「うぇ…りぼーん、はやくかえろうよぉ」
「今帰ってるだろうが」
俺の前を歩くのはツナ、今は缶ビール片手にふらふらと足取りがおぼつかない。
呂律も回らない。
でも、俺は静かにそれを斜め後ろから眺めていた。
ツナは笑ったりして楽しいようだが、目が笑ってない。
俺がこいつをこんなに酔わせたのも理由がある。
それは、数時間前に遡る。
デイ・ブレイク
「ツナ、なんか考え事して仕事すんな、余計はかどらないだろ」
「そんなこと言われたって、俺だって色々考えること、あるんだよ。リボーンには到底分らないだろうけどねっ」
「わからない?言えばいいだろうが、簡単だろ」
「それを察してほしい時もあるんだよ、なんでこういう時ばかりわかってくれないんだよ」
ツナの手の進み具合を咎めたのだが、いつの間にかよくわからないことで喧嘩になっていた。
そのまま口げんかが始まりそうになって、周りがざわつき始める。
忙しい時期で他の面々も夜遅くまで仕事に追われていたのだ。
その雰囲気を感じてしまえば、俺はツナの腕を強引に引っ張っていた。
わかってくれない、という言葉に傷つきもしたし、俺に八つ当たりしてしまうほどツナの中に溜まっているストレスの正体を吐き出させてやりたいとも思ったのだ。
俺が怒っているのが嫌なのか、抵抗して嫌がるのを強引に酒場へと連れてきた。
こういう時は酔ってしまえばいい、何もかも恋人というのも俺がヒットマンだと言うことも、忘れて全部そこに溜まっている物を吐きだせばいい。
そうして、ビールを飲ませ始め。
最初は渋々と言った様子で飲んでいたがドイツ製のそれは日本人であるツナの身体を容易く酔わせていったのだ。
そうして今に至る。
閉店間際まで飲むと言って仕方なかったツナに、店主は最後にこれで終わりにしてくれと缶ビールを渡したのだ。
俺はそれを見ていただけだった、金は払って俺は少し飲んだ程度で酔うこともしていない。
ただ、ツナをああまで疲れさせている原因を知りたいだけだ。
俺がわかってやれたら、なんてことはいつも思っていることだ。
けれど、こいつは俺の予想外なところで落ち込んでいたりする。
それは本当に些細なことであったり、どうしようもなくなってしまっていたことだったりいろいろだ。
「ツナ、あぶないぞ」
「いいんだもん、おれはぁ…へいきなんだ、から」
またビールを煽って俺の注意も聞かずに一人先を歩く。
寂しくはないのかと、俺は背中を見つめた。
下手すればツナは、もう独り立ちできるぐらいに成長していて置いて行かれているのは俺なんじゃないかと思わせられることもたびたびある。
だが、それを平気な顔していれるのはいつもツナが俺を頼っていてくれるからで。そんなツナを疲れさせることなどさせたくはないのだ。
そこへ、車が通りツナが車道へと近づいているのを見て俺は慌てて手を差し出した。
グイッと腰を引き、自分の方へと身体を寄せる。
「もっ、やだって…」
「いやなのか?本当に?」
「りぼーん、へんなかお…なにかんがえてるの?」
ツナはだだっ子のように俺のことを拒否して、俺はそれに問い詰めるように聞けばくすくすと何が楽しいのか笑って俺の顔を覗き込んでくる。
別に何も考えていない、俺はお前だけなんだ。
きっと、お前が思うよりずっと俺はツナを独占したくて独占してもなお満たされなくてやきもきしている。
「よしよし、おにーさんが慰めてあげよう」
「なにが、お兄さんだ」
「年齢的には、俺の方が上でショ?」
はっきり言えば慰められるべきはお前なんだ。
背伸びをして頭を撫でてくるツナに俺はため息を吐きたくなった。
良いところで止めておけばよかったと今更ながら後悔もしている。
とりあえず、ツナはうきうきした目で見ているし、適当に話を合わせた方がいいのか?
本当に、面倒だと思いつつ、面倒なことも嫌じゃないから本当に俺はこいつが好きなんだなと思わせられる。
「うちのボスが、なんか溜めこんで俺に隠し事してんだ。こういう場合は、どう対処したらいいんデスカ?」
「…へっ?」
「おら、答えろよ」
一瞬なにかわからない顔をした後、ようやく言葉の意味を理解したのか間抜けな声をあげている。
そんな風に誤魔化しもきかないんだと急かすように抱き寄せる腰に力を入れてもっと近づいてみる。
顔が近づいた分、ツナの頬が酒気ではなく赤くなっている。
「そ、それは…」
「それは?」
視線を逸らされてそれも許さないと立ち止まり頬を掴んで自分を向けさせる。
意地でも向き合う気で行くと、ツナは唇をもごもごとさせて言いづらそうに開閉させている。
なんだ、そんなに言いたくないことなのか。
それとも言えないのか。
ずっと見つめているとようやく観念したのかはぁと一回肺に溜まった息を吐きだした。
「きす…とか、してくれたら……あんがい、簡単に…いっちゃぅんんっ…」
恥ずかしそうにつっかえながら、それも小さい声で言われた言葉に俺はここが公道だと言うことを忘れて口付けていた。
アルコールの残る咥内は、はっきり言って最悪だった。
けれど、舌を絡ませるたびに感じたようにくぐもった声を上げるツナに、煽られていた。
「はっ…言う気に、なったか」
「…立てなく、なりそ…だった」
ばか、と小さい声で俺の服を掴むようにしながら必死に力を入れて立っている様子のツナに笑みを浮かべた。
そういえば、最近俺はこういう接触を久しくしていなかったことに気づく。
こうなっている理由も仕事が忙しかったからだ。
