あなたが無理をするから
あわただしくも過ぎていく日々、俺は書類整理に追われていた。
隼人もさっきから、あちこちへと落ちつかない。
それは先日こちらに喧嘩をしかけてきたファミリーがいてそれの事後処理といったところだ。
それだけなら、まだよかったのだがそれより他のファミリーがキャバッローネを狙っていると知らせを受けた。
急いで雲雀さんを向かわせたが、相手が多いことに苦戦しているらしい。
骸は他の情報収集へと向かっていて、お兄さんは壊れたところをランボと片づけていたり山本はヴェリアーの方へと行っていてこっちも人出が足りない。
雲雀さんだけでしのげないとなると困ったことになる。
「あーもう、なんでこんなに立て続けなんだよ」
「それはこっちが混乱してるからだろ」
「リボーン、もう良いのか?」
リボーンは先日の喧嘩の時に傷を負ってしまった。
何のことはないただのかすり傷だと言っていたが、俺の不注意で傷つけてしまったので俺は心配でたまらない。
少し休んでいてとリボーンは数日仕事をしていない。
執務室に入ってきたリボーンに俺は問いかけた。
見かけだけは普通にしているが、足に傷をつけたのだ。
本当なら完治するまで安静にしていてほしいところ。
「ディーノのところがヤバいって聞いたからな」
「え、ダメだよ」
明らかに行くつもりの言葉。
俺は首を振った。
怪我をしているのにリボーンを行かせるなんてできない。
「ダメとか言ってる場合じゃねぇだろ」
「だって…」
「だってもない、同盟ファミリーが危険な目にあってる状況を放置するのか」
「違うよ、隼人に…」
「獄寺だって限界だ、こっちの仕事で手いっぱいだろ」
「じゃあ、他の人を向かわせるからリボーンはここにいて」
俺はリボーンだけは行かせたくなかった。
どうしても、リボーンだけはダメだ。
「ツナ、そんなんじゃボス失格だ」
「失格でもなんでもいい、リボーンはいったらダメ」
なんとしても行こうとするリボーン。
俺はそれを止めるためにリボーンの手をとった。
どうして俺がここまで固執するのか。
それは、リボーンのその怪我が俺を庇ってついた傷だったから。
仮に俺がボスだから守るために仕方なく、だったらいい。
けれど、リボーンがもし…ディーノさんを守るために盾になって…と考えたら俺は行かせることができなかった。
リボーンが俺の代わりに怪我をしたのを後悔していた。
もっと俺が一人でもちゃんとできていたら、もっと強ければ…。
俺の代わりに死ぬなんて考えたくなくて、他の人の代わりになんてもってのほかで…。
勝手な主張だと思う。私情でこんなこと許されるはずがない。
だけど、俺の気持ちもわかってほしいんだ。
「リボーン、行ったらやだ…」
「泣くな、俺は何も怪我しねぇ」
視界が滲む。
やばいと思った瞬間には涙が溢れて、それを隠すために俯いたが床にぽつりぽつりと沁みを作った。
リボーンは俺の頬を撫でてくるけれど、それでも俺は頷かなかった。
泣き落してどうにかできるとも思っていない。
俺の不安が少しずつ大きくなっていくんだ。
いつも笑顔で戻ってくる守護者たち、でも、いついなくなってもおかしくない状況なんだってそれが俺には不安で…リボーンは一番大事で、一番離れてほしくないから。
「ツナ、仕事だ」
「っ…」
首を振る。
ただボスという権限を使ってリボーンを繋ぎとめる。
それができたらどんなにいいだろう。
なににでも限界はある、人間一人自分の元へ繋ぎとめておくこともできないのだ。
「俺はそう簡単にやれたりしない」
「わからないじゃないかっ」
「しない」
「証拠、は?」
リボーンが困り果てているのがわかるのに、俺は我儘を止められない。
なんでリボーンが行かなきゃならないんだ。
リボーンじゃなかったら、俺でもいいのに。
「証拠は…ないが」
「だったら、俺が行く。俺が片づけてくれば済む話だ」
「ばか、ボスが直々に出向いてどうするんだよ。相手は多いとは言え格下だ」
「なら尚更俺が行けばいい。リボーンは行かないで」
「ツナ、わがままもいい加減にしないと怒るぞ」
すぅっと空気が冷える。
リボーンの殺気が俺の心臓を突き刺してくる。
本気を読み取ってしまえば俺は手を離せざるおえなくて、手を下ろした。
俺の気持ちがわかってもらえないのではないのはわかる…けれど、納得できないんだ。
