俺は視線を感じてそちらを振り向いた。
すると、そこにはツナ。
俺と目が合うとすぐに逸らされてしまう。
一体何がしたいのか、仕事に追われていた俺はツナのことなど考えもせず、再び仕事へと打ち込んだのだった。





自制心と抑えきれない衝動



珍しく俺が忙しかったのには理由があった。
それは、俺に長期任務があてられていたからだ。
なるべく早く終わらせようとしたのだが、長期と言うだけある。
短縮できたが、やはり自分の仕事が溜まってしまっていたのだ。
ツナのことなど構うことができずに日々書類と睨みあう。
俺が帰って来てから一週間が経った。
相変わらずツナのことを放っておいたら、最近よく俺を見つめていることがある。
何かあったのかと首を傾げるが特に問題はなさそうだ。
けれど、日に日にその視線の強さが増していく。
あからさまに逸らされるのも苛立ちが募ってきた。
そして、また…俺が仕事をしていると感じる視線。
俺は顔を上げる、けれど逸らされる。
一体何なんだとため息を吐いた。

「ツナ、何か言いたいことがあるのか?」
「え…あの……いや、ないよ」
「無いなら仕事に集中しろ」

特にないと聞けば仕事中だから少しは集中してくれと俺にしては珍しい注意をする。
あまりそういう注意をツナにはしたことがない。
大体、俺がツナに手を出すことが多いから。
それを許しているツナに言うのは少し心苦しいものがあったが、今自分の置かれている状況なら仕方ないと自分に言い聞かせた。
俺は俺で忙しいのだ、ツナも俺にばかり見ているのも時間の無駄になるしな。
俺は勝手にツナの気持ちを決めつけて仕事を続けていたのだった。




俺はリボーンに言えないことがある、
仕事の配分を間違えて、リボーンに長期任務の穴埋めをしてもらった。
そこまではよかったのだ。
けれど、帰って来てからと言うものリボーンに全く構ってもらえなくなってしまったのだ。
俺の責任だし、早く溜まった仕事を終わらせろとは言えない。
でも、触られない…スキンシップがないと言う状況は俺の胸を締めつけた。
少し触るだけでいい、頭を撫でたり、手を繋いだり。
そんな些細な接触でいいのだ、だが今はそれもない。
日に日に欲求を募らせていき、俺はいつのまにかリボーンを目で追ってしまっていた。
そのたび、リボーンは俺に気づいて視線を向けてきてくれた。
けれど、忙しいのにリボーンの手を煩わせてしまってはいけないと思う。
だから、俺は視線を逸らすことしかできなくて、仕事に集中しろと言われてしまう始末。
いつもはリボーンが俺に手を出してくるのに…。
そう思うと、それほど大変なのかな…と寂しくなる。

「十代目?顔色が優れませんよ?」
「えっ!?…べ、別に何でもないのにな…大丈夫だよ?」

隼人に声をかけられて問いかけられる。
俺は慌てて自分の状態を確認すると首を振って苦笑を浮かべた。

「心配掛けたらごめんね、俺は何でもないから」
「そうですか、ではココアでも淹れますね」
「え、いいよ…俺別に」
「疲れは身体によくありませんから」

有無を言わせぬ笑みを浮かべられて俺は大人しく引き下がるしかない。
部屋を出ていく隼人の背中を見送って、そのあとすぐにリボーンに視線を移す。
なんとなく、疲れた横顔だ。
それもそうだろう、任務から帰ってからリボーンはあまり寝ていない気がする。
俺と寝るのも今は別々だし、だからこそ触られないと言うことが俺にとってストレスになっていく。
けれど、我儘ばかりも駄目だ。
いつもリボーンは俺を応援してくれていた。
だから、俺がリボーンの足を引っ張ってはいけないんだ。
リボーンの仕事が一段落つけば俺を構ってくれる。
もう少しの我慢だ…大丈夫。
俺は自分に言い聞かせるようにして今感じている胸の焦燥を抑えつけた。




ツナの視線を感じるようになってから三日。
俺はようやく少し余裕ができてきた。
そうして、気づいたのだ。
俺はツナのことを構ってやれていなかったということを。
だから、必要以上にこちらを気にしていたのか。

「ツナと寝たの…いつだ?」

俺は額に手を当てて項垂れる。
多分、甘えるのを我慢していたのだろう。
いつも自分のしたいことを言うくせに、俺が忙しいとか手が離せないとかだと途端に遠慮する。
俺は忙しいのだから言わなければ気づかないのに。
いや、気づかないからそのままにしたのか…。
そういうのに気づくのも俺の仕事であるのに、恋人を放っておくなんて最低だなとため息を吐いた。

