅっと唇が降ってきて、それからすっとバスルームへと入っていく。
俺はほっとため息を吐いて、リボーンが出てくるまでの間どうやって甘えようかと思案に暮れるのだった。
END
くるみさんへ
リボーンにツナがわがままで振り回すような話…でした。
というか振りまわしてたのリボーンだったね←
いろいろ我儘を追求してみたらこうなりました。
なんというか、こんなの想像と違うってなったら遠慮なく言ってきてもいいのよっ←
リクエスト有難うございましたっ、私のわがままで書かせてもらったのにこんなできになってすみませんっ。