リボーンが行くことでもない話なのに。
誰か、戻ってきたら済む話なのに…。
「ったく、仕方ない奴だな」
リボーンはため息をつくと、ごそごそと何かをとりだした。
そして、俺の目の前で手を差し出して、その手の上に乗っていたのはレオンだった。
レオンは俺を見るとなんだか悲しそうにこちらの肩に乗ってきた。
俺はリボーンを見た、レオンはリボーンの相棒だ。いつも一緒で一緒にいない時は俺といる時ぐらい。
いつもどこかにいる相棒をこちらに預けていくのかと信じられない気持ちだ。
「レオンを預けていく」
「そんなことしていいの?」
「ピーピー泣いてるボスなんか心配でたまらないだろ」
なぁとレオンに話しかけると若干頷いているように見えたのは目の錯覚か…。
むっとリボーンを見れば触れるだけのキスをした。
驚いて執務室なのにと辺りを見回せば隼人はすでにいなかった。
「人目を気にするぐらいなら、泣くのを止めろ。ボスはもっと胸張ってろ。俺は帰ってくる。心配すんな」
くしゃりと頭を撫でられて自信満々に笑うリボーンにつられて笑みを浮かべる。
ついでのように頬についた涙を拭ってリボーンはキャバッローネへと向かっていった。
リボーンが向かってから数日。
臨戦状態が続いたが、リボーンの戦力があってか二日の内にあっさりと片がついた。
無事だと連絡を受けた時は本当に安心した。
誰にも傷がないことがこんなにも安心できる。
「よかったぁ…レオン、もうリボーン帰ってくるからな」
レオンにペットフードを与えながら頭を撫でた。
レオンはというとリボーンが置いていってからずっと俺の近くにいた。
リボーンがいないことになにかしらパニックになるかと思えばそうでもなく、ただ俺を安心させるためにかわからないが、近くを離れなかったんだ。
それも今日で終わりだ、もうすぐリボーンが帰ってくる。
そしたら、玄関が開いた音が聞こえた。
レオンは俺の肩に乗り俺は執務室を出た。
階段に差し掛かったところでリボーンと鉢合った。
「リボーン、おかえり」
「ただいま、待ちきれない位だったのか?」
「あ…いや、これは……」
つい、執務室で待っていればいいものを出てきてしまって、それをリボーンに指摘されて俺は視線を泳がせながら言葉を濁したのだが肩に乗っていたレオンはリボーンの方へと飛び移った。
「レオンは待ち切れなかったみたいだが?」
「う…それを言うのかよ」
レオンはすぐに自分の居場所へと移動してしまい、リボーンは俺を見ると両手を広げてきた。
なんだよと視線で問えば、手を広げたまま待っている。
「こないのか?」
「こ、こんなところで」
誰の目にも映りかねないこんな廊下のど真ん中で何をさせるんだと言えば、執務室で泣いた奴が何を言うと言い返された。
悔しくて唇を噛むのに、リボーンは笑顔のままでいる。
「もうっ…」
「抱きつきたいなら素直になれ」
そんなんじゃないのにと思うのに、身体が勝手に動いてリボーンを抱きしめてしまう。
ぎゅっと抱きついた感触はしっかりとしていて無事だとわかったらため息が漏れた。
「リボーンはこれから絶対安静、怪我まだ治ってないんだろ」
「シャマルに聞いたか」
「ばかっ、何かあったらどうしたんだよっ…嘘つくな」
すまんと耳元に聞こえて、宥めるようにキスをされた。
充分甘い時間を堪能した後なんだか背中に視線を感じて振り返る。
「やっと気付いたかい?」
「ひっ…雲雀さんっ」
「ああ、一緒に帰ってきたからな」
「なぁ!?…はやく言えよっ」
「まぁ、こっちは報告書渡したかっただけだから。はい、ごゆっくり」
なんでこんなにもあっさりしてるんだろう。
っていうか、今の全部って…ぜんぶって…。
俺は信じられない気持ちで意識が遠くなるのを感じた。
もう、今の記憶全部消したい…。
リボーンが帰ってきた安堵をすっかりそがれてしまって、暫くの間俺はキスをするにもまずは背後を確認してから、を忘れなかった。
END
みらさまへ
甘くて切ないお話でした。
甘くも切なくもなってないですね、ごめんなさい。
もっと精進します。←
リクエストくれたのにうまく消化できなくて本当にすみませんでした。
気に入らなかったらもう、何度でも書きなおさせてもらいますのでっ←
改めてリクエスト有難うございました。