惚れた弱み

「リボーン」
「なんだ、重い」

夏真っ盛りな昼間、俺はあまりの暑さに耐えられずリボーンの背中にのしかかった。
暑いと言っても、部屋は空調が効いてるし汗をかかない程度には快適温度だ。
けれど、外から入ってくる日差しが気分的に暑くする。
俺はシャツの前を開いてできるだけ涼しくなろうとしているのだがそれとは正反対にきっちりと服を着ているリボーンは鬱陶しそうに呟いた。
だが、振り払われないってことは別に嫌じゃないんだ。

「ねぇ、アイス食べたい」
「自分でいけ」
「お願いおねがい、リボーン…一緒に行こう?」

冷たい態度で新聞とにらめっこをしているリボーンの耳元で甘く囁いてちゅっと音を立てて頬にキスをする。
そしたら、それだけでは物足りないとばかりに襟を引かれて深く口づけられた。

「んんっ…ふ…もっ…」

舌を入れて咥内を舐めまわすようなそれに俺は慌てて肩に手をついて突っ張った。
これ以上されたら反応してしまうと思ったからだ。
リボーンに触られるようになって、この身体は敏感になった。
リボーン限定だが…これもきっと、リボーンが俺の扱いをうまいから。
今だって、俺が嫌がればすぐやめるのに、止められたら欲しくなって見つめていると今度は優しいキスをされる。
ほんと、俺のことをよくわかってる。
……って、こんなんで誤魔化されないっ。

「リボーン、ジェラートだってば」
「…ったく、仕方ねぇな」
「どうせ一人で行こうといても怒るくせに」
「あ?」
「なんでもない」

ほらほら早くと急かして部屋から出ようとすれば俺はさすがにリボーンの服を引っ張った。

「なんだ?」
「上着は脱ごうよ、絶対暑いから」
「俺は別に構わねぇけどな」
「俺は気になるんだ」
「お前は前を閉めろ」
「あ、忘れてた」

リボーンは渋々上着を脱いで、俺も少し控えめに二個ボタンを開けて部屋を出た。
暑い日まで無理して着なくてもいいと思うんだ。
涼しい顔をしているリボーンはそれが苦痛じゃないかもしれないが、見ているこっちとしては、早く脱げと言いたくなってしまうのだ。




街までくるといろんな店がにぎわっていて、昼間だと言っても店内は涼しいから客足は絶えないようだった。
俺はリボーンの隣を歩きながら食べ物の店にばかり目を奪われる。
昼食もしっかり食べたのに美味しそうなものがあれば食べたくなる。
所謂別腹というやつだ。
リボーンのシャツを引っ張って俺はアピールする。

「ねぇ、あれ美味しそう」
「肉なら昼に出ただろ」
「じゃあ、あっちは?」
「菓子はもう少しあとにしとけ」
「なら、あそこ」
「ケーキ…ジェラート食いに来たんだろ?」

俺の指さすモノ全部却下されて少しつまらない。
確かにジェラートを食べに来たのだけれど、こうも沢山食べ物があると目移りして決心が揺らぐ。

「迷うよ」
「今更、他のにするなんて聞かないからな」

リボーンは俺の呟きを無視する形で俺のシャツを掴んでいる手をそのままにすたすたとその店達を横切っていく。
俺は最後まで視線で追っていたが、リボーンにさりげなく腰を引き寄せられて小さく声をあげた。

「嫌なのか?」
「違う…けど、俺がどうやって誘ってもしないのに、こういう時ばっか…甘やかす」
「そういうのは、好きだろ?」

わかったように言われてあながち嘘じゃないから照れて赤くなる頬を隠すように俯けた。
すると上から、クスリと笑う気配がする。
そのまま誘惑する店達を過ぎていき、ジェラート専門店へと入る。
甘い物、といえば女性。
どこの誰が形容したのかしらないが、そのせいで俺達は結構浮いた。
それにリボーンは無駄に顔が良いせいで女性の標的だ。
そこかしこから視線を集めて、いつのまにか俺とリボーンは引き離されてリボーンはナンパされている。

「…なにあれ」

自分がモテないのはわかっているが、リボーンは女性に囲まれ鼻の下を伸ばしているのだ。
向こうの会話は聞こえないけど、そう見えたのだから仕方ない。
俺はムッとしてこっちを見向きもしないリボーンを無視してジェラートのショーケースを覗き込んだ。

「何にしようかな…」

美味しそうなものが数十種類並んでいて、何にしようか悩んでしまう。
三段ぐらいにして三つの味を楽しむのもいいが、大きいのを一つにして一つをじっくり食べるのもいい。
うーん、と眺めていると店員に気づかれ試食しますかとイタリア語で話しかけられた。
俺は少しわたわたとしながら結構だと伝えた。
試食させてもらえるのは嬉しいけれど、自分はイタリア語にはまだ慣れていない。
今でもジェスチャーを交えながらが精一杯なのだ。
それでもやってこれているのは、リボーンや隼人や骸といった面々のおかげだ。
大抵通訳してもらえるのだ。
リボーンの場合は、ああだから自分でしないといけないことが大半だけれど。
まぁ、俺はジュラート食べたかっただけだし…
リボーンは食べたくなくて俺についてきてくれているだけなのもわかっている。
けれど、二人で外出はいつもデートみたいで嬉しいと思っているのは…多分俺だけで、ちょっと寂しい。