「仕方ない奴だな」

今ツナは席をはずしていて、部屋には俺一人。
机の上の書類は粗方片付いている。
探しに行くかと俺は顔を上げると立ちあがった。
最近はずっとデスクワークだったからか足や腰が堅い。
そんな疲れにも気づかないほど俺は机にかじりついていたのだと知らされる。
俺は部屋を出ると、キョロキョロとあたりを見回してツナを探した。
だが、トイレにも食堂にもいない。
行きそうなところを探しているのに、全くはち当たらないのだ。
さてはまたサボっているのかと気配を辿っていくと、自室の方にあった。
だが、ツナの部屋ではない。
そこにあったのは、俺の部屋だ。
俺はドアノブを握るが、そっと音を立てないように回した。
音を立てずに入り込むと、寝室のドアが開いている。
そこにいるのかと、近づいたのだが何の声もしない。

「何してんだ?」

小さく呟いて、そっと半開きのドアを押して開ける。
そこから中を覗き込むとツナがベッドに寝そべっていた。
ん?と俺は首をかしげる。
一体何をしているのだろうか。

「ツナ?」
「へっ!?あれ?り、リボーンッ!?」

声をかけると寝ていたわけではなかったようだ。
慌てて身体を上げると俺のことを確認するなり、逃げ道を探しているようだった。

「べ、別に…俺はリボーンの匂いを嗅ぎにきて安心してたりしないからっ、ただ…ちょっと休憩って言うか……えーっと、その…サボり、そうサボってたんだ」
「あのなぁ、全部自分で暴露してんぞ」

少し落ち着けと笑ってやる。
まったく、嬉しいことをしてくれる。
俺が構わないせいで変態趣味に走ったのには少し驚いたが、それほどにまで溜めこませていたのがわかれば充分だった。

「まぁ、サボってたって言うなら…お仕置きが必要か?」
「…え?」
「それとも、お仕置きしてほしかったのか?」
「ちがっ…そうじゃない」
「だめだ、俺はサボりには厳しくしてるんだからな」

ニヤリと笑えばツナの顔に怯えが混じる。
けれど、俺が構うのが嬉しいのか本気で嫌な顔をしない。
そこまで俺はツナに我慢を強いていたのかと逆に思い知らされて、またため息を吐いた。

「三時間拘束だぞ」
「拘束って…」
「動けなくするに決まってるだろ」

するとツナの顔から血の気が引いた。
多分机に縛り付けられるのを想像しているのだろう。
俺が言っているのはそうじゃない。
俺はベッドに座っているツナに近づくとギュッと抱きしめた。
一瞬、ツナは拍子抜けした顔をして驚いていたが、俺が背中を撫でた途端うあ…と呟いてぎゅぅっとしがみついてきた。

「放っておきすぎたな」
「そ、俺の…せいだから」
「お前も少しぐらい我儘言え」
「言えないよ…だって、リボーン忙しかったんだろ」

あやすように身体を揺らしながら静かに何も言わないことを咎めればむすっとした顔で言い返してくる。
それでは、忙しくしていた俺の責任みたいじゃないか。
いや、実際そうだったのだがツナが俺に言い返してきた反応こそが甘えであると知っているから安心する。
とりあえず、これで少しは回復してくれるだろうか。

「他にしてほしいことはあるか?」
「でも…」
「溜めこんでないで言っちまえ」
「じゃぁ…きす……」

顔をあげてねだる声に俺は笑みを浮かべて応えてやる。
優しく触れ合わせた唇から伝わる甘えた雰囲気にもっとと舌を入れたのは俺の方だった。
自分も我慢していたのだと重くなる身体に俺はツナを押し倒した。
ベッドに二人して横になり忙しなく唇を重ねた。

「んんっ…ふぅ……んっ………っあ」

熱くなる身体をもう少しだと抑えつけて、ツナの横に寝転がる。
途端に名残惜しい声が上がって、つい、俺はツナの口を掌で塞いだ。

「これ以上喋るな、俺にはまだ仕事が残ってんだ」
「ん、ごめん」
「終わったら…たっぷり可愛がってやるよ」

クシャリと頭を撫でればそれだけでツナの顔は嬉しそうに綻ぶ。
面倒なやつだと思う、けれどその面倒くささが俺には心地いいんだ。
もっと、愛させろ。
もっと、大事にして…俺のために泣かせる。
少々傲慢だろうか…そんなことはないはずだ、ツナもこれぐらい普通に思ってそうだからな。
無意識に抑えつけた衝動。
あと、もう少しの辛抱だと自分にも言い聞かせる。
今はただ、近くの温もりだけを全身で感じていたかった。



END
くぅちゃんへ
リクエスト、リボーンに甘えたいのに我慢するツナ、でした。
どうでしたか?ご期待に添えられていたら良いのですが…。
改めて、リクエストありがとうっ。
つい、間違えて裏方面に行こうとしたことはここだけの話しにしておいてね☆
いつもリクエストしてくれてうれしいです。
ちょっとリボーンが甘くなりすぎた気がしないでもないけれど、もっと鬼畜な感じがよかったら言って下さい。
無理だけど、誠意を持って書き直させてもらいます←
あと、もし誤字があったら…言ってね。今度は言ってね←
いつも優しくしてくれて、ありがとうっ。




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