夜遅くまで仕事をしているので、お互い風呂に入れば速攻で寝てしまうという、なんとも色気のない日々を送っていた。
俺はそこで、ああと気づいた。
…間抜けは、俺の方だったか。
忙しさで恋人を構うのも忘れてしまうだなんて、どうかしていた。
「すまん、ツナ…」
「何が?俺はこうして、リボーンにさわってもらえただけで、まんぞくだよ」
へへっと笑って缶ビールを俺に手渡して、もう一度今度はツナからキスをされる。
ちゅっと触れるだけのそれをもらえば照れくさそうに笑って、ぎゅっと俺の手を握ってくる。
「おれはさぁ、だいじょうぶだけどさぁ…リボーンから、そうやって…ちゅーとかしてもらったら…もっとがんばれるよ」
「ツナ…」
「おれはさぁ、はずかしくて…そいうこと、いえないかもしんない…けどさ、リボーンはわかってくれてるって…おもいたいんだ」
我儘でごめんね?と謝ってそれから自分で唇を噛んで俯いた。
小さく肩が揺れて泣きだしたんだと、俺は感じた。
いつもよりずっと簡単にぽろぽろと涙がアスファルトに落ちていく。
「わがまま、だって…しってるよ。ふっ…じぶんで、ちゃんとわかってるよ…あまえてばっかでいいのかって、いっつも…さ」
「俺が良いって言ってんだから良いに決まってるだろ?」
「だって…それは、おれについた優しい嘘、かもしれない」
「そんなこと」
「ないって、言いきれないだろ?…リボーンは嘘つくのうまいから…こわいよ」
優しい嘘と言われて言い返せなかった。
俺はツナの知らないところでは色々と根回しをしていたりするからだ。
こいつが少しでも汚いところをしらないでいれればいいというどうしようもないエゴ。
それを、ツナは薄々気づいていたのだ。
こんなに近くにいてしられないと言うもの難しい話だが、そんなことでそんな思い詰めないでほしいと思った。
俺は俺のやりたいようにやっているだけだ、好きだから…嘘をついても良いだなんてことはない。
けれど、こいつの笑顔がいつまでも見れると言うならそれぐらいどうということでもない。
それで、ツナが不安がっていたのなら元の子もないけれど…。
「お前は、甘えてないだろ?」
「…え?」
「俺は、もっとぐずぐずに俺だけのもんにっとけって思うぐらい甘やかしたいんだ。それなのに、お前はいつもそうやって俺の手を抜けて独り立ちしようとしてんだろうが」
「してないよ、俺は…いつも、りぼーんの…となりから、離れられてない」
ツナは必死に俺に伝えてくる、呂律も回らなくてときどき言葉も途切れて考えもまとまらずに話しているせいか支離滅裂だけど、握ってくる手だけは確かで…離れたくないと指を絡ませてくる。
それは、まるで離さないでくれと縋っているようにも見えた。
「りぼーん、はなしたら…やだ。ずっと、いてくれなくちゃ…けんか、なんてしたくない…おれは、りぼーんがいてくれなくちゃ…やだぁ」
話しているうちに止まったと思っていた涙はまた溢れて今度は感情のぶれも激しいらしくひっくひっくとしゃくりあげてしまっている。
子供がえりしてるな、と苦笑して俺はツナの手を引いて歩き出した。
「りぼーん、りぼーん…おこんないで」
「怒ってねぇ」
「だって、みてくれないじゃん…おれに、あきれたんだろ」
こんな風に思ってる俺のことを馬鹿だと思ったんだろと背中に浴びせられる言葉にまったくこいつはと笑ってしまった。
酒を飲ませると碌な酔いかたしねぇなと呆れながら振り向けばツナの顔はすっかり涙まみれだ。
さっきまで笑ってた奴の顔じゃない。
「ったく、この繋がってる手を見てからいえ。俺はなにも嫌がってないだろ?ここは道路だ、帰ったら嫌ってぐらいキスもしてやるし、その先もお前の言うまま全部してやる。ついでに、俺の吐き出したもん全部ツナの中に注いでやるから覚悟しとけ」
「………うんっ…」
俺が投げやりに早口でまくしたてると、しっかりと意味を理解したツナは、また泣きだして結局帰るまで涙を止めることはできなかった。
地平線の向こうに夜明けの兆しを見て、なんだか全部を吐きだし終わったような安心感に捕らわれる。
結局溜めこんでいたのは俺も同じで、小さくため息をはいた。
何も言わないですれ違いを生んでしまうよりはいい。
嫌いじゃなく、好きすぎてのことなのだ…そんなことで言い合える俺達は…すごく、幸せなんだ。
「ツナ、好きなんだ」
「……」
「俺は、お前のことが好きで、しかたない」
自分でもどうにかなってしまいそうだと言ったら、泣き笑いを浮かべたツナは一言。
「俺も…」
と返しただけだった。
でも、それがんなんとなく仲直りの合図だったような気がして、もともと喧嘩をしていたのかも怪しいが…仲良く、屋敷へと戻ったのだった。
まぁ、当然帰った後守護者たちからこっぴどく叱られたのだが、それを覚えているのは、結局俺だけだった…。
END
八万ヒットありがとうございます。
これまでちびちびとゆっくりやってきましたが、設定した枠にリクエストをしっかりもらえたり、相互サイト様には優しくしてもらったりと本当に自分は恵まれているなぁと日々感じます。
こんな、人間と仲良くできるかもわからない生物に優しくしてもらったり拍手してもらったりコメントしてもらったり、もうね…ありがたいかぎりです。
まだまだ全然、なんにも未熟過ぎでどうしようもないサイトと私ですが、これからも縁があればお付き合いいただければと思います。
このたびは、本当にありがとうございましたっ。
これからも、精進します。