「…もう、なに考えてるんだよ…」

こんなところまで来てへこんでどうすると自分に言い聞かせ、三種類を選ぶことにした。
ストロベリーとレモンとチョコミントだ。
組み合わせは考えず、涼しくなれそうだと思ったもので選んだ。
嬉々としてそれを受け取り、会計を済ませるとリボーンを振り返った。
リボーンはすぐに俺に気づくと外に出るぞと視線で合図してくる。
意外にも見られてたんだな…と少し恥ずかしくなりながら店をでると日陰を探して歩きつつ、暑いなと呟いた。

「さっきは平気そうだったじゃんか」
「女に囲まれて暑苦しかったんだ」

それは幸せな悩みだなとじとっとした目で見ていたらリボーンはネクタイを緩めてボタンを二、三個外した。
俺はそんな仕草に釘づけになりそこから視線を外せなくなる。
すると、それに気づいたリボーンは髪をかきあげながら何見てんだ?と首を傾げてきた。

「なっ、なんでもないっ」
「…お前、まさか」
「ちっ、違う…ネクタイ緩めたのかっこいいなとか思ってないっ」
「…思ってたのか」
「ちがっ…だから、そうじゃなくて」

慌てて言葉が上手く口から出ない、リボーンはにやにやと笑っていそうな声で俺の腰を抱き寄せてさっきしたのより強引に身体をくっつけてきた。
こんないろんな人目があって、その中に女性もいて、リボーンに絶対好意をもっている人もいる中でこんなことされたら…どうにかなりそうだ。
俺は必死でもがくのに、手に持ったジェラートが心配で大きく振り払うことができない。

「ツナ、そんなに暴れると落とすぞ?」
「なっ、リボーンが…リボーンが変なこと言うから…」
「なら、キスすればいいのか」
「どういう理屈だよっ、やめっ…こんなとこじゃ…んんっ」

リボーンは上機嫌のまま顔を近づけてきて、嫌だともがこうとすればジェラートを持ってる手首を掴まれてそのまま口づけられた。
部屋にいたときと同じ舌を絡ませてくるそれに、俺は内心でばか、変態、エロ魔神と罵るがリボーンはたっぷりと咥内を味わってから離れた。

「レモンはいいが、チョコミントはしつこくないか?」
「……っ…ばかっ!!」

少しでもネクタイを緩めたリボーンにときめいた俺がばかだった。
っていうか、服を乱した姿も恰好よかったなんて言えない。
俺はリボーンを置き去りにするように足早に日陰のベンチに座った。
すると、リボーンも隣に座る。

「さっきは俺を放置したくせに」
「店のことか?あのまま俺が引きつけてなかったらお前はまともにジェラートを選ぶこともできなかっただろ?」
「え……もしかして、引きつけててくれた…?」
「どうせ恥ずかしくてなんでもいいから、とか言いだすだろうと思ってたからな。俺はこの顔だし、寄ってこねぇレディはいないんだぞ」
「…ああ、そう」

ふざけて言うから感謝するタイミングを失ってしまった。
俺の為とか…なんだよ。
ますます照れるじゃないか…。

「ツナ、早く食わねぇと落ちるぞ」
「あ、リボーンも食べる?」
「レモン」

暑いのならと差し出せば口を寄せてくる。
食べさせるのかよと笑ってジェラートを近づけるとレモンの部分だけを食べている。
チョコミントは気に入らなかったようだ。
俺は上から順番に食べるので必然的に一番下にあるストロベリーは最後になってしまう。
食べ終わる頃にはやっぱりワッフルの隙間から流れ落ちたもので手をべたべたにしてしまった。
それをリボーンは舐めようとしてきて俺はそれだけは止めてくれと手をひっこめる。

「汚いっ」
「お前は食い汚いだな」
「うー…なんだよ、お前は俺をどうしたいの?悲しませたいのか、甘やかしたいのか」

さっきから浮き沈みのする行動と会話に痺れを切らして言えば、自分でも気づいてなかったのか少し悩む素振りをして、首を傾げた。

「なんだろうな、惚れた弱みか」
「は?なんでそうくるの?」
「お前の泣き顔も、笑った顔も、俺のものにしたいってことだ」

そんなの今さらだ。
リボーンはこんなに鈍感だっただろうか。
くすくすと笑ってべとべとになった指を唇に押し当てた。

「なんか時々、リボーンって年上なのか年下なのかわかんない」
「恋は盲目って言うだろ?」
「まぁ…ね」

リボーンは俺の指を舐めて、俺は微かに欲情を煽られる。
こんなところでと思うのに、かわいいようなかっこいいような恋人に愛おしさしか感じなくなってきた。
それは多分、俺がリボーンのことをすごく好きだからだ。

リボーンより、なにより…俺が好きだから。
きっとお互いが思っていること。
でも、少しでも相手より大きな愛情で抱きしめてやりたいと思っているから、自分の中では自分の方が愛情が強い。
そうやって、何でも許してしまって、なんでも好き勝手して、二人の世界を作ろう。
いけないことでも、お前と二人なら…。





END
くぅちゃんへ
リクエストありがとうっ。
ネクタイを緩める先生にときめくツナ、を書かせてもらいました。
幼なじみにしようかと思ったんだけどネクタイって、と思って十年後にしてしまいました。
十年後だとスーツは通常装備なのです←
気に入らなかったら遠慮なく言ってくれていいからねっ、書き直す準備はばっちりだ←
いつもサイトに来てくれてありがとう。
これからも、よろしくご贔屓に(笑)




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